《大阪ネットワークニュースから》
◆ 教育の自律性を破壊するコロナ禍での教育ICT戦略と教育統制
井前弘幸
1.コロナ感染拡大と教育産業の公教育への急浸透
(1)「全国一斉休校」を利用
教育のICT化によって巨大な利益を得ようとする勢力が、新型コロナウイルス感染対策による「一斉休校」の困難を利用して、子どもたちと家庭への急速な浸透を図っている。
ネット上で文科省や各地方教委とリンクした経産省の「学びを止めない未来の教室」は、無料のウェブサイトを通じて学習資料を家庭向けに配信し、子どもたちを「エドテック(EdTech)」(民間教育産業)と結びつけている。
経産省は、「全国の学校の臨時休業が進むでしょうが、そんなときこそEdTechがその力を発揮します」と呼びかける。
そこには、グーグル、マイクロソフト、ライン、リクルート、内田洋行、学研、小学館、シャープ、ドワンゴ等々の企業とリンクするボタンが並んでいる。
彼らは、一斉休校という災禍を逆利用して、急速に学校現場と家庭への入り込みを強化している。ショックドクトリンの手法である。
(2)最優先すぺきはICTの推進や競争ではない
新型コロナウイルス感染拡大の下で、安倍政権による一方的で場当たり的な「全国一斉休校」によって、全国の学校がその機能を一時停止させられました。
確かに、これまで教育へのICTの導入が喧伝されながら、各学校における「オンライン教育」環境の準備さえもなく、「教育活動の継続」は家庭任せとなり、特に困難な状況に置かれている子どもたちと学校とのつながりが断ち切られ、全般に子どもたちの状況さえ把握できなくなった。
学校再開後は、40人学級のすし詰め状態を余儀なくされ、感染防止対策も不十分な状況に置かれている。
一方で、文科省や各教委は、「学習の遅れを取り戻す」「学びを止めるな」のスローガンを前面に押し出し、夏休み等長期休業が短縮され、6・7時間授業や土曜授業などで授業等が押しつけられている。
全国学カテストは中止されたにも関わらず、大阪では中学1・2年生への「チヤレンジテスト」(内申書に点数反映)や小学生への新たな府内統一独自テストの新設等を強行しようとしている。
子どもたちも教職員も疲弊している。
コロナ禍の今、もっとも必要とされているのはICTによる教育活動の合理化を優先することではない。
オンライン授業は、経済格差拡大の中で「学力」格差をさらに広げる可能性が高い。最優先すべきは、できるかぎり早期に学級定員を縮小すること、教職員定数を拡充することである。
2.政府と財界が描く教育ICT戦略と「未来の学校」像
(1)第2次安倍内閣「日本再興戦略」から「未来投資戦賂」へ
「未来の学校像」は、第2次安倍内閣が描く経済戦略・投資戦略の中核の一つである。
「アベノミクスによる3本の矢」を掲げた「成長戦略日本再興戦略(2013年6月閣議決定」は年ごとに改訂を繰り返し、「未来産業創造」の中の「超スマート社会」の実現に向けた技術的地盤と人材の育成戦略の具体化が進められていった。その政策の全体像が、「未来投資戦略2017(17年6月閣議決定)」(Society5.0の実現に向けた改革)にとりまとめられている。
(2)総務省・文科省・経産省のタッグチーム
「未来の学校」は、経産省が全体を引っ張り、総務省と文科省を引きずりながら強行されている。
経産省は16年に設立した「教育産業室」を中心に「未来の教室プラットフォーム」を設立し、23の実証プロジェクトを始動、「学びのSTEAM化・プロジェクト化」と「学びの自立化・個別最適化」を進めている。
①STEAM(科学、技術、工学、芸術、数学)を中心とする学習コンテンツの開発と授業編成や指導案のモデルプランを提示する。その推進のために、
②学びの自立化・個別最適化を徹底する。
一斉授業からEdTech(民間教育産業)を活用した自学自習へ学習到達度主義、幼児期からの「個別学習計画」と「学習ログ」の蓄積(AIによる管理)、「学習ログ」の入学者選抜への活用を進める。そのための、
③新しい学習基盤=ICT環境整備(1人1台パソコン・高速大容量通信・クラウド接続の実現等)である。
文科省管轄の「GIGAスクール構想」(global and innovation gateway for all)とは、このような背景を持つ経済戦略である。
政府は、23年度までに子どもたちに一人一台のタブレット端末を持たせる「GIGAスクール構想」に2318億円の補正予算を付けた。コロナ禍の中で、その前倒しが進められている。
GIGAスクール構想を主導するのは、経産省であり、「『未来の教室』とEdTech研究会」なる組織でであるが、この組織の事務局を担っているのは、アメリカで公立学校の廃校とチャータースクールへの置き換えを推進した「ボストン・コンサルティング・グループ」である。
小中学生に一人1台の端末を配置するためには、今後約八百万~一千万台のタブレットが必要となる。
すでに、日本の教育市場を狙つてアメリカのマイクロソフトやグーグル、iPadが争奪戦を開始している。
NTTやNEC等日本のICT企業とエドテック教育産業がシステム構築とソフト受注の争奪戦に乗り遅れまいとしのぎを削っている。
3.「実証実験」から本格導入段階に入ろうとしていた大阪
大阪府及び大阪市は、17年度から2力年の「スマートスクール・プラットフォーム実証事業」(総務省)、「次世代学校支援モデル構築事業」(文科省)に参加し、大阪市の小学校3校と中学校2校を実証校に指定し、システム構築とソフトの活用実験を行わせた。
システム全体をNECが統括する。データベースにビッグデータとして子どもたちのすべて情報を蓄積し、「SKIP(ダッシュボード)」というシステムから、分析的に整理された情報を「児童・生徒カルテ」、「学級カルテ」、「学年カルテ」、「学校カルテ」として教育委員会・管理職に「見える化」する究極の管理システムだ。
具体的には、出席簿、家庭環境や生活状況等の生徒情報、健康管理、成績処理、保健室利用履歴、日常所見等の校務システムは、EDUCOM(株)が担い、文科省全国学力調査や大阪独自の学力テストの成績や解答分析、単元ドリル・単元テスト・定期テストの結果と学習状況データと分析、学習ソフトとそれによる学習履歴等の学習系システムは、凸版印刷や大日本印刷等最近エドテックに名乗りを上げる企業が担う。
大阪独自の学力テストは、文科省学カテストと同じベネッセコーポレーシヨンや内田洋行、リクルートなどに発注され、このデータも蓄積される。
一人一人の学習履歴(学習ログ)から家庭環境に至るまで、民間企業にビッグデータとして収集され、小中学校から高校に至るまで蓄積され続ける。
「システム」は、「様子がおかしい」と判断する子どもを「発見」すると「アラート」(警告)が担任と管理職に伝えられる等、徹底した機械による管理だ。彼らは、これらを「個別最適化された学び」と呼ぶ。
大阪市は、20年度の当初予算ですでに、学校教育ICT活用事業に71億円、スマートスクール次世代学校支援事業に3億6千万円を計上した。
小5と小6及び中1に一人一台のタブレットの端末(4万7千台)を配布し、上記のダッシュボードシステムを今年度中に全小中学校に構築する計画を明らかにしている。
今後、21年度(中2・中3に2万9千台)、22年度(小3・4に3万7千台)、23年度(小1・2に3万台)を導入すると計画している。大阪市だけで14万台を超える。
大阪府も、20年度予算に「府立学校スマートスクール推進事業」を位置づけ、府立学校へのICTの本格導入を開始した。
これらは、子どもたちの学習のあり方から一人一人の行動と心まで数値化して管理するシステムだ。
これまでの人と人との関わりの中で進められてきた公教育が、根本から破壊される危険性に警戒を怠ることはできない。テスト結果や学習履歴等子どもデータの「蓄積」「活用」で、教育がどう変えられるのか。
それは、子どもの意欲や関心に支えられた「学び」ではなく、AIが提示する人材育成プログラムに基づく学習と課題解決スキル獲得の効率化のための道具に過ぎない。
子どもと教員、子ども同士の学びあいや人間的ふれあいから生まれる好奇心や意欲の発現が、効率優先の後景に退き、子どもと教員、子ども同士、教員同士の直接のコミュニケーシヨンの中から教育実践を産み出す営みが劣化する危険性がある。
『大阪ネットワークニュース』(2020年12月20日)
◆ 教育の自律性を破壊するコロナ禍での教育ICT戦略と教育統制
井前弘幸
1.コロナ感染拡大と教育産業の公教育への急浸透
(1)「全国一斉休校」を利用
教育のICT化によって巨大な利益を得ようとする勢力が、新型コロナウイルス感染対策による「一斉休校」の困難を利用して、子どもたちと家庭への急速な浸透を図っている。
ネット上で文科省や各地方教委とリンクした経産省の「学びを止めない未来の教室」は、無料のウェブサイトを通じて学習資料を家庭向けに配信し、子どもたちを「エドテック(EdTech)」(民間教育産業)と結びつけている。
経産省は、「全国の学校の臨時休業が進むでしょうが、そんなときこそEdTechがその力を発揮します」と呼びかける。
そこには、グーグル、マイクロソフト、ライン、リクルート、内田洋行、学研、小学館、シャープ、ドワンゴ等々の企業とリンクするボタンが並んでいる。
彼らは、一斉休校という災禍を逆利用して、急速に学校現場と家庭への入り込みを強化している。ショックドクトリンの手法である。
(2)最優先すぺきはICTの推進や競争ではない
新型コロナウイルス感染拡大の下で、安倍政権による一方的で場当たり的な「全国一斉休校」によって、全国の学校がその機能を一時停止させられました。
確かに、これまで教育へのICTの導入が喧伝されながら、各学校における「オンライン教育」環境の準備さえもなく、「教育活動の継続」は家庭任せとなり、特に困難な状況に置かれている子どもたちと学校とのつながりが断ち切られ、全般に子どもたちの状況さえ把握できなくなった。
学校再開後は、40人学級のすし詰め状態を余儀なくされ、感染防止対策も不十分な状況に置かれている。
一方で、文科省や各教委は、「学習の遅れを取り戻す」「学びを止めるな」のスローガンを前面に押し出し、夏休み等長期休業が短縮され、6・7時間授業や土曜授業などで授業等が押しつけられている。
全国学カテストは中止されたにも関わらず、大阪では中学1・2年生への「チヤレンジテスト」(内申書に点数反映)や小学生への新たな府内統一独自テストの新設等を強行しようとしている。
子どもたちも教職員も疲弊している。
コロナ禍の今、もっとも必要とされているのはICTによる教育活動の合理化を優先することではない。
オンライン授業は、経済格差拡大の中で「学力」格差をさらに広げる可能性が高い。最優先すべきは、できるかぎり早期に学級定員を縮小すること、教職員定数を拡充することである。
2.政府と財界が描く教育ICT戦略と「未来の学校」像
(1)第2次安倍内閣「日本再興戦略」から「未来投資戦賂」へ
「未来の学校像」は、第2次安倍内閣が描く経済戦略・投資戦略の中核の一つである。
「アベノミクスによる3本の矢」を掲げた「成長戦略日本再興戦略(2013年6月閣議決定」は年ごとに改訂を繰り返し、「未来産業創造」の中の「超スマート社会」の実現に向けた技術的地盤と人材の育成戦略の具体化が進められていった。その政策の全体像が、「未来投資戦略2017(17年6月閣議決定)」(Society5.0の実現に向けた改革)にとりまとめられている。
(2)総務省・文科省・経産省のタッグチーム
「未来の学校」は、経産省が全体を引っ張り、総務省と文科省を引きずりながら強行されている。
経産省は16年に設立した「教育産業室」を中心に「未来の教室プラットフォーム」を設立し、23の実証プロジェクトを始動、「学びのSTEAM化・プロジェクト化」と「学びの自立化・個別最適化」を進めている。
①STEAM(科学、技術、工学、芸術、数学)を中心とする学習コンテンツの開発と授業編成や指導案のモデルプランを提示する。その推進のために、
②学びの自立化・個別最適化を徹底する。
一斉授業からEdTech(民間教育産業)を活用した自学自習へ学習到達度主義、幼児期からの「個別学習計画」と「学習ログ」の蓄積(AIによる管理)、「学習ログ」の入学者選抜への活用を進める。そのための、
③新しい学習基盤=ICT環境整備(1人1台パソコン・高速大容量通信・クラウド接続の実現等)である。
文科省管轄の「GIGAスクール構想」(global and innovation gateway for all)とは、このような背景を持つ経済戦略である。
政府は、23年度までに子どもたちに一人一台のタブレット端末を持たせる「GIGAスクール構想」に2318億円の補正予算を付けた。コロナ禍の中で、その前倒しが進められている。
GIGAスクール構想を主導するのは、経産省であり、「『未来の教室』とEdTech研究会」なる組織でであるが、この組織の事務局を担っているのは、アメリカで公立学校の廃校とチャータースクールへの置き換えを推進した「ボストン・コンサルティング・グループ」である。
小中学生に一人1台の端末を配置するためには、今後約八百万~一千万台のタブレットが必要となる。
すでに、日本の教育市場を狙つてアメリカのマイクロソフトやグーグル、iPadが争奪戦を開始している。
NTTやNEC等日本のICT企業とエドテック教育産業がシステム構築とソフト受注の争奪戦に乗り遅れまいとしのぎを削っている。
3.「実証実験」から本格導入段階に入ろうとしていた大阪
大阪府及び大阪市は、17年度から2力年の「スマートスクール・プラットフォーム実証事業」(総務省)、「次世代学校支援モデル構築事業」(文科省)に参加し、大阪市の小学校3校と中学校2校を実証校に指定し、システム構築とソフトの活用実験を行わせた。
システム全体をNECが統括する。データベースにビッグデータとして子どもたちのすべて情報を蓄積し、「SKIP(ダッシュボード)」というシステムから、分析的に整理された情報を「児童・生徒カルテ」、「学級カルテ」、「学年カルテ」、「学校カルテ」として教育委員会・管理職に「見える化」する究極の管理システムだ。
具体的には、出席簿、家庭環境や生活状況等の生徒情報、健康管理、成績処理、保健室利用履歴、日常所見等の校務システムは、EDUCOM(株)が担い、文科省全国学力調査や大阪独自の学力テストの成績や解答分析、単元ドリル・単元テスト・定期テストの結果と学習状況データと分析、学習ソフトとそれによる学習履歴等の学習系システムは、凸版印刷や大日本印刷等最近エドテックに名乗りを上げる企業が担う。
大阪独自の学力テストは、文科省学カテストと同じベネッセコーポレーシヨンや内田洋行、リクルートなどに発注され、このデータも蓄積される。
一人一人の学習履歴(学習ログ)から家庭環境に至るまで、民間企業にビッグデータとして収集され、小中学校から高校に至るまで蓄積され続ける。
「システム」は、「様子がおかしい」と判断する子どもを「発見」すると「アラート」(警告)が担任と管理職に伝えられる等、徹底した機械による管理だ。彼らは、これらを「個別最適化された学び」と呼ぶ。
大阪市は、20年度の当初予算ですでに、学校教育ICT活用事業に71億円、スマートスクール次世代学校支援事業に3億6千万円を計上した。
小5と小6及び中1に一人一台のタブレットの端末(4万7千台)を配布し、上記のダッシュボードシステムを今年度中に全小中学校に構築する計画を明らかにしている。
今後、21年度(中2・中3に2万9千台)、22年度(小3・4に3万7千台)、23年度(小1・2に3万台)を導入すると計画している。大阪市だけで14万台を超える。
大阪府も、20年度予算に「府立学校スマートスクール推進事業」を位置づけ、府立学校へのICTの本格導入を開始した。
これらは、子どもたちの学習のあり方から一人一人の行動と心まで数値化して管理するシステムだ。
これまでの人と人との関わりの中で進められてきた公教育が、根本から破壊される危険性に警戒を怠ることはできない。テスト結果や学習履歴等子どもデータの「蓄積」「活用」で、教育がどう変えられるのか。
それは、子どもの意欲や関心に支えられた「学び」ではなく、AIが提示する人材育成プログラムに基づく学習と課題解決スキル獲得の効率化のための道具に過ぎない。
子どもと教員、子ども同士の学びあいや人間的ふれあいから生まれる好奇心や意欲の発現が、効率優先の後景に退き、子どもと教員、子ども同士、教員同士の直接のコミュニケーシヨンの中から教育実践を産み出す営みが劣化する危険性がある。
『大阪ネットワークニュース』(2020年12月20日)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます