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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

国連「平和への権利」宣言採択に向けて

2012年05月03日 | 人権
 草の根ニュース第68号(2012年4月)から
 ◎ 国連「平和への権利」と平和的生存権、米軍基地問題
日本国際法律家協会 笹本潤

 今、戦争を、法のカでなくそうという動きが国連で始まっている。
 人々が、国家に対して、平和を要求していく権利を国際法典化する取り組みだ。日本では、憲法前文に平和的生存権が規定されているが、他の国にはそのような権利はない。平和的生存権を、世界標準の権利にしていく取組みとでも言った方がわかりやすいかもしれない。
 1.国連人権理事会での議論
 国連の人権理事会(ジュネーヴ)には、諮問委員会という専門家のシンクタンクがあり、諮問委員会が人権理事会に草案や意見を提出して、人権理事会で採択されると国連総会の採決に付される。
 平和への権利に関しては、2012年6月の人権理事会に、諮問委員会が最終草案を提出することになっている。
 2011年8月(第7会期)と2012年2月(第8会期)の二回の諮問委員会の場で、平和への権利の宣言草案について具体的に審議された。私は両方の諮問委員会に参加して議論の様子を見ることができた。
 昨年8月の諮問委員会では、平和への権利宣言を作ること自体に反対するアメリカが反対討論をした。しかし、その後、同じく反対していたスペインが、NGOの働きかけで賛成に回り、それまで反対していたEUも一枚岩ではなくなってきた。
 そのためか、今年2月の諮問委員会では、アメリカは反対討論をしなかった。代わりにスペインが草案に賛成する立場で意見表明した。水面下で各国の政治判断は変化していることが感じられる場面だった。
 これに対して日本政府は、公式には理由を述べていないが、昨年6月の人権理事会ではアメリカや韓国、EUとともに反対をしている。
 アメリカの反対理由は、「平和のテーマは人権理事会ではなく、安保理事会で話すテーマだから」という。拒否権という特権のある安保理事会だけが平和についての決定権限を有するとした方がアメリカにとって都合がいいからだろう。
 この平和への権利の国際法典化は、アメリカの軍事力による世界戦略と真正面から衝突するものなのである。アメリカは、反対国が1力国だけでも積極的に発言し、真正面から反対意見を述べていた姿が印象的だ。
 2.NGOの影響力
 この国連諮問委員会の草案作成に影響を与えてきたのが、NGOの活躍である。
 2006年以降、国際的に平和への権利を国際法典化しようというキャンペーンが始まり、世界各地で集会を開き、世界の市民の声を集約してきた。
 その中心となってきたNGOがスペイン国際人権法協会である。会長のカルロス・ビヤン・デュラン教授は、元国連人権高等弁務官事務所のスタッフで、イラク戦争を機に、どうしたらイラク戦争を違法なものにできるか、考えた末にこのキャンペーンを始めた。
 世界の市民の声を集約した「サンチアゴ宣言」が2012年12月にスペインのサンチアゴ・デ・コンポステーラで開かれた国際市民集会で採択され、それは国連にも正式に提出された。現在の諮問委員会の作成した草案の大部分が、このサンチアゴ宣言の内容と同じものだ。諮問委員会の草案の基礎を、世界のNGOが作ってきたと言っていい。
 日本の国際NGO日本国際法律家協会、国際人権活動日本委員会など)もこの国際キャンペーンに合流し、2010年からは国連人権理事会の場でサイドイベントを開催して、キャンペーン活動をしてきた。
 また、2012年12月には日本各地でスペイン国際人権法協会の来日集会を開いて、名古屋宣言、東京宣言などの日本の市民の要望を取り入れる文書を採択してきた。
 3.国際NGOの提案と外国軍事基地問題
 平和への権利が実現するプロセスの中で日本のNGOとして見落とせないのが、沖縄を中心として問題となっている「外国軍事基地をなくす権利」についてである。
 NGOのサンチアゴ宣言では、世界各国の外国軍事基地の被害や運動を受けて、外国軍事基地の段階的廃止の権利が取り込まれた。
 中心となっているスペインでも米軍基地の被害が発生しているし、アフリカでもフランス軍基地などの問題が生じている
 しかし、国連・諮問委員会の草案では、この権利はいまだ取り込まれていない。

 サンチアゴ宣言の第7条(軍縮の権利)1項は、「すべての人民及び個人は、…加えて、国家はその軍隊と外国軍事基地を漸進的に廃止するため、効果的かつ協調的方法を採用するべきである。」となっている。
 日本の沖縄の米軍基地の問題は、周辺住民の騒音や犯罪被害、そしてアジアの軍拡競争に否定的な影響を及ぼしており、他の国の外国軍基地でも同様な問題を抱えていることを考えると、現代世界において平和への権利を実現させるためには、「外国軍事基地を廃止する権利」は欠かせない権利のはずである。
 おそらく政治的な論争になりやすいという理由で諮問委員会の草案からは外されたのだとは思うが、今後も取り入れるようNGOとして要求していこうと思っている。
 2011年12月には、那覇でスペイン国際人権法協会の来日集会が開かれたが、そこでも沖縄の米軍基地廃止の権利は平和への権利の一つとして採用してほしいという宣言(沖縄宣言)が採択された。
 外国軍事基地を廃止する権利が、普遍的な国際的権利となったならば、沖縄の基地問題にも大きい追い風になるに違いない。
 諮問委員会で私は、以上の点を踏まえて、口頭発言させてもらった。
 現在の諮問委員会の第2次草案では、「平和地帯を求める権利」が初めて取り入れられたので、上記のサンチアゴ宣言7条を取り入れることとともに、国連草案の平和地帯を求める権利の一例として、「外国軍事基地のない平和地帯を求める権利」も提案もした。
 これ以外にも、私は諮問委員会において、平和的生存権の積極的な側面である「戦争行為に加担しない権利」を含めるべきだという主張もした。
 これは2008年の名古屋高等裁判所判決を受けての提案であり、諮問委員会の草案にもある「良心的兵役拒否の権利」とならんで、加害国の市民一般の権利として、加害国側を規制する権利の一つとして、国連の宣言に取り入れるよう要求した。
 外国軍事基地問題も、この加害国側を規制する権利の一つとして、位置づけることもできる。
 アフガン、イラク戦争、そしてベトナム戦争、朝鮮戦争では、戦争に使われた前進基地が日本や周辺国の米軍基地だったのだから。
 今後は、2012年6月に人権理事会の採決に付され、採択されたら国連総会に舞台は移っていくというスケジュールである。
 なかなか新聞では取り上げられていないテーマだが、今後とも注目して欲しい。

 平和的生存権が憲法で書かれている国は世界で唯一日本だけである(「平和への権利」という形なら、ボリビア憲法でも採用されている)。
 しかも平和的生存権(注1)の主語は「全世界の国民」となっている。本来は日本が先頭に立って平和への権利の国際法典化運動を担っていかなければならない。平和への権利がどの国でも主張できる権利になれば、日本のように平和的生存権違反を理由にする裁判を、どの国でも起こすことができるようになるのである。
 市民の力で日本政府を押し上げて、国連総会では賛成票を投じるような運動を作っていきたい。
(2011年3月24日記)
(沖縄・日本から米軍基地をなくす草の根運動運営委員)


 注1)日本国憲法前文第2パラグラフ最後の文
 「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。」

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