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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

熊本で起こったこと-教員免許更新制再考⑥

2011年11月14日 | こども危機
 『尾形修一の教員免許更新制反対日記』から
 ★ 熊本で起こったこと-教員免許更新制再考⑥


 記者会見がWEBニュースにも出たのでしょうか。「真面目にやってる教師が失職する制度」という僕の批判に対し、「まじめな教師が失職するわけないだろ」などとカラカイ気味の投稿も某サイトにあったのを見ました。
 でも、熊本県で起こったことは、まさにそれ。「真面目にやってる教師が失職する」という恐るべき事例です。マジメという言い方はともかく、普通に勤務していた人(教師に限らず、どんな職業でも)が突然辞めろと言われるような制度。それにあなたは怒らないのか?この制度に怒りを感じられないようでは、困ると僕は思うんですけどね。(その他の、様々な批判には、いずれまとめて答えます。)
 「熊本ケース」は東京では僕が記者会見で初めて公にしたと思うけど(このブログ以外で)、実は読売新聞が10月25日に報じています。「熊本県教委、免許失効教員に特例試験…全員合格」という記事です。
 記事によれば、熊本県では公立で6人の教員が「申請期限だった1月末を有効期限の3月末と勘違いするなどして」、「申請をミスした責任を感じるなどして依願退職」した。
 そして、「県教委は『国の制度導入後、初の更新期だったことや、教員としての資質に問題はなかった』として6人について、特例的に採用試験を8月に実施した。」
 そして、「9月、全員に合格を通知した」「24日の県議会決算特別委員会で県教委が明らかにし、山本隆生教育長は『(6人は)個々に経験豊富な人材で、教育現場の損失につながる。制度導入後、初ということもあり、今年度については特別に行った。こうした措置は今回限りにしたい』と語っていた。」
 この「特別選考」については、先に「熊本県の事情その後」(6月18日)で報告しました。今回、6人が受験し、全員合格したことが確認できました。それは一応いいことなんですが、教育長が述べるように、「教員としての資質に問題はな」く、「教育現場の損失につながる」教師が「失職」してしまったんです。それは「勘違い」や「申請ミス」というべき出来事ではありません。もし、教師に問題があるというなら、全国で約10万人が関係した第1回の更新制実施で、他県でも「勘違い」があるはずだからです。しかし、このような「特別選考」を実施した県は他にはありません。熊本県だけ。だから、「県教委の責任」と僕が書いたわけです。
 では、他の都道府県では何故そのようなミスが起きなかったか。それは、教委、管理職が徹底して、免許の管理を行ったからです。急に失職しては、本人も困るけど、学校も困ります。だから、「免許は私的資格」として「講習は自費」「出張にならない」「手続きは年休を取って」という制度でありながら、東京都などは全員の免許そのものを確認しました。(一人でいろいろ持っている人も多いので、細かい確認作業が必要なのです。)
 しかし、どうも熊本県では、これをしていない。だから管理職が職員個々の免許事情を把握していない。よって、職員の問いにも答えられない。「勘違い」や「申請ミス」は、現場の校長や教頭が確認して防ぐのが通例でしょう。それが熊本では、管理職が判ってないから、適切なアドバイスができなかったのです。管理職に研修を行い、現場の混乱を招かないようにするのが教育委員会の仕事。だから、県教委には責任があります。
 9月に熊本県に行ったときに、実は「失職」した当の教員の中の一人の方とお会いする機会がありました。
 その先生の場合は、「対象者でありながら、この2年間、平成21年から現在に至るまで、全く県からの免許更新について通知する文書や申請書類の書き方などたいへん重要な文書を受け取ることはありませんでした」とのことです。そして、1月末を過ぎてから校長が教委に出向いたものの「3月9日まで全く県からの回答もなく、その日になって、辞職願を提出して退職するか、免許が3月31日に失効して自動的に失職するか、二つに一つしかないという回答」があったのです。
 しかし、「私が辞めることは生徒たちのためにならない」「不祥事や生徒たちの不利益になることをしたわけでない」「申請書を提出しなかったこと以外に自分の非がない」という思いから、退職願を書かず、全国でもごくまれな場合だと思いますが、「免許失効」=「失職」を選択しました。保護者からも陳情などが寄せられたとも聞いています。
 これが教師のミスに過ぎないと片づけていい問題でしょうか?第一、生徒が一番困るでしょう。県教委も「経験豊富な人材」と認める先生が、こんなことで教壇に立てない。これは、大きく言えば「国家的損失」ですが、本人や家族の生活の問題でもあります。マジメに働いている人なら、教育や政治に関する考えが様々に異なったとしても、この制度は何かおかしいと思うんじゃないですか。
 しかし、もっと恐ろしいのは、本来は熊本県教委が正しいとも言えることです。「教員免許は私的資格」だというのが、この更新制度の本質だからです。
 「自動車免許は更新する」だから「教員免許も更新しろ」とか言う人がいます。大学や大学院で何年も学んだ成果の教員免許を、ホントに自動車免許と同じだと思うのか?そういうことを聞くたびに、全国の教師は傷つくのですよ。
 その教師がマジメかどうかとか、指導力があるとかないとか、そういうこと以前に、「教師と言う職業」がバカにされていると思うからです。でも、それが免許の更新制。そういう制度を作った国が、だから一番悪い
 この熊本ケースでは、国・県の責任の明確化と謝罪、経済的損失の補償、今後の不利益の防止(勤続年数の問題などで不利益にならないようにする)などが本来は必要だと思っています。どうやって話を進めればいいかわからないし、なかなか大変だと思いますが。しかし、まあ、6人がとりあえず「救済」される方向らしいということは良かったです。
 僕が「退職」を選んだのは、都教委では情報はきちんと流されていたからです。法そのものはおかしいと思うけど、都教委の連絡、指導のもれはなかったということです。だから講習を受けていない以上、辞めるしかないことは判りました。
 で、ブログを開設したことで、熊本ケースを知り、この制度のおかしさを痛感しました。そのことがなかったら知り合えなかった熊本の実力ある先生と知り合えたことは個人的にはうれしい気もしますが、それはこの制度のひどさと引き換えにできるようなことではありません。

『尾形修一の教員免許更新制反対日記』(2011年11月10日)
http://blog.goo.ne.jp/kurukuru2180/e/cf9d788a965efae058b8aa81d98d09dd

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