=青年が直面するバイトと奨学金=
◆ 奨学金を貸与から給付へ
若年層の新たな運動を (週刊新社会)
◆ 6割強がブラックバイトを経験
2013年7月に、私は「ブラックバイト」という言葉をつくった。ブラックバイトとは「学生であることを尊重しないアルバイト」である。
14年に全国の大学生約5000人を対象とする「全国アルパイト学生調査」を行い、大学生全体の66.9%がブラックバイトを経験しているという事実を明らかにした。
この全国調査をもとにして私は、今野晴貴さん(『ブラック企業』(文春新書)の著者)との共著『ブラックバイト』(堀之内出版)を15年4月に出した。この本の出版以降、新聞やテレビなどのマスコミ報道は激増した。
とくに15年7月13日(月)に、私が出演したNHKクローズアップ現代「なぜ広がる“ブラックバイト”被害」は、午後7時台のゴールデンタイムでの放送ということもあって、ブラックバイトの実態を社会に広く伝えることとなり、大きな反響があった。
ブラックパイトへの世論の強い批判や国会での野党の追及(たとえば福島みずほ議員の15年7月14日、参院厚生労働委員会での「ブラックバイト」についての質問)などによって、政府もブラックバイトへの対策を開始することを余儀なくされた。
厚生労働省は15年8月から9月にかけて調査を行い、11月9日に「大学生等に対するアルバイトに関する意識等調査結果について」という調査結果を発表した。ここで全大学生の60・5%がアルバイトにおけるトラブルを経験していることが分かった。ブラックバイトが社会全体に横行していることは、確認された。
◆ 対抗する運動の広がり
ブラックバイトが社会問題化するにしたがって、対抗する運動も広がっている。
私の地元の愛知県ではブラックバイト専門の弁護団「ブラックバイト対策弁護団・あいち」が結成され、学生アルバイトの相談に無料で応じている。
また、「プラックバイトユニオン」をはじめ全国各地で大学生や高校生によるユニオンが相次いで結成され、アルバイトの労働条件の改善に積極的に取り組んでいる。新たな労働組合運動として注目すべき動きである。
奨学金問題についても近年、改善へ向けての運動が広がっている。
12年9月1日に愛知県の大学生らによって、有利子奨学金の無利子化と給付型奨学金の導入を目指す「愛知県学費と奨学金を考える会」が結成された。
全国でも13年3月31日に、返済困難者の救済と奨学金制度の改善を目的として「奨学金問題対策全国会議」が発足した。
13年11月には、奨学金問題対策全国会議編『日本の奨学金はこれでいいのか!』(あけび書房)が出版された。
これ以降、奨学金制度の改善を目指す運動は全国に広がった。
14年度には延滞金の年利10%から5%への軽減、返還猶予期限の5年から10年への延長、そして無利子の増加と有利子の減少という制度改善が進んだ。(無利子の増加と有利子の減少は15年度も継続)。
こうした部分的改善は進みながらも、日本学生支援機構の奨学金の「貸与」=「ローン」から「本来の奨学金」=「給付」への転換はいまだに行われていない。
15年に奨学金の新たな運動が始まった。中央労福協(労働者福祉中央協議会)が15年10月に、給付型奨学金の導入を求める「給付型奨学金制度の導入・拡充と教育費の軽減を求める署名」を開始したのである。全都道府県に組織があり、連合とも密接な関係を持つ中央労福協が署名に取り組んだことによって、15年秋以降に奨学金運動は飛躍的に発展した。
中央労福協による署名の第一次集約は16年1月末となっている。16年2月に内閣総理大臣宛てに提出される予定だ。
◆ 参院選の争点化が重要
ブラックバイトと奨学金問題は、新自由主義グローバリズムの進行が「若年層の貧困化」と「中間層の解体」をもたらしていることを意味している。
今夏の参議院選挙は第1回の18歳選挙権選挙である。ブラックバイトや奨学金問題は、新しく選挙権を得る18歳と19歳にとって最も身近で関心のある社会問題であることから、選挙での争点化は十分に可能だ。
16年は、この参議院選挙に向けて、安保法制反対や脱原発に加えてブラックバイトと奨学金の問題に積極的に取り組むことが、政党や労働組合に強く求められている。
ブラックバイトや奨学金の相談会・ホットラインの実施などによって若年層の置かれている現実を正確に捉え、組織化と新たな運動の構築が、重要かつ有効であると考える。
※大内裕和(おおうちひろかず)
1967年生。2007年より松山大学教授。2011年より中京大学教授。教育基本法「改正」反対全国連絡会の呼びかけ人として活動し、現在は、「奨学金問題対策全国会議」の共同代表。最近の主な著書、『日本の奨学金はこれでいいのかー.』(あけび書房)、『「全身○活」時代』(青土社)、『ブラック化する教育』(青土社)、『ブラック企業のない社会へ』(岩波書店)、『ブラックバイト』(堀之内出版)。
『週刊新社会』(2016年1月12日)
◆ 奨学金を貸与から給付へ
若年層の新たな運動を (週刊新社会)
大内裕和(中京大学教授)
◆ 6割強がブラックバイトを経験
2013年7月に、私は「ブラックバイト」という言葉をつくった。ブラックバイトとは「学生であることを尊重しないアルバイト」である。
14年に全国の大学生約5000人を対象とする「全国アルパイト学生調査」を行い、大学生全体の66.9%がブラックバイトを経験しているという事実を明らかにした。
この全国調査をもとにして私は、今野晴貴さん(『ブラック企業』(文春新書)の著者)との共著『ブラックバイト』(堀之内出版)を15年4月に出した。この本の出版以降、新聞やテレビなどのマスコミ報道は激増した。
とくに15年7月13日(月)に、私が出演したNHKクローズアップ現代「なぜ広がる“ブラックバイト”被害」は、午後7時台のゴールデンタイムでの放送ということもあって、ブラックバイトの実態を社会に広く伝えることとなり、大きな反響があった。
ブラックパイトへの世論の強い批判や国会での野党の追及(たとえば福島みずほ議員の15年7月14日、参院厚生労働委員会での「ブラックバイト」についての質問)などによって、政府もブラックバイトへの対策を開始することを余儀なくされた。
厚生労働省は15年8月から9月にかけて調査を行い、11月9日に「大学生等に対するアルバイトに関する意識等調査結果について」という調査結果を発表した。ここで全大学生の60・5%がアルバイトにおけるトラブルを経験していることが分かった。ブラックバイトが社会全体に横行していることは、確認された。
◆ 対抗する運動の広がり
ブラックバイトが社会問題化するにしたがって、対抗する運動も広がっている。
私の地元の愛知県ではブラックバイト専門の弁護団「ブラックバイト対策弁護団・あいち」が結成され、学生アルバイトの相談に無料で応じている。
また、「プラックバイトユニオン」をはじめ全国各地で大学生や高校生によるユニオンが相次いで結成され、アルバイトの労働条件の改善に積極的に取り組んでいる。新たな労働組合運動として注目すべき動きである。
奨学金問題についても近年、改善へ向けての運動が広がっている。
12年9月1日に愛知県の大学生らによって、有利子奨学金の無利子化と給付型奨学金の導入を目指す「愛知県学費と奨学金を考える会」が結成された。
全国でも13年3月31日に、返済困難者の救済と奨学金制度の改善を目的として「奨学金問題対策全国会議」が発足した。
13年11月には、奨学金問題対策全国会議編『日本の奨学金はこれでいいのか!』(あけび書房)が出版された。
これ以降、奨学金制度の改善を目指す運動は全国に広がった。
14年度には延滞金の年利10%から5%への軽減、返還猶予期限の5年から10年への延長、そして無利子の増加と有利子の減少という制度改善が進んだ。(無利子の増加と有利子の減少は15年度も継続)。
こうした部分的改善は進みながらも、日本学生支援機構の奨学金の「貸与」=「ローン」から「本来の奨学金」=「給付」への転換はいまだに行われていない。
15年に奨学金の新たな運動が始まった。中央労福協(労働者福祉中央協議会)が15年10月に、給付型奨学金の導入を求める「給付型奨学金制度の導入・拡充と教育費の軽減を求める署名」を開始したのである。全都道府県に組織があり、連合とも密接な関係を持つ中央労福協が署名に取り組んだことによって、15年秋以降に奨学金運動は飛躍的に発展した。
中央労福協による署名の第一次集約は16年1月末となっている。16年2月に内閣総理大臣宛てに提出される予定だ。
◆ 参院選の争点化が重要
ブラックバイトと奨学金問題は、新自由主義グローバリズムの進行が「若年層の貧困化」と「中間層の解体」をもたらしていることを意味している。
今夏の参議院選挙は第1回の18歳選挙権選挙である。ブラックバイトや奨学金問題は、新しく選挙権を得る18歳と19歳にとって最も身近で関心のある社会問題であることから、選挙での争点化は十分に可能だ。
16年は、この参議院選挙に向けて、安保法制反対や脱原発に加えてブラックバイトと奨学金の問題に積極的に取り組むことが、政党や労働組合に強く求められている。
ブラックバイトや奨学金の相談会・ホットラインの実施などによって若年層の置かれている現実を正確に捉え、組織化と新たな運動の構築が、重要かつ有効であると考える。
※大内裕和(おおうちひろかず)
1967年生。2007年より松山大学教授。2011年より中京大学教授。教育基本法「改正」反対全国連絡会の呼びかけ人として活動し、現在は、「奨学金問題対策全国会議」の共同代表。最近の主な著書、『日本の奨学金はこれでいいのかー.』(あけび書房)、『「全身○活」時代』(青土社)、『ブラック化する教育』(青土社)、『ブラック企業のない社会へ』(岩波書店)、『ブラックバイト』(堀之内出版)。
『週刊新社会』(2016年1月12日)
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