◆ 日本労働弁護団が批准を要求した「ILOハラスメント禁止条約」って?
遅れる日本のハラスメント対策 (ハーバービジネスオンライン)
国際レベルでは前進の見られそうな職場でのハラスメント対策だが、国内での対策は一歩も二歩も遅れているようだ。
国際労働機関は2019年6月10日~21日に第108回総会を開催し、「仕事の世界における暴力とハラスメント」に関する条約(ILO条約)を採択する予定だ。
一方、国内では4月25日、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律案」(以下「ハラスメント対策関連法案」)が衆議院本会議で可決された。
日本労働弁護団は4月25日、「ILOハラスメント禁止条約を批准しよう」を連合会館で開催。ハラスメント対策関連法案では不十分であるとし、ILO条約の批准を求めた。
◆ ILO条約では顧客によるハラスメントも規制の対象に
日本労働弁護団・事務局次長の山岡遥平弁護士によると、ILO条約は、ハラスメントの定義や被害者・加害者の範囲が幅広く、評価できるという。
同条約は第1条で、ハラスメントを次のように定めている。
また、働く人の範囲も非常に広い。第2条では、雇われて働く人だけでなく、雇用によらない働き方や就活生も対象に含むとしているのだ。
日本でも顧客が店員に過剰な要求をしたり、暴言を吐いたりする“カスタマーハラスメント”が問題になっている。
こうした問題に対処するためには、国内でも顧客や取引先からのハラスメントを対象に含む法律が必要になる。
しかしハラスメント対策関連法案では、こうした第三者からのハラスメントが対象に入っていない。
◆ 予防していればハラスメントが起きても言い逃れできてしまう
国内で審議中のハラスメント対策関連法案では、事業主にパワーハラスメントが起きないよう対策を講じることを求めている。
「ある職場では、女性が日ごろから『胸が大きい』などと言われるといったことが起きています。それでもその企業が相談窓口を設置していた、啓発のためのポスターを貼っていたとすると『予防はしていました』と言い逃れができてしまいます」
こうした事態を防ぐためにも、ハラスメントそのものを禁止する規定が必要だという。また他にも、LGBTへのハラスメントや就活生へのハラスメントが対象に含まれていないことが問題だ。
◆ セクシュアリティや性自認に関する「ソジハラ」も問題だ
LGBTへの理解が進んだとはいえ、性的指向(好きになる性)や性自認(心の性)を理由にした差別やからかいは後を絶たない。こうしたハラスメントは「SOGI(ソジ)ハラ」と呼ばれている。「SOGI」とは、「Sexual Orientation and Geder Identity」(性的指向と性自認)の頭文字を取ったものだ。
LGBT法連合会共同代表の池田宏さんによると、「ホモって気持ち悪い」といった発言や嘲笑がソジハラに当たるという。
「こうした言動は5~10年前まで許容されていました。今でも多くの職場で行われています。発言した本人は、特定の個人を攻撃したつもりではないのかもしれません。しかしカミングアウトしていないLGBT当事者はこうした発言を聞いて傷つき、強いストレスを覚えます。中にはソジハラに耐えられずに転職を重ね、待遇が悪化して貧困に陥ることもあります」
加えて、本人の許可なくその人のセクシュアリティを暴露する「アウティング」も問題だ。例えば、当事者が上司を信頼して打ち明けたところ、上司が飲み会で話してしまう、顧客に話してしまうといった被害が起きているという。
ソジハラは法案には盛り込まれなかったものの、付帯決議では、「性的指向・性自認に関するハラスメント及び性的指向・性自認の望まぬ暴露であるいわゆるアウティングも対象になる得ること、そのためアウティングを念頭においたプライバシー保護を講ずること」(※2)としている。
池田さんは「付帯決議に基づいて、実効性のある指針を作ってほしい」と訴えた。
◆ 就活中のセクハラ、約半数が経験
就活生へのセクハラも深刻だ。Business Insider Japanの竹下郁子記者は、同サイトで2月12日から継続中のアンケート調査の途中結果を報告。
回答者660人中326人が就職活動中にセクハラを受けたという。
OB訪問で酒を飲まされてホテルや自宅に連れ込まれるケースが多いようだ。面接中に「彼氏はいるの?」と聞かれたり、「結婚したら辞めるでしょ」と言われることもあるという。
竹下記者は「就活生が自衛するのは難しい」と指摘。こうした被害を防ぐためにも、まだ働く前の就活生もハラスメントの被害者に含める必要がある。
※1 労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実に関する法律第三十条の二
※2 女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律案に対する付帯決議(案)七2
<取材・文/HBO取材班>
『ハーバー・ビジネス・オンライン』(2019.05.05)
https://hbol.jp/191608
遅れる日本のハラスメント対策 (ハーバービジネスオンライン)
国際レベルでは前進の見られそうな職場でのハラスメント対策だが、国内での対策は一歩も二歩も遅れているようだ。
国際労働機関は2019年6月10日~21日に第108回総会を開催し、「仕事の世界における暴力とハラスメント」に関する条約(ILO条約)を採択する予定だ。
一方、国内では4月25日、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律案」(以下「ハラスメント対策関連法案」)が衆議院本会議で可決された。
日本労働弁護団は4月25日、「ILOハラスメント禁止条約を批准しよう」を連合会館で開催。ハラスメント対策関連法案では不十分であるとし、ILO条約の批准を求めた。
◆ ILO条約では顧客によるハラスメントも規制の対象に
日本労働弁護団・事務局次長の山岡遥平弁護士によると、ILO条約は、ハラスメントの定義や被害者・加害者の範囲が幅広く、評価できるという。
同条約は第1条で、ハラスメントを次のように定めている。
「仕事の世界における『暴力とハラスメント』とは、一回性のものであれ繰り返されるものであれ、身体的、精神的、性的または経済的危害を目的とするか引き起こす、またはそれを引き起こす可能性のある、許容しがたい広範な行為と慣行、またはその脅威をいい、ジェンダーに基づく暴力とハラスメントを含む」(訳文は全て連合の仮訳による)ここでは心身への危害や性的な危害、昇進させないといった経済的な危害が含まれているだけでなく、慣行に基づくものもハラスメントになりうるとしている。
また、働く人の範囲も非常に広い。第2条では、雇われて働く人だけでなく、雇用によらない働き方や就活生も対象に含むとしているのだ。
「この条約は、都市か地方にかかわらず、フォーマル経済およびインフォーマル経済の双方におけるあらゆるセクターの労働者、国内法および慣行で定義された被雇用者、契約上の地位にかかわらず労働する者、実習生および修習生を含む訓練中の者、雇用が終了した労働者、ボランティア、求職者および就職志望者を含むその他の者について適用する」またハラスメントの加害者に「国内法および慣行に即したクライアント、顧客、サービス事業者、利用者、患者、一般の人々を含む第三者」(第4条(b))が含まれていることも特徴だ。
日本でも顧客が店員に過剰な要求をしたり、暴言を吐いたりする“カスタマーハラスメント”が問題になっている。
こうした問題に対処するためには、国内でも顧客や取引先からのハラスメントを対象に含む法律が必要になる。
しかしハラスメント対策関連法案では、こうした第三者からのハラスメントが対象に入っていない。
◆ 予防していればハラスメントが起きても言い逃れできてしまう
国内で審議中のハラスメント対策関連法案では、事業主にパワーハラスメントが起きないよう対策を講じることを求めている。
「事業主は、(中略)その雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」(※1)日本労働弁護団の新村響子弁護士は、この点は評価できるとしながらも、「ハラスメントが起きても、予防していればいいということになってしまう」と指摘する。
「ある職場では、女性が日ごろから『胸が大きい』などと言われるといったことが起きています。それでもその企業が相談窓口を設置していた、啓発のためのポスターを貼っていたとすると『予防はしていました』と言い逃れができてしまいます」
こうした事態を防ぐためにも、ハラスメントそのものを禁止する規定が必要だという。また他にも、LGBTへのハラスメントや就活生へのハラスメントが対象に含まれていないことが問題だ。
◆ セクシュアリティや性自認に関する「ソジハラ」も問題だ
LGBTへの理解が進んだとはいえ、性的指向(好きになる性)や性自認(心の性)を理由にした差別やからかいは後を絶たない。こうしたハラスメントは「SOGI(ソジ)ハラ」と呼ばれている。「SOGI」とは、「Sexual Orientation and Geder Identity」(性的指向と性自認)の頭文字を取ったものだ。
LGBT法連合会共同代表の池田宏さんによると、「ホモって気持ち悪い」といった発言や嘲笑がソジハラに当たるという。
「こうした言動は5~10年前まで許容されていました。今でも多くの職場で行われています。発言した本人は、特定の個人を攻撃したつもりではないのかもしれません。しかしカミングアウトしていないLGBT当事者はこうした発言を聞いて傷つき、強いストレスを覚えます。中にはソジハラに耐えられずに転職を重ね、待遇が悪化して貧困に陥ることもあります」
加えて、本人の許可なくその人のセクシュアリティを暴露する「アウティング」も問題だ。例えば、当事者が上司を信頼して打ち明けたところ、上司が飲み会で話してしまう、顧客に話してしまうといった被害が起きているという。
ソジハラは法案には盛り込まれなかったものの、付帯決議では、「性的指向・性自認に関するハラスメント及び性的指向・性自認の望まぬ暴露であるいわゆるアウティングも対象になる得ること、そのためアウティングを念頭においたプライバシー保護を講ずること」(※2)としている。
池田さんは「付帯決議に基づいて、実効性のある指針を作ってほしい」と訴えた。
◆ 就活中のセクハラ、約半数が経験
就活生へのセクハラも深刻だ。Business Insider Japanの竹下郁子記者は、同サイトで2月12日から継続中のアンケート調査の途中結果を報告。
回答者660人中326人が就職活動中にセクハラを受けたという。
OB訪問で酒を飲まされてホテルや自宅に連れ込まれるケースが多いようだ。面接中に「彼氏はいるの?」と聞かれたり、「結婚したら辞めるでしょ」と言われることもあるという。
竹下記者は「就活生が自衛するのは難しい」と指摘。こうした被害を防ぐためにも、まだ働く前の就活生もハラスメントの被害者に含める必要がある。
※1 労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実に関する法律第三十条の二
※2 女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律案に対する付帯決議(案)七2
<取材・文/HBO取材班>
『ハーバー・ビジネス・オンライン』(2019.05.05)
https://hbol.jp/191608
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