《週刊新社会:書評》
☆ 『学校では教えてくれない生活保護』
雨宮処凛著 “生き延びる方法”(河出書房新社)
雨宮処凛(あまみやかりん)著『学校では教えてくれない生活保護』は河出書房新社の「14歳の世渡り術」シリーズ(既刊123冊)の1冊。元議員として現在も生活保護申請に立ち会う私も「目からうろこ」の本だ。
反貧困運動を担う雨宮さんは、コロナ禍で多くの人の生活が行き詰まる中で、生き延びる方法を身につけてほしい、生活保護はその一つだとの思いで書いている。
そして最後に、「『親ガチャ』でハズレを引いたと思っても、そんなことには関係なく学べて、自分の能力を存分に伸ばせる社会。そんな社会にしていくことは、大人の責任」とまとめている。
本の帯には「今知っておきたいリアルな実態と死なないノウハウが詰まった入門書」とあるように、雨宮さんは「ちょっとした情報があるかないかで生き死にが分かれてしまうこの国で、誰もが知っておくべきこと、詰め込みました」と書いている。
そう、いざとなったら生活保護をどう受けるのか、その知識を知らない市民、そして担当窓口で「相談」だけで帰されないように、弁護士や自治体議員、民生委員など、窓口がむげにできない知り合いがいるかどうかで対応が分かれることがある。そのため、生活保護にかかわる団体も紹介されている。
もちろん、生活保護は恥ずかしいものではなく、憲法で保障されている権利であることや、制度の内容を詳しく紹介している。
ただ、ここで「親ガチャ」ならぬ「自治体ガチャ」があることも書かれている。つまり、自治体によっては生活保護にたどりつけない現実がある。いわゆる「水際作戦」で体よく追い返される。
それは生活保護担当者(ケースワーカー)の忙しさも影響する。標準の受け持ち件数80件を超えて100件超など、過密労働が放置されている。
新社会党は作成中の参議院選挙政策でケースワーカーの職員数を「都市部60世帯に1人、郡部40世帯に1人以上」と規定している。
雨宮さんは本書で自身の知識と経験だけではなく、生活保護の実務と法制度に詳しい弁護士や、外国の生活保護制度の研究者などに聞く形で、先ほどの「自治体ガチャ」だけではなく、「国ガチャ」があることも紹介する。日本の制度が良くなってほしいとの思いからだ。
紹介されているのは韓国とドイツの例だが、字数の関係でドイツまで触れられない。
韓国では社会保障制度は未整備だったが、97年の経済危機で急速に失業者とホームレスが増えた。それまでは基本的に子どもと高齢者だけが対象であった制度を、99年に「国民基礎生活保障」と名前を変えた。ちなみに新社会党は生活保護法ではなく、「生活保障法」とするよう求めている。
韓国のこの制度の特徴は法律に「受給権者」とはっきりと書き、「単給」制度をとっていることだ。日本はオールオアナッシング、つまり、最低生活費の上か下かで受給できるか否かが線引きされる。
韓国の単給制度は、所得の中央値の50%以下だと教育給付費が、46%以下なら住宅給付、40%以下は医療給付、30%以下なら生計給付も出る。もちろん世帯人数によって違いが出るが。
日本で一番苦しむのは生活保護水準のちょっと上のボーダーライン層だ。ここを救済できるのが単給制。
韓国でこの制度ができたのは15年の改正。その前年には生活保護給付を得られない「死角地帯」をなくすために、「社会保障給付の利用、提供および受給権者の発掘に関する法律」が制定され、大キャンペーンが行われた。
そのきっかけは母子3人の練炭自殺。この事件が韓国社会に与えた影響は大きく、世論の盛り上がりと政治の対応も早かった。
韓国は優れた制度を採り入れる積極さと、それを生み出す大衆的エネルギーがあるが、日本はそれに欠ける。その思いをこの本でも強く持つことになった。
(長南博邦)
『週刊新社会』(2024年7月24日)
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