パワー・トゥ・ザ・ピープル!!アーカイブ

東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

★ 右派政治家、『産経新聞』、教育行政が「連携」した教育への介入(1)

2024年10月19日 | 暴走する都教委と闘う仲間たち

 ★ 文科省・自民党右派議員・『産経新聞』が、今度は奈良教育大学付属小学校に介入(週刊金曜日)

永尾俊彦(ルポライター)

 今年1月、『産経新聞』が報じた国立校での「不適切」授業などの実態。ガバナンス機能不全が要因とされ、子どもや保護者、教育関係者らの反対にもかかわらず、4月に教員が強制出向させられた。問題となった教育の中身とは?

 ★ 学習指導要領を絶対化し、教育実践を「問題化」

 抽選で入学者を決め、「みんなのねがいでつくる学校」(囲み参照)を実践する奈良教育大学付属小学校(奈良市、以下付小)が「学習指導要領通りでない」と問題視されている

「大半に『国歌』指導せず、道徳は全校集会で代替 国立奈良教育大付属小、法令違反教育常態化」

 今年1月16日、『産経新聞』は翌17日に予定されていた同大による付小の実践の「問題点」についての報道機関への報告に先立ち、このような見出しの記事を特報した。
 同紙は、付小では「道徳を全校集会で代替。音楽で全学年に義務付けられている国歌の指導も6年生以外の学年に実施せず、
 国語は3年生以降必修となる毛筆の習字が行われていなかった。外国語では、代名詞など高学年で指導内容の不足が確認された」と学習指導要領通りでないとし、
 「道徳図工では教科書を使わず、教員作成のプリントなどによる授業が行われていた。学校教育法は国の検定を通過した教科書の使用を義務付けており、文科省は不適切な授業実態と合わせて法令違反と判断」「同校では長期間にわたり他の公立校のように他校や教育委員会との人事交流がなかった(注1)。本来は校長が学校運営の意思決定を担うが、教員の影響力が強まり、ガバナンス(組織統治)機能不全状態だったとみられる」とする。

 しかし記事は「不適切な授業」をしていたとされた教員側の言い分を聞いていない。筆者は同紙に「不公平では」と問い合わせたが、「個別の記事に関することはお答えしておりません」(広報部)。

 17日、同大の宮下俊也学長らは記者会見を開き、学習指導要領の内容の実施(授業時数・履修年次・評価)に関する不適切事項や教科書の未使用などを謝罪した。
 さらに翌々日の19日、文部科学省は「附属学校を置く各国立大学法人学長」あてに、教育課程が学習指導要領に基づき、編成・実施されているかを点検し、報告を求める通知を出した。
 自民党の赤池誠章(あかいけまさあき)参議院議員は、「長年左翼の巣窟となって、現場のやりたい放題となっていたということでしょう」(1月25日)とブログに書き込んだ。

 ★ 「教育への不当な支配」

 1月31日、同大は新年度から3年間で付小の正規教員19人全員を公立小学校などに順次出向させる方針を教員に伝えた。

 これを宮本岳志議員(共産党)は3月13日の衆議院文部科学委員会で「前代未聞の強制出向」とし、「文科省が圧力をかけて行わせようとしているのでは」と質(ただ)した。
 文科省が同大の宮下学長、三木達行副学長らを昨年10月10日に同省に呼びつけて「不適切」な事案と対応の説明を求めた会議概要を宮本議員が同省から提出させたところ、文科省が「双方向の人事交流についても考えてみては」と言及したと記されていたのだ。
 しかし、文部科学委員会で同省の望月禎(もちつきただし)総合教育政策局長(現・初等中等教育局長)は、他の付属校でも行なわれている一般例に言及したもので「具体的な指示をしたものではございません」と否定。
 だが、宮本議員は付小の教員たちが三木副学長から今年1月31日に「(前日の1月30日の)自民党の文科部会で議案に上がり、かなりのご意見、批判を受けた(略)文科省の上層部から全員替えろと」(カッコ内筆者)言われたなどと説明されたという証言をもとに、「(教育基本法16条が禁じる)教育への不当な支配そのもの」(カッコ内筆者)と断じた(以上国会会議録)。
 一小学校の教育が、文科省のみならず自民党からも問題視されていることに驚く。
 ちなみに、この経緯は教育行政、右派政治家、『産経新聞』が「連携」しているように見える点で、2003年に起きた「東京都立七生養護学校(現・東京都立七生特別支援学校)」事件(注2)によく似ている。

 ★ 私はマイペース登校児

 高橋貴子さんの娘、恵子さん(いずれも仮名)は付小の卒業生だが、3年生の時、不登校になった。
 「うるさいの、苦手なの」。聴覚過敏の傾向があり、うるさいと船酔いのような状態になる。付小の授業ではみんな自由に意見を言う。恵子さんは先生に「しんどい」と訴えた。
 高橋さんは先生がみんなに「静かに」と言ってくれると思った。
 が、先生は恵子さんに「みんなが静かにはならないよ。どうしたい?別の教室に行く?」と言った。高橋さんは、「恵子はこの特性を持って生きていく。うるさいのがしんどいなら離れるとか、環境を変えるしかない」と気づいた。
 ときに焦る高橋さんに先生は「彼女のペースでいきましょう」。恵子さんはしんどくなる前に別室に移ったり、途中で帰ったりするようにした。先生は「ああ帰るんか、気いつけてな」。他の子も「ズルイ」などと言わずに受け入れる。
 恵子さんは「私は不登校児じゃない。マイペース登校児なの」と言うようになった。特性を生かし、中学2年で英検2級に合格。中3の今もマイペースで通っている。付小に不登校児はきわめて少ない。

 高橋さんは付小の授業をよく見学した。
 始業のチャイムが鳴っても子どもたちは席に着かない場合も多いが、先生は注意しない。そのうち、誰かが「もう座れや」などと言い始め、授業が始まる。先生は「みんなの気持ちが切り替わるのを待っている」そうだ。
 高橋さんによれば、「先生は注意すべきだ」という意見の保護者もいる。
 だが、山崎洋介さん(62歳)は、付小の「待つ」教育を高く評価する。山崎さんは奈良教育大学を卒業後、付小で教育実習をし、公立小で働き、付小の教員と授業研究などを続けてきた。定年前に退職し、現在は大学院で教育行政学を研究している。
 「私にはマネできない。子どもたちを管理し、怒鳴ってでも言うことを聞かせて『いい子』に育てると、同僚、保護者、子どもたちからも評価されるから」と話す。
 付小の教員、坂本武さん(仮名)は先輩からこう聞いた。
 「怒って言つことを聞かすのは一番簡単。でもそうすると次の学年はボクより怖い先生じゃないと言うことを聞かなくなる。ついに子どもははじける。それは学校の『ツケ』」

 ★ 育ちを信じ、待つ

 付小の特色の一つは「あいぼう」だ。6年生が1年生とペアになり、一緒に遊んだり、世話をやいたりする。6年生は平和学習で広島を訪れると、あいぼうに手紙を書く。
 全校集会はみんなでつくる。教師は子どもの「ねがい」の聞き役に徹する。「どんな学校にしたい?」「わかりあえる仲間になりたい」「わかりあうってどういうこと?」・・・。
 考えた子どもたちは「知り合おう会」を開き、各クラスが頑張っていることを発表しあった。自治の力が育まれていく。ただ、この時間を「道徳」と児童に示さなかったことが今回問題視された。
 坂本さんによれば、付小では「学校づくり方針」を毎年2カ月以上かけてつくる。週に1回の教員会議で3時間前後は話し合う。子どもの様子、地域の課題などを分析し、方針を練り上げる。
 学習指導要領の改訂があれば、それが子どもたちの実態にあっているのかを研究し、実態に即して教える順序を入れ替えたりする。「学習指導要領は他の学校より読み込んでいますよ」と坂本さん。
 各教科に教科部があり、教員が数人ずつ分かれて研究する。
 たとえば、教育出版の1年生用教科書に出てくる有名な物語『スイミー』。スイミーが活躍したという理解なら一人でも読める。スイミーにとってもみんなが必要だという別の視点に出合わせたい、などと教員の「ねがい」を教科部で話し合う。
 花輪真美さん(仮名)は、「最初は教師の伝えたい方向にムリムリ誘導していました。でも、子どもには子どものわかり方があると気づきました」と話す。
 子どもの感想をプリントして読み合うなど、教科書会社が作成した年間指導計画の授業時数の倍ほどの時間をかける。
 他の子の視点に触発され、さまざまな意見があふれ出てくる。その中から「スイミーにとってもみんなが必要」という見方も自然に出てくる。「子どもの育ちを信じ、待てるようになりました」と話す。
 それは教員が変わらず、6年間の成長を見届けられることが大きいと花輪さんは考える。だから付小にとって教員の出向とは、子どもと教員が育ち合う時間を奪う致命傷なのだ

 ★ イデオロギーに染まる?

 付小の校長は、同大教授が兼務してきたが、「地域との人事交流」という文科省の方針で21年より奈良県教育委員会から専任校長を受け入れるようになった。
 昨年4月、県教委在籍のまま赴任してきたのが小谷隆男(こたにたかお)前校長(現・県教委教育次長)だ。
 花輪さんによれば、小谷前校長は4月の赴任直後から「すべての決裁権は校長にある」と言って、会議で花輪さんが意見を言うと「オレは校長やぞ」とすごむ
 男性教員とは当たりが違うので「物言う女が嫌いなんやな」と花輪さんは感じた。

 小谷前校長は筆者の取材に応じ、以下のように振り返った。

「赴任後、職員室に机を置いてもらえなかった。『狭い』『必要ない』とか言われて。校長は『権力』だと見て、排除したかったんじゃないですか。机を叩(たた)く、大声出す、パワハラ?ありません。時間割を見せてほしいと言っても見せてくれないので、『何で出してくれへんのや』という言い方はしたが。職員(教員)会議は補助機関なのに、最高議決機関とされていた。校長権限が無視される。提案しても保留になったり、却下されたり。毎週会議が3~4時間続く。国語の時間をカットして会議に充てる。
 全国学力・学習状況調査(学力テスト)も正答率が極端に低い。『改善しよう』と呼びかけると『学力テストが悪い』と言う。学習状況調査のアンケートの『先生は、授業やテストで間違えたところや、理解していないところについて、分かるまで教えてくれていると思いますか』も、全国平均より相当低い。自分たちの教育を進めることにしか興味がない。
 あんなに無視されたことはない。県教委ではなく個人としての感想だが、一定のイデオロギーに染まった学校という印象。職員(教員)会議は先輩が後輩を洗脳する場でした」

 これに対して付小の教員、吉川次郎さん(仮名)はこう話す。

「小谷前校長は『この学校の教育は間違っている』と、自分が知っているトップダウンの公立学校の形にしようとした。私たちが積み上げてきたものが理解できなかったんだと思う。点数が低いのはたしか。抽選で多様な子が入ってくるし、テスト対策もしない。点数はその子のごく一部。それより学ぶ主体性を育てることを大切にしています。『先生は、授業やテストで~』のアンケート結果が低いのは、私たちは、子どもたちの学び合いでわかったという実感が得られるよう工夫をしているので、『先生が~してくれる』という意識がないからでしょう」

 ★ 矛盾する「不適切事項」

 同大によれば昨年5月、県教委から同大学長に、外部から付小の教育課程の実施等に関し、法令違反を含む「不適切」な事案があると連絡があった。
 昨年6月、大学は調査委員会を設置。同委貝会は昨年9月に中間報告書を学長に提出したが、「不適切」との指摘は数点だった(前出の山崎さんが開示請求で入手)。その後の追加調査を経て今年1月4日に発表された最終報告書でも「不適切」は2点のみだった(同)。

 ところが、今年1月9日に大学名で出された「奈良教育大学附属小学校における教育課程の実施等の事案に係る報告書」では、学習指導要領を基準に全9教科合計30もの「不適切事項」が指摘された(同大ホームページ)。
 しかし、そもそも学習指導要領は前述の都立七生養護学校事件で確定した判決でも「大綱的基準」とされており、一字一句順守すべきものではない。その大綱をもとに各学校は教育課程をつくる。
 教育課程経営論を専攻する花園大学の植田健男(うえだたけお)教授(名古屋大学名誉教授)は、

「教育課程とは算数や国語などの教科で何をどのように教えるかということと、教科外の行事などを含めた教育活動の全体計画(教育計画)のことです。教育課程は学習指導要領で『各学校』が、子どもたちや地域の実態などに応じて創意・工夫してつくるものだとされています。そうした実態を知らない外部の者が『不適切』かどうかを評価することはできません。今回、『不適切』とされた項目は、まさに付小の『創意・工夫』そのものなのです」

 と指摘した。
 たとえば、学習指導要領ではローマ字は3年で指導することになっているが、付小では母音と子音という抽象的な概念が理解できる4年後半でも扱っていたのが「不適切」とされた。教育課程を子どもの側から見るのか、学習指導要領から見るのかで大きく違う。
 そして、植田教授は「何より解せないのは、現在の学習指導要領が求めている『主体的・対話的で深い学び』は、まさに付小の教育そのものなのに、それを否定するのは矛盾しているとしか言いようがありません」と話した。

 ★ 誰が「絵」を描いてる?

 昨年10月4日、同大の三木副学長は教員に以下のように現状を報告した(筆者は録音を入手)。

「この件(教育課程の実施等の事案)であるマスコミから取材を受けることになり、文部科学省に報告したところ、省内が炎上(略)。来年度の設備要求2億円もこの問題の行く末が見えない限り財務省と闘えないと言われた」

 また、今年1月31日の教員(職員)会議の録音も入手したが、三木副学長はこう説明している。

「(1月30日に)文科省から学長に対して『まさかこのメンバーで4月を迎えるんじゃないんでしょうね』というようなご意見も出ました」

 さらに1月31日、同会議で宮下学長「一番警戒しているのは運営費交付金のペナルティー」と述べている。運営費交付金とは、2004年の国立大学法人化に伴い、導入された大学運営のための資金だ。
 学長は「メンバーを替えろ(出向させろ)」と示唆する文科省に逆らうと運営費交付金を減らされるのではと心配しているのだ。

 また、県教委にも思惑があるようだ。前出の山崎さんは「付小は毎年教育実習生を100人以上も受け入れている。そこが県教委の方針と違う、学習指導要領通りでないことをやっていては困るということでしょう」と推察した。
 奈良県教職員組合の新子和久(あたらしかずひさ)執行委員長は、「学校の生命線は教員の自主的権限にある。文科省や大学、県教委は物言わぬ教員集団にしたい。だから、自由な教育実践をしている付小を攻撃するんでしょう」と話す。
 では出向方針やその人数、期間などを決め、全体を差配しているのは一体誰か。
 新子委員長は今年1月、県教委の吉田育弘教育長(3月で退任)にズバリ聞いた。「誰が『絵』を描いてんねん?」。「それは三木さんやろ。文科から来ているんやから」と吉田氏は答えたという。三木氏はたしかに文科省出身だ。
 筆者は吉田前教育長に電話し、この発言を確認した。吉田前教育長は「(三木)副学長が文科と調整しながら対応しているという意味でそう答えました」と認めた。
 さらに筆者は今年度から鳥取大学の副学長になっている三木氏にも、「不当な支配」ではないかと電話で聞こうとしたが、一方的に切られた
 宮下学長にも取材を申し込んだが、「訴訟(後述)に係るので」と断られた

 ★ 教員3人が強制出向

 付小の子どもたちは、教員の強制出向に反対の署名を集めたり、校長室に行き、「付小の良さを残してほしい」などと訴えた。
 今年3月の付小の修了式には、すでに卒業した児童有志が訪れ、校長の許可を得て在校生にエールを送った。

「もしも付小の教育が変わってしまっても、付小だから学べたこと、(卒業した)6年生が伝えたことを忘れずに、これからもずっとずっと伝えていってほしいです。環境が変わっても、一人一人が自分の意見を全校に発信し続けてくださいね」(付小児童の原稿より)

 保護者や多くの教育関係者らも「今回の付小の事件が全国の学校を萎縮させ、学習指導要領絶対化が強まる」などと反対したが、この4月から5人の教員が出向・配転となった。現在、教員2人が欠員のままだ。子どもの教育より出向の方が大事だということか。
 強制出向させられた教員3人は出向命令の無効確認を求めて奈良地裁に提訴、9月10日に第1回口頭弁論が開かれ、前出の花輪さんが陳述した。

「日本国憲法の学習で、ある子が『人生がかかっているから裁判を受ける権利が大事』と書いたのを読んで、社会を教える私があきらめてはいけないと思いました」

 

(注1)公立小の教員を付小に一定期間受け入れる人事交流は行なわれてきた。

(注2)高く評価されていた東京都立七生養護学校(当時)の性教育を右派都議、東京都教育委員会、『産経新聞』が問題視。処分された教員が提訴、「不当な支配」が東京高裁で認められ、2013年に最高裁で確定した。

※ながおとしひこ
 ルポライター。著書に『ルポ大阪の教育改革とは何だったのか」(岩波ブックレット)、『ルポ「日の丸・君が代」強制』(緑風出版)ほか。

『週刊金曜日 1492号』(2024年10月11日)

 


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