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ここが変だよ! 育鵬社・自由社の歴史教科書

2011年06月10日 | こども危機
 ▲ ここが変だよ! 育鵬社・自由社の歴史教科書

 教科書検定結果公開会場で育鵬社・自由社の歴史教科書を手に取って見てみた。他の教科書(合計5社)と比べて、2社の教科書はやはりおかしいことがよくわかった。

 1 天皇家のルーツ伝説「日本神話」を詳述
 育鵬社は2p、自由社はコラムも含めるとなんと4pも日本神話にページを費やしている。内容はいずれもイザナギ・イザナミの国生み、アマテラスの誕生、ニニギノ命の天孫降臨、神武天皇東征である。
 育鵬社は、アマテラスがニニギに与えた「三種の神器」を、天皇が即位するとき代々受け継ぐものと、現代の天皇との継続性についても触れている。また別のコラムページ(p34)で、天皇家の皇室祭祀として現在も行われている元日の四方拝、新嘗祭、春・秋の降霊祭を紹介している。
 自由社は「国譲り神話と古代人」というオオクニヌシの話で「日本には話し合いでものごとを決める伝統があった」「世界の他の地域なら、国土を奪い取る皆殺しの戦争になるところです」と我田引水の解釈をしている。それなら大海人と大友の叔父と甥のあいだの戦いなど、どうなるのだろうか。
 そしてこのコラムの最後は、2003(平成15)年に皇后が出雲大社を訪問したときつくった歌で締めくくっている。
 2 赤穂浪士の忠義の精神、二宮尊徳の勤勉の精神を強調
 自由社は、まるで戦前の国定教科書の焼き写しのように1pコラムで赤穂浪士を取り上げている(p130)。結論は「「公」のために、時には命をかけても最善を尽くす」ということだ。
 しかし、この教科書は、歌舞伎「仮名手本忠臣蔵」への評価と事件そのものに対する元禄時代当時の評価を混同している。そのうえ「忠義」が美談になったのは、じつは日露戦争後に福本日南が「元禄快挙録」を刊行して以降のことである。1937年版の「尋常小学国史」下巻にも同じような記述がみられる。歴史教科書では史実と虚構とを混同しないことが重要だ(奈倉哲三・跡見学園大学教授のお話より)
 また*二宮尊徳が8キロの山道を薪を背負って歩きながら勉強したり、行燈に寝間着を巻いて隠れて勉強した話(p131)も、国定教科書のままだ。
 育鵬社は、これほど露骨ではないにせよ、赤穂浪士を115p、二宮尊徳を131pで取り上げている。
 3 元寇の恐怖体験が19世紀末の朝鮮侵略へつながった?
 *自由社は「元寇がのこしたもの」という1pコラム(p102)で、1274年の文永の役で対馬の島民が残虐に殺害されたことを紹介し、この恐怖体験から強国が朝鮮半島に侵入することへの警戒心が生まれたと書いている。そしてそれが1888年に「朝鮮半島にロシアや英国が勢力を伸ばす可能性が高い。朝鮮が支配されれば、日本の独立は危うい」という意見書を山県有朋が出した背景にあるのではないかという珍説を展開している。
 そんなことをいうなら、16世紀の文禄・慶長の役で秀吉が2回にわたり朝鮮出兵をしたあと、朝鮮の人たちはどれほど日本人を恐れたかという話になってもおかしくないのだが。
 4 1890年の教育勅語を1項目として特記
 2社とも大日本帝国憲法発布の翌年、そして帝国議会招集の年に発せられた「教育勅語の発布」を1項目立てて記述している。そして「近代日本人の生き方に大きな影響を与えた」(自由社p179)、「その後の国民道徳の基盤となった」(育鵬社p167)と評価している。
 欄外に一部要約があるが、ポイントは2社とも「一旦緩急アレハ義勇公ニ奉シ以テ天壤無窮ノ皇運ヲ扶翼スヘシ」つまり「もし国や社会に危急のことがおきたならば、正義と勇気をもって公のために働き、永久に続く祖国を助けなさい」という部分である。
 5 終戦時の天皇の「聖断」
 自由社は「聖断下る」という項目見出しを立てて敗戦を記述している。育鵬社は見出しではないものの本文(p221)で「天皇の判断(聖断)をあおぎ」と記述する。さらに欄外で、自由社は「聖断の後の昭和天皇の発言」(迫水書記官長の証言)、育鵬社は「御前会議での昭和天皇の発言」を引用している。
 普通の教科書は「8月15日、昭和天皇がラジオ放送(玉音放送)で国民に知らせました。こうして第二次世界大戦が終わりました」(東京書籍p213)とサラッと書いてあるに過ぎない。
 開戦したのも「聖断」だったはずだが、それは書いていない。
 なおこの戦争を「自存自衛のための戦争」「大東亜戦争」と書いているのも当然ながらこの2社だけである。
 6 昭和天皇のコラム
 自由社は「昭和天皇 国民とともに歩まれた生涯」という2pコラム(p258-259)、育鵬社は「国民とともに歩んだ昭和天皇」という1pコラム(p233)を掲載している。内容は、天皇に開戦の責任がないこと、敗戦後のマッカーサーとの勇気ある会見、全国巡幸などである。2社とも天皇がつくった歌を一首、肖像写真と巡幸中の写真を掲載している。もちろん、こんな教科書はほかにない。
 7 もし戦争が起こったら国のために戦うか?
 自由社教科書の第6章(最終章)の最後のコラム(p266)で、5年ごとに60か国で実施されている「世界価値観調査」の「もし戦争が起こったら国のために戦うか」という質問を取り上げ、「『はい』と答えた人の割合は、日本が15.1%で最低となりました」と紹介している。
 そして「今まで学んだことと、この調査結果を関連付けてみましょう。また、そのことについて、どう考えるか、話し合ってみましょう」と問いかけている。
 日本は戦争をしないのだからアンケート調査そのものの意味がないのだが、いったい教室で何を語り合わせようというのだろうか。「今まで学んだ」目的は、この調査に「はい」と答える生徒を1%でも増やすことがなのだろうか。
 ちなみに育鵬社教科書の本文最終ページには、「戦後の国のあり方をめぐる問題は常に議論となり、しくみの見直しも徐々に進んでいます」という記述がある。「見直し」とは具体的になにかというと、安倍晋三内閣が2006年から07年にかけて成立に邁進した、教育基本法「改正」、憲法「改正」のための国民投票法、防衛庁の省昇格の3つだと書いている。
 『教科書を考える大泉さくらの会』(2011年06月01日)
 (都立大泉高校附属中学校への「つくる会」教科書採択に反対する会)

http://blog.goo.ne.jp/kyokasyo-ohizumi/e/360ae62e58812f83dcf4f0a330617cf8

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