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国連勧告から子どもに対する虐待・暴力禁止の法制化へ前進

2019年05月09日 | 人権
  《教科書ネット21ニュースから》
 ◆ 国連子どもの権利委員会勧告と体罰禁止に向けた動き
川上園子(かわかみそのこ セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン国内事業部部長)

 ◆ はじめに
 今年2月7日、国連子どもの権利委員会(以下、「委員会」という)は、日本の第4回・第5回統合定期報告書に関する総括所見を公表した。
 これに先立つ1月16・17日にはジュネーブにおいて政府報告書の本審査が行われ、筆者も傍聴する機会を得た。
 本稿では、体罰やその他の子どもの品位を傷つける取扱い(以下、「体罰等」という)に焦点を当てながら本審査の様子と総括所見を紹介し、その直後から急速に動き出した日本の体罰禁止法制化について報告したい。
 なお、今回の審査プロセスを簡単に説明すると、まず2017年6月に日本政府報告書が委員会に提出された。
 委員会は2018年2月、政府報告書と市民社会側による情報に基づいて予備審査を実施、この予備審査時には委員会によるNGOヒヤリングも行われた。その後、委員会は日本政府に追加で質問し日本政府が回答、市民団体もさらに追加で情報提供を行った。こうしたプロセスを経ての本審査である。
 ◆ 子どもの権利委員会による日本審査本審査

 初日の冒頭、日本政府代表団長である大鷹正人国連担当大使は、前回(2010年)審査から今回までの間に実施した取組みのうち「特筆すべき進展のあった」9つの分野を紹介した。
 その一つとして虐待問題を挙げ、2018年7月に閣議決定された「児童虐待防止対策の強化に向けた緊急総合対策」を進めていると述べた (1)。
 緊急総合対策は、同年3月に東京都目黒区で起きた5歳の少女の虐待死事件を受けてまとめられたもので、緊急に実施すべき対策として子どもの安全確認の徹底、児童相談所間における情報共有、適切な一時保護・保護された子どもの一時保護などを打ち出した (2)。
 しかしこの時点では、被疑者である父親が「しつけの一環」だったと供述していることが報道されているにも関わらず、体罰禁止に向けた動きはなかった
 セーブ・ザ・チルドレンは、国会議員や厚生労働省に体罰を法律で禁止するように働きかけたが、この時は、法制化へはむしろ消極的な姿勢だったと言える。
 大鷹国連担当大使のステートメントに対し、日本審査タスクフォースを率いるキルステン・サンドバーグ委員は、日本における子どもの権利全般への懸念を列挙し、中でも体罰については、「体罰の全面禁止がなされていない」「(日本政府の施策は)条約が要請するラインではない」と厳しく指摘した。
 法務省は、前提として民法で懲戒権を定めていることや、「懲戒権に体罰が含まれているか、そもそも体罰をどのように定義するのか色々な意見があるのでこの場で答えるのは難しい」、と答えるにとどまった。
 これに対し委員は、「『軽くたたく』行為も禁止すべきであり、親による体罰の全面禁止を政府は検討できないのか」と、さらに政府に迫った。
 あらゆる場面で体罰を禁止すべきという委員会の姿勢は明確で、長年勧告を出しているにも関わらず法改正が進んでいない状況に苛立ちすら感じているようであった。
 ◆ 第4回・第5回統合定期報告書に関する総括所見

 総括所見 (3)は、ジュネーブでの審査における委員からの指摘の通り、体罰について厳しい内容であった。
 委員会は、学校における禁止が効果的に実施されていないこと、体罰が法律で全面的に禁止されていないこと、懲戒の使用が法で認められかつ体罰の許容性が明確でないことを「深刻な懸念」として挙げ、「あらゆる場面におけるあらゆる体罰を、いかに軽いものであっても法律において明示的かつ全面的に禁止する」よう勧告した。
 そして、意識啓発キャンペーンなど体罰を解消するための措置を強化するよう求めている。
 一方、虐待やネグレクトについては、被害を受けた子どもにより適切に対応できる機関の設置、加害者を裁判にかける努力の強化、性的搾取や虐待を受けた子どもへのスティグマを防止する意識啓発活動、被害を受けた子どもの回復・社会的再統合や虐待防止などの戦略や政策を策定することを目的とした教育プログラムの強化などが勧告されている。
 ◆ 体罰禁止法制化への急速な動き

 ジュネーブでの審査直後の1月下旬、千葉県野田市において、またもや子どもの虐待死事件が発生した。
 目黒区で起こった虐待死事件から1年も経たずに起きた野田市の事件でも、逮捕された父親が「しつけの一環」として10歳の娘を長時間立たせたり水を浴びせたり、あるいは怒鳴ったりしたと供述していることが明らかになった。
 一連の虐待死事件は、国会議員を突き動かした。
 2月7日、セーブ・ザ・チルドレンは、自民党や超党派の議員連盟の合同勉強会に招かれ、体罰を全面禁止している国の事例やその効果、などを訴える機会を得た。
 両議員連盟は同月19日までに、「児童福祉法等の抜本的改正を求める決議」を厚労大臣と法務大臣に提出、それに応えるように厚生労働省および法務省、総理大臣がそれぞれ、法改正や懲戒権の見直しについて国会など公の場で言及した。
 3月19日、政府は、児童福祉法および児童虐待の防止等に関する法律(児童虐待防止法)などの改正案について閣議決定、今通常国会た提出される予定である。
 改正案では、児童虐待防止法において親権者による体罰の禁止が新たに規定され(14条1項)、児童福祉法で児童相談所長と児童福祉施設の長および里親による体罰禁止が規定された(33条の2の2項および47条3項)。
 また懲戒権については、改正法施行後2年を目途にその在り方を検討し、必要な措置を講ずるとした。
 その他の虐待防止対策強化案として、改正法施行後5年を目途に中核都市・特別区が児童相談所を設置できるようにするための政府支援策、ドメスティックバイオレンス(DV)対策を含めた関係機関間の連携強化などが盛り込まれた。
 さらに、子どもの意見表明権を保障する仕組みの構築について施行後2年を目途に必要な検討を加えるとしている。
 改正案は、体罰に限って言えば、禁止が親権者による身体的なものに限定されている点が課題として残されている。国際人権基準に照らせば、あらゆる場面での子どもの品位を傷つける取扱いを明示的に禁止すべきである。
 さらに、実際に体罰等を減らしていくには、徹底した社会啓発活動と親・養育者への支援策拡充が不可欠である。残念ながら今回の政府改正案では、社会的な啓発活動の強化策が不足しているように思われる。
 今国会ではこうした不足点も十分に議論され、より効果的な対策を盛り込んだ改正となるよう期待したい。
 第1回の報告書審査(1998年)において、子どもの権利委員会が家庭における体罰等禁止の法制化を最初に勧告してから21年が経過した今、痛ましい事件を経て、ようやく日本は法律による体罰禁止への一歩を踏み出した。
 近い将来、子どもに体罰等は必要ないという認識が日本社会に根付くことを目指し、私たちもこれまで以上に政策提言や社会啓発活動に取り組んでいく必要がある。
【註】
(1) 「児童の権利条約第4回・第5回政府報告審査代表団長による冒頭ステートメント(和文仮訳)」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000438851.pdf
(2) 「児童虐待防止対策の強化に向けた緊急総合対策」(平成30年7月20日児童虐待防止対策に関する関係閣僚会議)
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000335813.pdf
(3) 日本の第4回・第5回統合定期報告書に関する総括所見(日本語訳)
https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/kokusai/humanrights_library/treaty/data/soukatsu_ja.pdf
『子どもと教科書全国ネット21ニュース 125号』(2019年4月)

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