<どうなる学校>
▼ 高校授業料無償化 現場に歓迎と戸惑い
民主党が公約に掲げる「公立高校授業料の実質無償化」。来年四月の実施を目指し、文部科学省は同党と給付方法の調整に入ったが、教育現場では歓迎と戸惑いが交錯している。関係者の声を拾った。 (井上圭子)
▼ 子どもを救う無血革命
「これで子どもたちも勉強に打ち込める」。東京都立高校三年担任の教員(44)は、川端達夫文科相の就任会見をテレビで見ながら、昨年、授業料を払えず退学した生徒たちの無念の表情を思い出していた。
「目の前でやめていくのをどうすることもできなかった。授業料無償化で救われる子は多い」と歓迎する。
法政大学教授(臨床教育学)の尾木直樹さんも「教育は人生前半期の社会保障。経済協力開発機構(OECD)諸国の中で教育費の対GDP比が低い日本で、無償化の実現は無血革命に値する」と評価する。
▼ 私立中・下位校には痛手
川端文科相は、公立高授業料は無償化、私立高生は年間約十二万円(世帯年収五百万円以下は二十四万円)を間接給付することを表明した。私立高の授業料は年間六十~八十万円。
東京都立青山高校の岩崎充益校長は「公立回帰の動きが予想され、公立進学校には追い風」とみる。「意欲はあるが経済的に困っている子が増える中で、公立無償化はかなりの強み。一気に弾みをつけたい」と意気込む。
だが、私立高は逆風になりかねない。ある私学教育関係者は「一方で国の私学助成金が削られる懸念がある。そうなると公平なのか」と不満をあらわにする。
公立回帰が起こると、私立高はレベルにより明暗を分けそうだ。森上教育研究所の森上展安所長は「富裕層の有名難関校人気は不動」と上位校人気は公立無償化の影響が少ないと分析する。
だが、給付を受けても私立高の授業料は依然、負担感が高い。一方、公立高はタダになるという意識から「『学費は安いほどいい』と考える層が公立を選べば、私立の中・下位校にはかなりの痛手。公立無償化で公私間の学費負担感の差は今以上に開き、費用がかかっても私立に行かせる層との経済力による教育格差がさらに拡大する」と予測する。
▼ 一部公立は託児所化?
追い風に見える公立高にも、マイナスの影響を心配する声も。東京都葛飾区立中学の三年担任教員は「高校進学希望者の六割が奨学金希望という現状を考えれば救済策は必要」と認めつつも「中学では養育放棄状態の保護者が増えており、『タダなら行かせとけ』との発想から一部の公立高は託児所化するかも」と危ぶむ。
横浜市立中学教員は「不況で公立高人気が高まり、以前なら全日制に行けた学力の子が定時制へ、定時制に行っていた層は就職せざるを得なくなっている。これにもっと拍車がかかるだろう」と話す。
こうした懸念に尾木さんは「心配ばかりしていては先に進まない。フィンランドは失業率約20%だった一九九〇年代に小学校から大学院まで給食費も含め無償化した。教育を重視しなければ国は立ちゆかないことに日本人も気づくべきだ」と指摘する。
『東京新聞』(2009年9月29日【暮らし】)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/living/life/CK2009092902000065.html
▼ 高校授業料無償化 現場に歓迎と戸惑い
民主党が公約に掲げる「公立高校授業料の実質無償化」。来年四月の実施を目指し、文部科学省は同党と給付方法の調整に入ったが、教育現場では歓迎と戸惑いが交錯している。関係者の声を拾った。 (井上圭子)
▼ 子どもを救う無血革命
「これで子どもたちも勉強に打ち込める」。東京都立高校三年担任の教員(44)は、川端達夫文科相の就任会見をテレビで見ながら、昨年、授業料を払えず退学した生徒たちの無念の表情を思い出していた。
「目の前でやめていくのをどうすることもできなかった。授業料無償化で救われる子は多い」と歓迎する。
法政大学教授(臨床教育学)の尾木直樹さんも「教育は人生前半期の社会保障。経済協力開発機構(OECD)諸国の中で教育費の対GDP比が低い日本で、無償化の実現は無血革命に値する」と評価する。
▼ 私立中・下位校には痛手
川端文科相は、公立高授業料は無償化、私立高生は年間約十二万円(世帯年収五百万円以下は二十四万円)を間接給付することを表明した。私立高の授業料は年間六十~八十万円。
東京都立青山高校の岩崎充益校長は「公立回帰の動きが予想され、公立進学校には追い風」とみる。「意欲はあるが経済的に困っている子が増える中で、公立無償化はかなりの強み。一気に弾みをつけたい」と意気込む。
だが、私立高は逆風になりかねない。ある私学教育関係者は「一方で国の私学助成金が削られる懸念がある。そうなると公平なのか」と不満をあらわにする。
公立回帰が起こると、私立高はレベルにより明暗を分けそうだ。森上教育研究所の森上展安所長は「富裕層の有名難関校人気は不動」と上位校人気は公立無償化の影響が少ないと分析する。
だが、給付を受けても私立高の授業料は依然、負担感が高い。一方、公立高はタダになるという意識から「『学費は安いほどいい』と考える層が公立を選べば、私立の中・下位校にはかなりの痛手。公立無償化で公私間の学費負担感の差は今以上に開き、費用がかかっても私立に行かせる層との経済力による教育格差がさらに拡大する」と予測する。
▼ 一部公立は託児所化?
追い風に見える公立高にも、マイナスの影響を心配する声も。東京都葛飾区立中学の三年担任教員は「高校進学希望者の六割が奨学金希望という現状を考えれば救済策は必要」と認めつつも「中学では養育放棄状態の保護者が増えており、『タダなら行かせとけ』との発想から一部の公立高は託児所化するかも」と危ぶむ。
横浜市立中学教員は「不況で公立高人気が高まり、以前なら全日制に行けた学力の子が定時制へ、定時制に行っていた層は就職せざるを得なくなっている。これにもっと拍車がかかるだろう」と話す。
こうした懸念に尾木さんは「心配ばかりしていては先に進まない。フィンランドは失業率約20%だった一九九〇年代に小学校から大学院まで給食費も含め無償化した。教育を重視しなければ国は立ちゆかないことに日本人も気づくべきだ」と指摘する。
『東京新聞』(2009年9月29日【暮らし】)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/living/life/CK2009092902000065.html
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