=JWCHR第27総会 ミニ学習会=
☆ 人の命は全地球の重さより重い
新倉 修(青山学院大学名誉教授)
☆ 頑としで情報をださない
今日は重いテーマで話をすることになり、なぜ重いかというと「人の命は全地球の重さより重い」ということだ。
死刑は皆さんに関係がある。主権は国民にあるので主権者が死刑制度を容認しているので、死刑執行を主権者が行政府、とりわけ法務大臣に委ねている。法務大臣がサインをしない限り、死刑は執行されない。死刑は判決が確定してから6か月以内、執行命令がでてから3日以内となっている。命令書が出るのは法律の条文通りではない。
それはいいことだが、袴田事件は長い間入れられたが、それよりも長い人もいる。死刑確定者が10年や20年も入っていることは堪えがたいことだ。閉ざされた空間の情報を皆に提供するということで、拘置所に刑事施設視察委員会が入って、中を詳しく調べたり、収容者から意見を聞いたり、職員に面接したりしている。
東京拘置所や大阪にもあるが、頑として情報をださない。死刑確定者からの要望書は受入れているが、この問題について話したいとか、収容されている状況を視察したいというと、言葉がなくなっちゃう。
これはとても形式論だが、刑事施設視察委員会は受刑者の処遇について権限はあるが、そもそも死刑確定者は受刑者じゃないので、受刑とは処刑されることであって、受刑を待機している立場なので、受刑者と法律上、区別されているという。
執行とは処遇ではないという。では何なのだ。でも国連の用語でいえば、処遇は取り扱いなので、死刑者がどのように収容されているかとか、執行の場合に不当な執行がされていないか、そこでチェックする仕組みになっているので、明らかに法務省とか東京拘置所は言葉を勝手に定義して視察を拒んでいる状況だ。
☆ まともな回答は返ってこない
実は死刑そのものは皆さんの名前で行われているが、報告がない。法律論では我々は権利者で、権利の報告を記者会見で胡麻化している。国民の負託を受けてこのように執行したと、報告しなければいけないのに、これば重い話などとして秘密にされている。
メディアは被害者については報道するが、死刑の現状は分からない。極悪非道な人間の命を絶つのは悪いことではないのではないかとして、誤解が生じている。
世論のアンケートを取ると8割の人が死刑の存置に賛成しているとの結果が出ているので、文句あるかと国際人権の国連の場でも言っている。
日本が批准している自由権規約では死刑は廃止しろとは書いてはないが、残虐な執行をしたり、不公正な手続きで執行してはいけないと条文に書いてある。また、死刑存置の場合でも、出来るだけ対象になる犯罪は限定しなさいと言っている。それに対する応答は芳しくない。そしてとても抽象的でまともな回答は返ってこない。
☆ 裁判員には秘密保守義務
死刑になるような事件は国民が参加する裁判員裁判で裁かれるので、抽選に当たって裁判にあたっている人は、検察官が死刑といったら、その問題に向き合わねばならない。
例えば、相模原のやまゆり園事件では、19名が殺害された稀有な事件で、裁判員が6名いて、その内2人は法廷で証言は聞いているが、協議の時に辞めてしまったので、補足の人が協議に加わった。辞めた人は死刑賛成かどうかはっきり分からないが、「あの人の命を絶たないと正義は貫徹できない」位の強い気持ちがないとできないなどと、気にしていたのではないか。
死刑事件に関わった人はどういうことが話し合われたか、人に言ってはいけないとなっている。協議の秘密保守義務がある。これはとても重い。
☆ 日本は型破りの国
「私は反対したのに」とか、「あの人はこう言った、ああ言った」と言ってはいけない縛りがある。
世界はどうか。事実上、死刑を廃止している国は140以上ある。国連に加盟している国は193か国あるので、その2/3近くになっている。
アムネスティによると、実際に執行している国は20数か国しかない。
先進国という括りでいうと、OECDに加盟している国では、アメリカ、韓国は1998年から死刑は執行していない。日本は型破りの国である。
アメリカでは半分くらいの州で死刑は存置されている。その内8~10の州で執行されている。バイデンになってから、トランプと違って廃止すると言っていたので、連邦では死刑執行は止まっている。廃止するまでは言っていないが、死刑執行が正しいことだとは思っていない。
イスラエルがハマスを攻撃することは正しいと言っているが、出来るだけ人道的に扱うようにとも言っている。戦争とか死刑とか生命の問題は重いということであり、それを尊重しようとする機運はアメリカ国内では強い。
さらにイスラエルは死刑を廃止している国である。
☆ 英国大使の講演
死刑執行はないというのは世界的な趨勢で、人道的な刑罰ということは国連でも色々な会議を通じて様々な働きかけを行っている。今、日本に140か国位の大使がいる。その中で注目するのは英国大使のロングボトム氏で、彼女は日本語が上手で、先日も死刑問題で30分、基調報告を日本語で原稿も見ずに次のように講演した。
「日本と英国はとても良い関係にあります。共に基本的な価値を共有している。民主主義とか基本的人権とか法の支配とかではまったく同じだ。しかし残念なことに日本は死刑を執行している。これはとても気掛かりです。もし日本が死刑を廃止したら、両国の関係はもっと良くなるでしょう。それを信じています。」
個人の見解だろうと言う声に対して、「私は政府と違う話はしていない」を毅然と反論した。
死刑廃止について、2016年に日弁連で廃止を決めたが手間取っている。廃止するには法律を変えなければならない。法律を作るのは国会なので、国会議員つまり与党が動かなければならない。これが大変だ。
杉浦自民党議員が法務大臣の就任の時、死刑反対の立場を表明したら、後になって会見をもう一度開いて、「慎重に行う」と言い直した。千葉大臣は死刑廃止から死刑の執行に立ち会った。同じく民主党政権時の平岡大臣は内閣改造を理由に大臣を辞めさせられた。これ位に法務省は死刑存置に固執している。
その人たちに死刑は人道に反している、人権の侵害だ、先進国ならば死刑を廃止すべきと、一歩踏み出すために仕掛けが必要だ。
☆ 死刑は廃止できる
死刑を公約に掲げると必ず当選できないと言うジンクスがあるので、選挙民の動向が気になる。しかし、死刑がいかに残虐な刑罰であるかとみんなに伝えて行くことが大切だ。死刑は廃止できるので、みんなが声を挙げることが大切だ。
レジュメにあるポスターは映画「月」のポスターです。やまゆり園事件を題材に死刑の問題、人を殺すことはどういうことなのか、を突き詰めた映画です。とても感動しました。生命の問題を色々な角度から議論しなければならない、と考えさせられる深い映画だ。
『国際人権活動ニュース 第143号』(2024年4月12日)
JAPANESE WORKERS’COMMITTEE FOR HUMANRIGHTS
NGO in specialconsultative status with the Economic and Social Council of the United Nations
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