=たんぽぽ舎です。【TMM:No4082】【TMM:No4084】「メディア改革」連載第49回=
◆ 「尖閣へのコミットメントを確約」発言は捏造だった
◆ キシャクラブメディアの菅・バイデン「電話協議」報道
◎ 菅義偉首相は11月17日、コロナ禍の中、訪日したオーストラリアのモリソン首相と会談した。テレビは「就任以来、国内での初の外国首脳との会談」「準同盟国として協力」と大本営発表報道を展開している。モリソン氏は、「中国の脅威」を叫んでいる対米隷従、新自由主義の保守指導者で、非同盟路線をとる東南アジア連合(ASEAN)から警戒されている。
安倍晋三前政権は今年4月、習近平中国主席を国賓として迎えるはずだった。コロナ禍で延期されているだけで、モリソン氏が来日できるなら、まず、習主席を招くべきなのに、菅政権誕生で影響力を強める外務省は「反中国」外交に熱心だ。
マスメディアは菅氏の12日のバイデン前米副大統領との電話会談も派手に報道した。菅氏に政権を委譲した安倍晋三前首相が「100%信頼する」としていたトランプ大統領は未だに、「大統領選に勝った」と言っているのに、菅氏は官邸での番記者のぶら下がり取材で、バイデン氏を「次期米大統領」と呼んだ。
バイデン氏が当選を確実にしているのは事実だが、トランプ氏との信義もあるのではないかと思う。過去は振り返らず、「勝ち馬に乗る」無節操な男だ。
新聞、テレビ、通信社は、両氏が日米同盟強化で一致し、「バイデン氏は沖縄県・尖閣諸島への(防衛義務を定める)日米安全保障条約5条の適用を明言」「両氏は『自由で開かれたインド太平洋』の実現で合意した」と報じた。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20201112/k10012707441000.html
https://news.livedoor.com/article/detail/19208848/
◎ 11月13日のテレビ朝日「羽鳥モーニングショー」で、菅・バイデンの「電話会談」を取り上げ、羽鳥慎一キャスターはパネルに朝日新聞の峯村健司編集委員の「次期大統領に尖閣の防衛義務を認めさせたのは大きい」などとする発言を紹介。吉永みち子氏は「中国が攻勢を強める中、通常は儀礼的な電話になる時に、日米が協力して尖閣に対応すると合意したのはよかった」と発言した。
元外交官で内閣官房参与の宮家邦彦氏は17日のフジテレビ「イット」で、「バイデン氏から尖閣にコミットするという言質を、この段階で取ったのは大きな成果。中国はさぞ焦っているだろう」などと解説した。安倍政権の人間にニュース解説させるのは不適切ではないか。
◆ バイデン政権移行チームHPに「尖閣」の文字なし
◎ キシャクラブメディアは、菅氏が番記者に「日米安保条約第5条の尖閣諸島への適用につて、コミットメントする旨の表明があった」と表明したのを垂れ流した。
ここで重要なのは、菅・バイデンの電話協議の場に記者は1人もおらず、番記者は録音も聞いていないとうことだ。
つまり、非公開の密室で行われた電話協議の報道はすべて、菅氏と坂井学官房副長官(菅氏側近で、菅氏の総裁選出馬会見で司会を務めた)からの伝聞情報に基づいており、「裏取り」が皆無なのだ。
その後、一部報道で、バイデン氏は「日米同盟の強化」や「日米安保条約5条」については言及したが、「尖閣諸島」という言葉は全く使っていないことが分かった。
バイデン氏が「尖閣」有事の場合、コミットすると約束したというのはウソだったのだ。
私が最初に見たのは東京新聞(デジタル)の<バイデン氏は「尖閣」にも安保条約適用表明も米側発表には含まれず 菅首相と初の電話協議>という見出し記事(11月12日21時28分)だった。
<米側の発表では、安保条約5条には触れたが、尖閣諸島への言及は含まれていない>という記述だ。
https://www.tokyo-np.co.jp/article/68050
自公政権寄りの夕刊フジのデジタル版(11月13日16時58分)も<ところが、政権移行チームの公式ホームページ(HP)に掲載された発表文には「尖閣諸島」の文字がないのだ。「親中派」とされるバイデン氏だが、まさか日本には「口先外交」で対応し、中国にも配慮したのか>と報じた。
◎ <バイデン陣営が開設した政権移行チームのHPには、菅首相との電話会談内容が早速掲載された。「日米同盟の強化」や「日米安保条約第5条」という記述はあったが、「尖閣諸島」という文字はなかった。
さらに驚くべきは、安倍晋三前首相や、ドナルド・トランプ米大統領など自由主義陣営の首脳間で確認されてきた外交・安全保障方針「自由で開かれたインド太平洋戦略(Free and Open Indo-Pacific=FOIP)」について、HP内では「インド太平洋地域(Indo-Pacific region)」と表現されていたのだ>
英字紙ジャパンタイムズの杉山聡記者の11月12日付の記事によると、電話協議の場に同席した政府高官は「尖閣への言及は日本側の理解であり、尖閣諸島の領有権に関する議論はなかった」と明言している。
https://www.japantimes.co.jp/news/2020/11/12/national/suga-biden-phone-talks/
そもそも、安保条約第5条は、日本の領域での武力攻撃について、日米が自国の憲法上の手続きに従って、共通の危険に対処するように行動すると宣言しているだけで、米軍が防衛出動するという義務規定はない。
◎ デイリースポーツによると、鳩山由紀夫元首相は11月15日夜、ツイッターに「安保条約第5条には対日防衛義務は書かれていない。自国の憲法に従い対処するよう行動すると書かれているのみだ。誤解を招く報道は慎むべきではないか」と書き込んだ。
https://news.yahoo.co.jp/articles/4d72c68a8e5ee56fe1ef7ff783ef19d1bdc2a82e
◎ インデペンデント・ウェブ・ジャーナル(IWJ)記者は、11月13日午後、茂木敏充外相の会見で、「実際は日本側が後から尖閣諸島について追加確認しただけでは」と質問したのに対し、「あなたの言っていることは違います」と質問途中に割り込んで否定した。
https://iwj.co.jp/wj/open/archives/484743
◆ 菅首相・坂井官房副長官のガセ情報を垂れ流し
◎ 「尖閣」発言は、官邸と外務省によるフェイクだったのだが、NHK、主要新聞は全く取り上げない。
植垣康博氏のフェイスブック投稿(11月17日)によると、11月17日のテレビ朝日「羽鳥モーニングショー」で、田崎史郎氏は「菅総理とバイデンさんが直接、電話で会談する前に事務方同士で事前に打ち合わせする。その中で尖閣について触れられていた。だから菅総理の発言は事実と異なることにはならない」と解説した。
事務レベルで話が出ていたというのも裏が取れていない。
仮に、それが事実だとしても、バイデン氏が言ったか言わないかは極めて重要だ。
次期大統領に決まった政治家が言ってもいないことを「事実」として伝えるのは捏造だ。田崎氏は安倍・トランプと共に退場してほしい。
◎ テレビ各局は11月12日の会談を15分と伝えているが、AP、ロイター、CNNなど外国メディアは「約10分」と伝えた。米国NY在住の霍見芳浩NY市立大名誉教授によると、挨拶と通訳を除く実質的な会話は3分だったという。
外国メディアの記事では、「菅首相が記者たちに明らかにしたところによると」とか「バイデン氏のチームによると」などと、一文章ごとにニュースソースを明示している。
ロイター電を読むと、菅氏側近、坂井学官房副長官がソースと明示している。
https://jp.reuters.com/article/suga-biden-idJPKBN27S023
菅氏は9月16日に首相に就任して以来、各国の首脳と「電話会談」を重ねてきたが、ほとんどが10~15分。「外交に難点」と言われているのを気にしての、「電話外交」だろうが、実体のない電話での対話を重要ニュースにするのは、大本営発表報道だ。キシャクラブメディアは猛省すべきだ。
『たんぽぽ舎』(2020年11月18日・20日)
◆ 「尖閣へのコミットメントを確約」発言は捏造だった
浅野健一(アカデミックジャーナリスト)
◆ キシャクラブメディアの菅・バイデン「電話協議」報道
◎ 菅義偉首相は11月17日、コロナ禍の中、訪日したオーストラリアのモリソン首相と会談した。テレビは「就任以来、国内での初の外国首脳との会談」「準同盟国として協力」と大本営発表報道を展開している。モリソン氏は、「中国の脅威」を叫んでいる対米隷従、新自由主義の保守指導者で、非同盟路線をとる東南アジア連合(ASEAN)から警戒されている。
安倍晋三前政権は今年4月、習近平中国主席を国賓として迎えるはずだった。コロナ禍で延期されているだけで、モリソン氏が来日できるなら、まず、習主席を招くべきなのに、菅政権誕生で影響力を強める外務省は「反中国」外交に熱心だ。
マスメディアは菅氏の12日のバイデン前米副大統領との電話会談も派手に報道した。菅氏に政権を委譲した安倍晋三前首相が「100%信頼する」としていたトランプ大統領は未だに、「大統領選に勝った」と言っているのに、菅氏は官邸での番記者のぶら下がり取材で、バイデン氏を「次期米大統領」と呼んだ。
バイデン氏が当選を確実にしているのは事実だが、トランプ氏との信義もあるのではないかと思う。過去は振り返らず、「勝ち馬に乗る」無節操な男だ。
新聞、テレビ、通信社は、両氏が日米同盟強化で一致し、「バイデン氏は沖縄県・尖閣諸島への(防衛義務を定める)日米安全保障条約5条の適用を明言」「両氏は『自由で開かれたインド太平洋』の実現で合意した」と報じた。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20201112/k10012707441000.html
https://news.livedoor.com/article/detail/19208848/
◎ 11月13日のテレビ朝日「羽鳥モーニングショー」で、菅・バイデンの「電話会談」を取り上げ、羽鳥慎一キャスターはパネルに朝日新聞の峯村健司編集委員の「次期大統領に尖閣の防衛義務を認めさせたのは大きい」などとする発言を紹介。吉永みち子氏は「中国が攻勢を強める中、通常は儀礼的な電話になる時に、日米が協力して尖閣に対応すると合意したのはよかった」と発言した。
元外交官で内閣官房参与の宮家邦彦氏は17日のフジテレビ「イット」で、「バイデン氏から尖閣にコミットするという言質を、この段階で取ったのは大きな成果。中国はさぞ焦っているだろう」などと解説した。安倍政権の人間にニュース解説させるのは不適切ではないか。
◆ バイデン政権移行チームHPに「尖閣」の文字なし
◎ キシャクラブメディアは、菅氏が番記者に「日米安保条約第5条の尖閣諸島への適用につて、コミットメントする旨の表明があった」と表明したのを垂れ流した。
ここで重要なのは、菅・バイデンの電話協議の場に記者は1人もおらず、番記者は録音も聞いていないとうことだ。
つまり、非公開の密室で行われた電話協議の報道はすべて、菅氏と坂井学官房副長官(菅氏側近で、菅氏の総裁選出馬会見で司会を務めた)からの伝聞情報に基づいており、「裏取り」が皆無なのだ。
その後、一部報道で、バイデン氏は「日米同盟の強化」や「日米安保条約5条」については言及したが、「尖閣諸島」という言葉は全く使っていないことが分かった。
バイデン氏が「尖閣」有事の場合、コミットすると約束したというのはウソだったのだ。
私が最初に見たのは東京新聞(デジタル)の<バイデン氏は「尖閣」にも安保条約適用表明も米側発表には含まれず 菅首相と初の電話協議>という見出し記事(11月12日21時28分)だった。
<米側の発表では、安保条約5条には触れたが、尖閣諸島への言及は含まれていない>という記述だ。
https://www.tokyo-np.co.jp/article/68050
自公政権寄りの夕刊フジのデジタル版(11月13日16時58分)も<ところが、政権移行チームの公式ホームページ(HP)に掲載された発表文には「尖閣諸島」の文字がないのだ。「親中派」とされるバイデン氏だが、まさか日本には「口先外交」で対応し、中国にも配慮したのか>と報じた。
◎ <バイデン陣営が開設した政権移行チームのHPには、菅首相との電話会談内容が早速掲載された。「日米同盟の強化」や「日米安保条約第5条」という記述はあったが、「尖閣諸島」という文字はなかった。
さらに驚くべきは、安倍晋三前首相や、ドナルド・トランプ米大統領など自由主義陣営の首脳間で確認されてきた外交・安全保障方針「自由で開かれたインド太平洋戦略(Free and Open Indo-Pacific=FOIP)」について、HP内では「インド太平洋地域(Indo-Pacific region)」と表現されていたのだ>
英字紙ジャパンタイムズの杉山聡記者の11月12日付の記事によると、電話協議の場に同席した政府高官は「尖閣への言及は日本側の理解であり、尖閣諸島の領有権に関する議論はなかった」と明言している。
https://www.japantimes.co.jp/news/2020/11/12/national/suga-biden-phone-talks/
そもそも、安保条約第5条は、日本の領域での武力攻撃について、日米が自国の憲法上の手続きに従って、共通の危険に対処するように行動すると宣言しているだけで、米軍が防衛出動するという義務規定はない。
◎ デイリースポーツによると、鳩山由紀夫元首相は11月15日夜、ツイッターに「安保条約第5条には対日防衛義務は書かれていない。自国の憲法に従い対処するよう行動すると書かれているのみだ。誤解を招く報道は慎むべきではないか」と書き込んだ。
https://news.yahoo.co.jp/articles/4d72c68a8e5ee56fe1ef7ff783ef19d1bdc2a82e
◎ インデペンデント・ウェブ・ジャーナル(IWJ)記者は、11月13日午後、茂木敏充外相の会見で、「実際は日本側が後から尖閣諸島について追加確認しただけでは」と質問したのに対し、「あなたの言っていることは違います」と質問途中に割り込んで否定した。
https://iwj.co.jp/wj/open/archives/484743
◆ 菅首相・坂井官房副長官のガセ情報を垂れ流し
◎ 「尖閣」発言は、官邸と外務省によるフェイクだったのだが、NHK、主要新聞は全く取り上げない。
植垣康博氏のフェイスブック投稿(11月17日)によると、11月17日のテレビ朝日「羽鳥モーニングショー」で、田崎史郎氏は「菅総理とバイデンさんが直接、電話で会談する前に事務方同士で事前に打ち合わせする。その中で尖閣について触れられていた。だから菅総理の発言は事実と異なることにはならない」と解説した。
事務レベルで話が出ていたというのも裏が取れていない。
仮に、それが事実だとしても、バイデン氏が言ったか言わないかは極めて重要だ。
次期大統領に決まった政治家が言ってもいないことを「事実」として伝えるのは捏造だ。田崎氏は安倍・トランプと共に退場してほしい。
◎ テレビ各局は11月12日の会談を15分と伝えているが、AP、ロイター、CNNなど外国メディアは「約10分」と伝えた。米国NY在住の霍見芳浩NY市立大名誉教授によると、挨拶と通訳を除く実質的な会話は3分だったという。
外国メディアの記事では、「菅首相が記者たちに明らかにしたところによると」とか「バイデン氏のチームによると」などと、一文章ごとにニュースソースを明示している。
ロイター電を読むと、菅氏側近、坂井学官房副長官がソースと明示している。
https://jp.reuters.com/article/suga-biden-idJPKBN27S023
菅氏は9月16日に首相に就任して以来、各国の首脳と「電話会談」を重ねてきたが、ほとんどが10~15分。「外交に難点」と言われているのを気にしての、「電話外交」だろうが、実体のない電話での対話を重要ニュースにするのは、大本営発表報道だ。キシャクラブメディアは猛省すべきだ。
『たんぽぽ舎』(2020年11月18日・20日)
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