《月刊『まなぶ』【時の動き】》
★ 大震災の朝鮮人虐殺隠し
~高校副読本 増田元教諭の追及に、都教委が一部修正表明 (月刊『まなぶ』)
教育ライター 永野厚男(ながのあつお)
育鵬社(いくほうしゃ)等、“つくる会”系中学社会科・公民教科書は「各国の憲法改正回数」なる一覧表を載せ、「日本は憲法を一度も改正せず」と“改正”を煽(あお)り、“君が代・愛国心”、自衛隊など国論を二分する問題で、保守系政治家に偏(へん)した主張を多く記述しています。
都立中高一貫校・特別支援学校にこのアブナイ教科書を採択し続けている東京都教育委員会(木村孟(つとむ)委員長)は、「日本人としての自覚を高めるため」と称し、2010年3月、学習指導要領では選択科目の日本史を「12年4月から全都立高校で必修化する」と決定。未必修化の都立高に最低でも週1単位(年間35時間)以上、『江戸から東京へ』(以下『江戸』と略記)と題する都教委作成・発行の副読本を使う授業を強制しています。
11年4月から1年間、日本史必修化協力校で試行授業させた時点の『江戸』初版は、戦争への反省の記述が不十分だという問題点はありましたが、生徒に有害な記述はあまりありませんでした。
しかし都教委が1029万円かけ作成し、12年4月、4万8291人の都立高新入生全員に配布、13年3月まで使用させた『江戸』改訂版の125頁「第二次世界大戦と太平洋戦争」は、日本の開戦理由を「植民地支配からアジアを解放する『大東亜共栄圏』の建設をはかること」と記述後、連合国軍最高司令官・マッカーサーの証言(以下、マ証言。1951年、米上院軍事外交合同委員会公聴会)を部分引用し、「この戦争を日本が安全上の必要に迫られて起こしたととらえる意見もある」と記述。「第二次世界大戦は自衛戦争だ」と生徒に印象付ける意図が鮮明です。文科省でさえ検定で育鵬社教科書の原稿から削らせた、特異な主張です。検定がない副読本ゆえ、都教委はやりたい放題なのです。
増田都子(みやこ)元千代田区立中学校教諭(平和教育実践で分限免職)は、「マ証言は第二次世界大戦が対象ではない。引用部は米国が直面する朝鮮戦争に勝つため中国を経済封鎖するのに、『太平洋戦争開戦前、日本を経済封鎖で追い込み暴走させた過去』を例示しただけ。この後『マレー、インドネシア、フィリピンなどに、日本が資源奪取の侵略戦争をした事実』を縷々(るる)述べている」と指摘し続けてきました。
だが「マ証言の主要部分を取り上げた」と弁明するだけの都教委に、増田さんは12年9月19日、要請行動で「当該箇所ははたマ証言全体の何字分か」と追及。
波田健二教育情報課長は「約2万2千語中の9語」と回答。参加者が「9語(全文の0・0004%)が主要部分か」と問うと、驚くことに波田氏は「一部分でも主要部分だ」と述べたのです。
ともあれ、都教委作成の教師用指導書も、「マ証言の記述を使い日米開戦が不可避となった理由について考察する」旨、明記しており、「自衛戦争」教化の意図は明白です。
★ 朝鮮人虐殺碑文まで改竄(かいざん)
東京都墨田区横網(よこあみ)町公園にある関東大震災朝鮮人犠牲者追悼碑は、
「一九二三年九月発生した関東大震災の混乱のなかで、あやまった策動と流言蜚語(りゅうげんひご)のため六千余名にのぼる朝鮮人が尊い生命を奪われました」
と明記しています(以下、下線は筆者)。
『江戸』12年度版はこの碑について、「大震災の混乱のなかで数多くの朝鮮人が虐殺されたことを悼み、1973年に立てられた」と、一応「虐殺」に言及していました。
だが都教委は13年1月24日、555万円かけ作成し13年度都立高新入生全員に配布する再改訂版では、碑文の「虐殺」の文言を削除し
「碑には、大震災の混乱のなかで、『朝鮮人の尊い命が奪われました』と記されている」
と記述変更すると発表。
このため増田さんらが2月15日、「二重カッコの引用部に改竄あり。碑文通り修正を」と要請。
前出・波田氏は、改竄箇所について「助詞(の改竄)はご指摘通りだ。発行段階で修正します」と回答しました。
しかし二重カッコ直前に、本来碑にある「あやまった・・・」以下の記述を載せない理由を増田さんが問うと、波田氏は「六千余名という人数の記載が不適切」と回答。
増田さんが「人数が嫌なら、せめて『あやまった・・・ため』は引用を」と迫ると、波田氏は「ご意見として承っておきます」と回答。
「虐殺」の文言削除には、在日本大韓民国民団東京本部も2月7日、「反省すべき歴史的事実を暗闇に葬ろうとしている」などと批判する抗議文を都教委に提出しています。
これを踏まえ、増田さんは改竄のプロセスを質しました。すると波田氏は「専門家の監修者や執筆者に報告はしたが、事前に相談する内容ではないと判断した」と、都教委事務局だけで改竄したことを認めました。碑文の引用まで改竄し、日本の侵略戦争や虐殺の事実の隠蔽(いんぺい)を図る都教委は、深い反省が求められてしかるべきです。
※ ながのあつお
憲法の立憲主義に逆行する政治家・文科省・教育委員会の施策や動向を分析する記事を執筆中。
月刊『まなぶ』(2013年5月号)
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