《教科書ネット21ニュースから》
◆ 育鵬社教科書への教員の思いを可視化する試み
-アンケート調査を実施して-
◆ 藤沢市、育鵬社の公民・歴史採択
藤沢市は「核兵器廃絶平和都市宣言」(1982年)を行い、「核兵器廃絶平和推進の基本に関する条例」(1995年)を持つまちです。
しかし2011年、育鵬社の公民、歴史の採択を行いました。これを受けてこの年の秋、「藤沢の教科書・採択問題にとりくむ会」(以下藤沢とりくむ会)を、「神奈川の教科書・採択問題にとりくむ会」や地域の教職員と市民の連携をめざして組織しました。
2015年の採択では、「現場の教員、保護者の意向を反映ずる」ことを求める要望書の賛同署名を、藤沢市で長く活動をしている老舗の市民団体「みんなの教育・ふじさわネット」と共に54,000筆集め提出しました。
現場の教員も「教科用図書調査書」で明らかにNOの意志表示をしました。
しかしそれらすべてを無視。教育委員会は多数決で継続使用を決めました。
◆ 現場教員対象のアンケートに取り組む一中学校採択替えに向けて
昨年の藤沢市の審議委員会(教育委員会への答申をする組織)は、「特に問題がない」「残りが1年」として、すべての小学校の教科書の継続使用を答申しました。
「藤沢とりくむ会」と「みんなの教育ふじさわネット」は、たとえ1年でも、育鵬社について「問題ない」ので継続使用となるのは困ると考えました。
既に2011年の秋から、現場の教員と「藤沢とりくむ会」の市民有志は、共同で育鵬社教科書使用に際しての「留意点」、補足資料、指導案などを現場に届ける取り組みを行ってきました。このメンバーで現場の教員の思いを聞くアンケートを実施し、「問題がある」ことを可視化することにしました。
対象は、今、生徒と接している現場教員に限る、質問の内容については「使いにくいかどうか」いう問い以外は、自由記述とし、結論ありきの誘導にならないようにしました。
2018年12月から配布を始めましたが、超多忙な現場からの回答はなかなか集まらず、メンバーは各学校の知り合いを探し、個別にも「アンケートへの協力」をくり返しお願いしました。用紙を紛失したと聞けば、届けにも行きました。
◆ アンケート結果一19校中17校から回答寄せられる
アンケート結果は今年3月にまとめ、「藤沢とりくむ会」のホームページにアップしました。
https://www.fujisawatorikumukai.com/%E8%82%B2%E9%B5%AC%E7%A4%BE%E3%81%AE%E6%95%99%E7%A7%91%E6%9B%B8%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%82%B1%E3%83%BC%E3%83%88/
市内中学校19校中17校の教員から回答が寄せられました。
回答者は20代:12名、30代:11名、40代:3名、50代:9名、60代:7名、合計42名。
「使用しての感想」では32名が「使いにくい」、「普通」「わからない」がそれぞれ4名、「使いやすい」が1名。
つまり全体の8割が「使いにくい」と回答しています。
自由記述は「KJ法」で分類、整理し、小見出しをつけました。一人の意見でも複数の観点からの意見は、内容別に振り分けました。自由記述には、困っていることや批判が満載でした。
◆ 「問題がないので継続使用」を回避
5月、「藤沢とりくむ会」は、藤沢市教育委員会に「現場の教員・保護者の意向を踏まえた採択」を、中学校の採択替えに当たっては、「使用している中学校の現場の状況を把握したうえで、決定」するようを要望し、別添資料としてアンケート結果を提出しました。
その後、教育委員会へ答申を提出する「審議委員会」に変化が生じました。
中学校の採択替えの審議は、使用実績を踏まえて行うとし、中学校長の2名の審議委員に使用実績について報告するよう第2回の審議委員会で要請がなされました。
そこで急遽藤沢とりくむ会も、市内19校の校長宛に「アンケートのまとめ」を郵送し、現場の声を届けました。
第3回の審議委員会では、冒頭、委員(中学校長)は、校長会にも確認をしたとし、教科書によっては「使いづらい」ものもあるが、教員は資料や補助教材を活用して工夫しながらやっていると発言しました。
最終的には、新規参入教科書もなく、また来年は新課程の研究や新課程教科書の採択に集中すべきだとし、全教科書の継続使用が了承されましたが、「使いづらい」教科書があるという認識が会議の場で公に示されました。
7月30日に採択のための教育委員会が開催されました。その場でも教育委員会の担当が審議委員会での、「使いづらい教科書もある」という指摘の経過を報告するという手続きが取られた上で継続使用が決まりました。
◆ 来年に向けて
藤沢市では、2015年以降、資料の可視化が進み、現場の教員や市民の意見を無視できなくなっています。
教育長は今年も、現場の意向を尊重したいと何度も発言しています。来年の「育鵬社教科書NO」に向けて、さらに知恵と力を集めたいと思っています。
https://www.fujisawatorikumukai.com/(藤沢の教科書・採択問題にとりくむ会・ホームページアドレス)(ひうらたかこ)
『子どもと教科書全国ネット21ニュース 127号』(2019年8月)
◆ 育鵬社教科書への教員の思いを可視化する試み
-アンケート調査を実施して-
樋浦敬子 藤沢の教科書・採択問題にとりくむ会
◆ 藤沢市、育鵬社の公民・歴史採択
藤沢市は「核兵器廃絶平和都市宣言」(1982年)を行い、「核兵器廃絶平和推進の基本に関する条例」(1995年)を持つまちです。
しかし2011年、育鵬社の公民、歴史の採択を行いました。これを受けてこの年の秋、「藤沢の教科書・採択問題にとりくむ会」(以下藤沢とりくむ会)を、「神奈川の教科書・採択問題にとりくむ会」や地域の教職員と市民の連携をめざして組織しました。
2015年の採択では、「現場の教員、保護者の意向を反映ずる」ことを求める要望書の賛同署名を、藤沢市で長く活動をしている老舗の市民団体「みんなの教育・ふじさわネット」と共に54,000筆集め提出しました。
現場の教員も「教科用図書調査書」で明らかにNOの意志表示をしました。
しかしそれらすべてを無視。教育委員会は多数決で継続使用を決めました。
◆ 現場教員対象のアンケートに取り組む一中学校採択替えに向けて
昨年の藤沢市の審議委員会(教育委員会への答申をする組織)は、「特に問題がない」「残りが1年」として、すべての小学校の教科書の継続使用を答申しました。
「藤沢とりくむ会」と「みんなの教育ふじさわネット」は、たとえ1年でも、育鵬社について「問題ない」ので継続使用となるのは困ると考えました。
既に2011年の秋から、現場の教員と「藤沢とりくむ会」の市民有志は、共同で育鵬社教科書使用に際しての「留意点」、補足資料、指導案などを現場に届ける取り組みを行ってきました。このメンバーで現場の教員の思いを聞くアンケートを実施し、「問題がある」ことを可視化することにしました。
対象は、今、生徒と接している現場教員に限る、質問の内容については「使いにくいかどうか」いう問い以外は、自由記述とし、結論ありきの誘導にならないようにしました。
2018年12月から配布を始めましたが、超多忙な現場からの回答はなかなか集まらず、メンバーは各学校の知り合いを探し、個別にも「アンケートへの協力」をくり返しお願いしました。用紙を紛失したと聞けば、届けにも行きました。
◆ アンケート結果一19校中17校から回答寄せられる
アンケート結果は今年3月にまとめ、「藤沢とりくむ会」のホームページにアップしました。
https://www.fujisawatorikumukai.com/%E8%82%B2%E9%B5%AC%E7%A4%BE%E3%81%AE%E6%95%99%E7%A7%91%E6%9B%B8%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%82%B1%E3%83%BC%E3%83%88/
市内中学校19校中17校の教員から回答が寄せられました。
回答者は20代:12名、30代:11名、40代:3名、50代:9名、60代:7名、合計42名。
「使用しての感想」では32名が「使いにくい」、「普通」「わからない」がそれぞれ4名、「使いやすい」が1名。
つまり全体の8割が「使いにくい」と回答しています。
自由記述は「KJ法」で分類、整理し、小見出しをつけました。一人の意見でも複数の観点からの意見は、内容別に振り分けました。自由記述には、困っていることや批判が満載でした。
肝心な記述や資料がなく、初めて歴史や公民を学ぶ生徒に対して、とてもわかりにくく、中学生の目線で教育的に書くという配慮に欠けている。それでも生徒が歴史や公民をしっかり学び、主権者として生きていけるように、教材に真摯に向き合い、工夫をしている教員の姿もはっきり浮かび上がりました。
編集姿勢、思想の傾向が問題で、人類が目指してきた国際協調の理念や人権思想についての通説や歴史学等の長年にわたる研究の成果などを学ぶことができない。
外国につながる子どもの多い藤沢市で「その子どもが寂しくなってしまうような表記が各所にある」。
知識の偏りや押しつけが多く、多面的多角的な思考力が育たない。
他の教科書記述と違う点が多く、入試への対応に苦労している等々。
◆ 「問題がないので継続使用」を回避
5月、「藤沢とりくむ会」は、藤沢市教育委員会に「現場の教員・保護者の意向を踏まえた採択」を、中学校の採択替えに当たっては、「使用している中学校の現場の状況を把握したうえで、決定」するようを要望し、別添資料としてアンケート結果を提出しました。
その後、教育委員会へ答申を提出する「審議委員会」に変化が生じました。
中学校の採択替えの審議は、使用実績を踏まえて行うとし、中学校長の2名の審議委員に使用実績について報告するよう第2回の審議委員会で要請がなされました。
そこで急遽藤沢とりくむ会も、市内19校の校長宛に「アンケートのまとめ」を郵送し、現場の声を届けました。
第3回の審議委員会では、冒頭、委員(中学校長)は、校長会にも確認をしたとし、教科書によっては「使いづらい」ものもあるが、教員は資料や補助教材を活用して工夫しながらやっていると発言しました。
最終的には、新規参入教科書もなく、また来年は新課程の研究や新課程教科書の採択に集中すべきだとし、全教科書の継続使用が了承されましたが、「使いづらい」教科書があるという認識が会議の場で公に示されました。
7月30日に採択のための教育委員会が開催されました。その場でも教育委員会の担当が審議委員会での、「使いづらい教科書もある」という指摘の経過を報告するという手続きが取られた上で継続使用が決まりました。
◆ 来年に向けて
藤沢市では、2015年以降、資料の可視化が進み、現場の教員や市民の意見を無視できなくなっています。
教育長は今年も、現場の意向を尊重したいと何度も発言しています。来年の「育鵬社教科書NO」に向けて、さらに知恵と力を集めたいと思っています。
https://www.fujisawatorikumukai.com/(藤沢の教科書・採択問題にとりくむ会・ホームページアドレス)(ひうらたかこ)
『子どもと教科書全国ネット21ニュース 127号』(2019年8月)
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