◆ 安倍ペテン政権 いつまで続ける「賃上げ要求」という猿芝居 (日刊ゲンダイ)
大新聞は「異例の呼びかけ」と書いていた。
日銀の黒田総裁が5日、連合の新年交歓会に出席し、「賃金上昇は日本経済の成長に不可欠だ」とあいさつ。しかも2%の物価目標に向けて「必要と判断すれば、さらに思い切った対応を取る」と、追加緩和をにおわす“リップサービス”のおまけ付きだった。
一国の金融政策をつかさどる中央銀行のトップが、春闘に臨む労組の会合に乗り込み、賃金交渉へのエールを送るとはどうかしている。日銀総裁の権限と責務を考えれば、民間企業への賃上げ要請と受け止められるような言動は慎むべきだろう。
黒田だって、これまでは賃金動向に強い関心を示しながら、直接的に働きかけることは避けてきた。それが一転、労組にエールを送ったのだから、確かに「異例の呼びかけ」なのだが、黒田発言が「異例」と思えない人がいるとすれば、それは安倍首相のせいだ。
過去3年、安倍は官民対話などを通じ、財界トップに賃上げを散々迫った。経済界も法人減税などの“見返り”欲しさにそれなりの賃上げに応じる。そんな光景を繰り返し見せつけられれば、誰だって感覚がマヒしてしまうのもムリはない。
とにかくまあ、首相も日銀総裁も経団連会長も連合も揃いも揃って賃上げを呼びかけ、皆が“労働者のミカタ”を気取っているが、どこまで本気なのか。それこそ全労働者は疑った方がいい。
◆ 富が滴り落ちるはずが実質賃金は2割減
昨年も「官製春闘」などと騒がれたものの、結局「ベア」を勝ち取ったのは円安政策の恩恵で空前の利益を挙げた自動車など輸出大手のみ。主要企業の賃上げ率は2.38%で、17年ぶりの高水準だったとはいえ、物価上昇の影響を差し引いた「実質」は、10月時点で前年比プラス0.4%の微増にとどまった。
せっかくの賃金アップも食料品の値上げラッシュにのみ込まれた格好だが、このデータの調査対象は「資本金10億円以上かつ従業員1000人以上」という大企業に限られる。
それじゃあ、この国の雇用の7割を占める中小企業はどうなったかといえば、厚労省が従業員30人未満の約4000事業所を調べたところ、昨年の賃金上昇率は平均0.9%。前年を0.2ポイント下回っていた。これでは従業員の家計は値上げラッシュに追い付かず、実質はマイナスに転じたに違いない。
いわゆる“勝ち組”大手と大多数の中小企業の賃金格差は広がるばかり。
連合の“労働貴族”たちも気兼ねしたのか、今年の春闘の要求方針は「ベア2%程度を基準」と、前年の「2%以上」から後退させる始末だ。
大企業の経常利益も、300兆円を超える内部留保も過去最高水準に達しているのに、連合が賃上げ要求を後退させるとは労働者への裏切り行為に等しい。
日本最大の労組のこの体たらくもあって、賃上げが消費増税と値上げラッシュに追い付かず、安倍政権の3年間で実質賃金は2割近くも低下してしまった。
「企業の収益が上がれば、富が滴り落ちる『トリクルダウン』の約束はどこへ消えたのですか。アベノミクスを打ち出して3年。今ごろは首相自ら財界に願い出なくとも、自然と賃金が上がっていたはずですが、現実には真逆の現象が起きています。つまり、安倍首相や黒田総裁の賃上げ要求はアベノミクスの失敗を物語っているのです。これだけ国民をたぶらかしておきながら、あたかも労働者の味方ぶるとは、言語道断です」(筑波大名誉教授・小林弥六氏=経済学)
この国の政権担当者には、おためごかしの猿芝居を演じる「亡国の輩」しかいないのか。
◆ 成長なき時代に見せかけの繁栄に固執する愚
もう右肩上がりの経済成長を期待するだけ無駄な時代だ。すでにグローバル資本主義の限界が叫ばれて久しい。日大教授のエコノミスト・水野和夫氏の著書「資本主義の終焉と歴史の危機」がベストセラーとなっているのも、そうした風潮の表れである。
世界経済最後のフロンティアと呼ばれた中国の成長も鈍化し、取って代わる投資先も見つからない。エコノミストの多くが「ゼロ成長時代の豊かさ」を模索する中、安倍政権が「GDP600兆円」など途方もない経済成長目標を掲げること自体に、そもそもムリがあるのだ。
5日付の朝日新聞紙上で〈だから自国民を収奪の対象とするようになった〉とバッサリと斬り捨てたのは、思想家の内田樹氏だ。舌鋒鋭く、発言はこう続いた。
〈貧者から吸い上げたものを富裕層に付け替え、あたかも成長しているかのような幻想を見せているだけです〉
〈成長がありえない経済史的段階において、まだ成長の幻想を見せようとしたら、国民資源を使い果たすしか手がない〉
なるほど、この言葉にはアベノミクスの全てが集約されている。安倍は「アベノミクスで雇用が増えた」と胸を張るが、増えているのは賃金が低く、雇用の不安定な非正規社員ばかりだ。この3年間で実に200万人近く増加し、昨年10月には史上初めて2000万人を突破した。この間、正社員の数は逆に50万人以上も減っている。
「そのうえ、安倍政権は派遣法を改め、ますます非正規雇用の増加にカジを切りました。非正規の大半は若者たちです。若い人たちを低賃金で苦しめながら、法人税率はあっさり引き下げた。
本来、社会保障や子育て支援、教育や医療・介護に使うべき税金を大企業の内部留保や株の配当に付け替えるようなものです。
あまつさえ、見せかけの株高を維持するため、虎の子の年金資金すら株式市場につぎ込んでしまう。株をやっている人には、ありがたい政権でしょうが、将来の人口減社会に必ず禍根を残しますよ」(政治評論家・森田実氏)
◆ 「挑戦」しない国民は怠け者の危うさ
安倍政権は貧者に犠牲を強いたうえで、「成長」の幻想を振りまいているに過ぎない。大企業の空前の収益だって労働者、中小企業、弱者からの搾取の結果である。
経済成長など夢物語だと百も承知で、政権も日銀も財界も労組も官僚も「賃上げ」の大合唱。まるで「雨乞い」を思わせるようなセレモニーはあまりにも醜悪だ。
もはや国民をだますことなど屁でもないのだろうか。アベノミクスの旗振り役の竹中平蔵慶大教授は「トリクルダウンなんて、あり得ない」と断言した。発言が飛び出したのは、1日放送の「朝まで生テレビ!」(テレビ朝日系)。どのツラ下げてと言いたくなるが、同番組で竹中は「トリクルダウンを待っている方が悪い」とまで言い切った。
国民は“おこぼれ”を期待せず、挑戦しなければならない、活躍しなければならないと、けしかけた。今の経済界はサボっている、中小企業も新たな成長分野にトライしていない、体質が古いと言いたい放題だったが、成長がもう望めない時代に竹中発言は「ないものねだり」に過ぎないのではないか。前出の小林弥六氏はこう言った。
「安倍首相が年頭会見で『挑戦』という言葉を25回も繰り返したのも、竹中発言の延長線上にあるのでしょう。つまり、国民にひたすら挑戦を押し付け、『1億総活躍』も国民の努力次第だという認識です。裏を返せば、経済成長が思い通りに実現しなければ、国民の責任となる。失政をタナに上げ、国民が挑戦せず、怠けてきたからだと論旨をスリ替えてしまう。こうして弱者を冷酷に切り捨てる口実にしたいのだと思います」
国民も見せかけの成長の犠牲になりたくなければ、いち早く、アベクロコンビの賃上げ要請の異常さに気付くべきだ。
『日刊ゲンダイ』(2016年1月7日)
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/172937
大新聞は「異例の呼びかけ」と書いていた。
日銀の黒田総裁が5日、連合の新年交歓会に出席し、「賃金上昇は日本経済の成長に不可欠だ」とあいさつ。しかも2%の物価目標に向けて「必要と判断すれば、さらに思い切った対応を取る」と、追加緩和をにおわす“リップサービス”のおまけ付きだった。
一国の金融政策をつかさどる中央銀行のトップが、春闘に臨む労組の会合に乗り込み、賃金交渉へのエールを送るとはどうかしている。日銀総裁の権限と責務を考えれば、民間企業への賃上げ要請と受け止められるような言動は慎むべきだろう。
黒田だって、これまでは賃金動向に強い関心を示しながら、直接的に働きかけることは避けてきた。それが一転、労組にエールを送ったのだから、確かに「異例の呼びかけ」なのだが、黒田発言が「異例」と思えない人がいるとすれば、それは安倍首相のせいだ。
過去3年、安倍は官民対話などを通じ、財界トップに賃上げを散々迫った。経済界も法人減税などの“見返り”欲しさにそれなりの賃上げに応じる。そんな光景を繰り返し見せつけられれば、誰だって感覚がマヒしてしまうのもムリはない。
とにかくまあ、首相も日銀総裁も経団連会長も連合も揃いも揃って賃上げを呼びかけ、皆が“労働者のミカタ”を気取っているが、どこまで本気なのか。それこそ全労働者は疑った方がいい。
◆ 富が滴り落ちるはずが実質賃金は2割減
昨年も「官製春闘」などと騒がれたものの、結局「ベア」を勝ち取ったのは円安政策の恩恵で空前の利益を挙げた自動車など輸出大手のみ。主要企業の賃上げ率は2.38%で、17年ぶりの高水準だったとはいえ、物価上昇の影響を差し引いた「実質」は、10月時点で前年比プラス0.4%の微増にとどまった。
せっかくの賃金アップも食料品の値上げラッシュにのみ込まれた格好だが、このデータの調査対象は「資本金10億円以上かつ従業員1000人以上」という大企業に限られる。
それじゃあ、この国の雇用の7割を占める中小企業はどうなったかといえば、厚労省が従業員30人未満の約4000事業所を調べたところ、昨年の賃金上昇率は平均0.9%。前年を0.2ポイント下回っていた。これでは従業員の家計は値上げラッシュに追い付かず、実質はマイナスに転じたに違いない。
いわゆる“勝ち組”大手と大多数の中小企業の賃金格差は広がるばかり。
連合の“労働貴族”たちも気兼ねしたのか、今年の春闘の要求方針は「ベア2%程度を基準」と、前年の「2%以上」から後退させる始末だ。
大企業の経常利益も、300兆円を超える内部留保も過去最高水準に達しているのに、連合が賃上げ要求を後退させるとは労働者への裏切り行為に等しい。
日本最大の労組のこの体たらくもあって、賃上げが消費増税と値上げラッシュに追い付かず、安倍政権の3年間で実質賃金は2割近くも低下してしまった。
「企業の収益が上がれば、富が滴り落ちる『トリクルダウン』の約束はどこへ消えたのですか。アベノミクスを打ち出して3年。今ごろは首相自ら財界に願い出なくとも、自然と賃金が上がっていたはずですが、現実には真逆の現象が起きています。つまり、安倍首相や黒田総裁の賃上げ要求はアベノミクスの失敗を物語っているのです。これだけ国民をたぶらかしておきながら、あたかも労働者の味方ぶるとは、言語道断です」(筑波大名誉教授・小林弥六氏=経済学)
この国の政権担当者には、おためごかしの猿芝居を演じる「亡国の輩」しかいないのか。
◆ 成長なき時代に見せかけの繁栄に固執する愚
もう右肩上がりの経済成長を期待するだけ無駄な時代だ。すでにグローバル資本主義の限界が叫ばれて久しい。日大教授のエコノミスト・水野和夫氏の著書「資本主義の終焉と歴史の危機」がベストセラーとなっているのも、そうした風潮の表れである。
世界経済最後のフロンティアと呼ばれた中国の成長も鈍化し、取って代わる投資先も見つからない。エコノミストの多くが「ゼロ成長時代の豊かさ」を模索する中、安倍政権が「GDP600兆円」など途方もない経済成長目標を掲げること自体に、そもそもムリがあるのだ。
5日付の朝日新聞紙上で〈だから自国民を収奪の対象とするようになった〉とバッサリと斬り捨てたのは、思想家の内田樹氏だ。舌鋒鋭く、発言はこう続いた。
〈貧者から吸い上げたものを富裕層に付け替え、あたかも成長しているかのような幻想を見せているだけです〉
〈成長がありえない経済史的段階において、まだ成長の幻想を見せようとしたら、国民資源を使い果たすしか手がない〉
なるほど、この言葉にはアベノミクスの全てが集約されている。安倍は「アベノミクスで雇用が増えた」と胸を張るが、増えているのは賃金が低く、雇用の不安定な非正規社員ばかりだ。この3年間で実に200万人近く増加し、昨年10月には史上初めて2000万人を突破した。この間、正社員の数は逆に50万人以上も減っている。
「そのうえ、安倍政権は派遣法を改め、ますます非正規雇用の増加にカジを切りました。非正規の大半は若者たちです。若い人たちを低賃金で苦しめながら、法人税率はあっさり引き下げた。
本来、社会保障や子育て支援、教育や医療・介護に使うべき税金を大企業の内部留保や株の配当に付け替えるようなものです。
あまつさえ、見せかけの株高を維持するため、虎の子の年金資金すら株式市場につぎ込んでしまう。株をやっている人には、ありがたい政権でしょうが、将来の人口減社会に必ず禍根を残しますよ」(政治評論家・森田実氏)
◆ 「挑戦」しない国民は怠け者の危うさ
安倍政権は貧者に犠牲を強いたうえで、「成長」の幻想を振りまいているに過ぎない。大企業の空前の収益だって労働者、中小企業、弱者からの搾取の結果である。
経済成長など夢物語だと百も承知で、政権も日銀も財界も労組も官僚も「賃上げ」の大合唱。まるで「雨乞い」を思わせるようなセレモニーはあまりにも醜悪だ。
もはや国民をだますことなど屁でもないのだろうか。アベノミクスの旗振り役の竹中平蔵慶大教授は「トリクルダウンなんて、あり得ない」と断言した。発言が飛び出したのは、1日放送の「朝まで生テレビ!」(テレビ朝日系)。どのツラ下げてと言いたくなるが、同番組で竹中は「トリクルダウンを待っている方が悪い」とまで言い切った。
国民は“おこぼれ”を期待せず、挑戦しなければならない、活躍しなければならないと、けしかけた。今の経済界はサボっている、中小企業も新たな成長分野にトライしていない、体質が古いと言いたい放題だったが、成長がもう望めない時代に竹中発言は「ないものねだり」に過ぎないのではないか。前出の小林弥六氏はこう言った。
「安倍首相が年頭会見で『挑戦』という言葉を25回も繰り返したのも、竹中発言の延長線上にあるのでしょう。つまり、国民にひたすら挑戦を押し付け、『1億総活躍』も国民の努力次第だという認識です。裏を返せば、経済成長が思い通りに実現しなければ、国民の責任となる。失政をタナに上げ、国民が挑戦せず、怠けてきたからだと論旨をスリ替えてしまう。こうして弱者を冷酷に切り捨てる口実にしたいのだと思います」
国民も見せかけの成長の犠牲になりたくなければ、いち早く、アベクロコンビの賃上げ要請の異常さに気付くべきだ。
『日刊ゲンダイ』(2016年1月7日)
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/172937
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