◆ 東北の鬼 (東京新聞【本音のコラム】)
「私たちはいま、静かに怒りを燃やす東北の鬼です」。
福島第一原発事故から半年後、十年前の九月、東京・明治公園での「さようなら原発六万人大集会」。福島から参加した武藤類子さんの言葉「鬼」に東北出身のわたしはハッとさせられた。
蝦夷(エミシ)。中央政府から「征伐」された民の後裔(こうえい)だが、普段は意識していない。
武藤さんは原発事故によって、阿武隈山系の森の中での、自然とともに暮らしてきた生活を一瞬にして奪われた。その怒りを岩手県北上地方の激しい踊りと祈りの「鬼剣舞」に託して発言した。
馬の尻尾でつくったたてがみを、頭に載せた鬼の踊りには、激しい怒りばかりではない、悲しみと悔恨と絶望が入り交じっている。
最近、武藤さんが上梓(じようし)した『10年後の福島からあなたへ』にはこう書かれている。
「原発事故の責任と真実を明らかにして、その教訓をしっかりと伝承すること」。それが裁判の意味だが、原発はその存在自体に秘密と不正が多すぎて、継承不能だ。
『東京新聞』(2021年1月1日【本音のコラム】)
鎌田 慧(かまたさとし・ルポライター)
「私たちはいま、静かに怒りを燃やす東北の鬼です」。
福島第一原発事故から半年後、十年前の九月、東京・明治公園での「さようなら原発六万人大集会」。福島から参加した武藤類子さんの言葉「鬼」に東北出身のわたしはハッとさせられた。
蝦夷(エミシ)。中央政府から「征伐」された民の後裔(こうえい)だが、普段は意識していない。
武藤さんは原発事故によって、阿武隈山系の森の中での、自然とともに暮らしてきた生活を一瞬にして奪われた。その怒りを岩手県北上地方の激しい踊りと祈りの「鬼剣舞」に託して発言した。
馬の尻尾でつくったたてがみを、頭に載せた鬼の踊りには、激しい怒りばかりではない、悲しみと悔恨と絶望が入り交じっている。
最近、武藤さんが上梓(じようし)した『10年後の福島からあなたへ』にはこう書かれている。
「ますます困難を極める福島の中で冷静さと明晰(めいせき)さを持ち、熟成した燠火(おきぴ)のような怒りを、私たちの生きる尊厳を奪うもの、命を蔑(ないがし)ろにするものに対して、ぶつけていかなければなりません」東京電力の刑事責任を問う「福島原発告訴団」の団長などで、武藤さんは多忙な日々を送っている。
「原発事故の責任と真実を明らかにして、その教訓をしっかりと伝承すること」。それが裁判の意味だが、原発はその存在自体に秘密と不正が多すぎて、継承不能だ。
『東京新聞』(2021年1月1日【本音のコラム】)
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