☆ 3・6大阪高裁での控訴審判決を紹介する (「週刊実話」裁判ニュース)
本年3月6日、和歌山事件の大阪高裁での控訴審判決。和歌山地裁が、関西生コン支部武谷書記次長ら3名を威力業務妨害・強要未遂の有罪が、産業別労働組合としての正当な組合活動と認め、憲法28条の団体交渉権で保障される正当な行為とし、一審判決を逆転、無罪判決を言い渡した。
検察上告せず、無罪確定。
その判決文のうち、「当裁判所の判断」で重要な点を紹介する。
(2)被告人らの行為の正当行為性について
ア 原判決は、関生支部事務所の調査について、関生支部として、丸山に事実確認を行い、事実であれば再発防止を求める交渉を行うという目的自体は正当ではあるが、関生支部の組合員の中に丸山又は広域協に雇用されている者がいないとして、その目的を達成する手段として許容される行為には相応の限界があると説示する(原判決23頁)。
しかし、これは、労働組合の団結権保障の趣旨や、関生支部が産業別労働組合であることを正解しない不合理な認定判断といわざるを得ない。
原判決が前記説示をした根拠は必ずしも明らかではないが、憲法28条の団結権等の保障は、労働関係の当事者に当たることが前提で、労組法1条2項の刑事免責も、同様の前提を必要とするところ、被告人らと丸山との間には、このような関係が存在しないとの考えによるものと推察される(検察官も同旨の主張をしているものと解される[答弁書23頁、25頁]。)。
しかしながら、産業別労働組合である関生支部は、業界企業の経営者・使用者あるいはその団体と、労働関係上の当事者に当たるというべきだから、憲法28条の団結権等の保障を受け、これを守るための正当な行為は、違法性が阻却されると解すべきである(労組法1条1項)
(なお、検察官も、原審期日間整理手続の中で、労組法1条の団結権が産業別労働組合にも保障され、団結権を擁護するためにした正当な行為が同法1条2項により違法性が阻却され得ること自体は否定しないとして、これに反する従前の主張を撤回しているところである[原審検察官作成の令和2年12月18日付け「意見審」]。)。
既にみたとおり、本件の発端は、生コン事業者(使用者)の協同組合である広域協の意を受けた元暴力団員らが、関生支部事務所の調査を行い、ビデオカメラで撮影し、「在籍確認や」「武谷おるか」などと組合員らを監視したり、圧力をかけたりする行為に及んだことにある。
このような行為が、関生支部の団結権を大きく脅かすものであることは明らかで、関生支部幹部等が、その首謀者と目する広域協の実質的運営者である丸山の下へと抗議等に赴くことは、それが暴力の行使を伴うなど不当な行為に及ぶものでない限り、労働組合が団結権を守ることを目的とした正当な行為として、労組法1条2項の適用又は類推適用を受けるというべきである。
にもかかわらず、原判決は、既述のとおり、広域協による関生支部の調査を矮小化した誤った事実認定の基に、広域協の実質的運営者である丸山と関生支部とが、労働関係上の当事者に当たらないことを前提にして、被告人らの行為の正当行為を否定したものであるから、その前提とする事実関係の認定は著しく不合理なもので、事実の誤認がある。
なお、検察官は、被告人らの目的は、労組法1条1項所定の正当な目的とは認められない旨を主張する(答弁書23頁)。同主張は、丸山や●●の原審証言を根拠に、被告人らの目的が、丸山に謝罪させ、関生支部の意に従わせることにあったことを前提とする。
しかし、原判決も、目的の正当性までも否定しているわけではない。そして、丸山、●●両名の証言が、鵜呑みにできないものであることは、既に述べたとおりである。
本件当時及びその前後の状況からも、被告人らが正当な目的を有さずに、本件に及んだと断ずることはできない。同主張は採用できない。
イ しかも、被告人らの丸山に対する本件抗議の態様等は、確かに、丸山の名誉を毀損する街宣活動といった若干行き過ぎといえる部分を含むものとはいえ、暴力を伴うものではない。
本件を含む関生支部と広域協との一連のやり取りを全体的に見た場合、被告人らの行為が社会的相当性を明らかに逸脱するとまではいい難く、労組法1条2項の適用又は類推適用により正当行為として違法性が阻却される合理的な疑いが残るといわざるを得ない。
(8)結論
以上によれば、原判決は、被告人らの行為の強要未遂罪及び威力業務妨害罪の各構成要件該当性の判断、さらには、正当行為に当たるか否かという判断において、前提事実の認定やその評価を誤ったものであり、上記各構成要件の該当性に疑問が残るとともに、被告人らの行為が労組法1条2項、刑法35条の正当行為となることも否定できない以上、上記事実誤認が判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、その余の論旨について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。
第4 破棄自判
よって、刑訴法397条1項、382条により原判決を破棄し、同法400条ただし書を適用して更に次のとおり判決する。
『「週刊実話」裁判ニュース 創刊号』(2023年9月20日)
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