◎ 大阪市の学力向上に向けた総合的な制度案に関する会長声明
1 大阪市は、2019年(平成31年)1月29日に開催された大阪市総合教育会議にて提案された内容を踏まえて、学力向上に向けた新たな制度を本年度にも試行しようとしている。
この制度の概要は、学力向上に関する目標を設定してその成果が得られれば学校に予算(校長裁量予算・研究活動費)を付与し、また小学校学力経年調査ないし中学生チャレンジテスト(以下、合わせて「学力テスト」という。)の結果における学力向上の程度を校長の人事評価の一部へ直接反映させ、また、教員の人事評価の参考とするというものである(以下「新制度」という。)。
2 しかしながら、そもそも学力テストは、授業改善や指導充実を図るために実施されているものであって、校長や教員の人事評価に用いることは予定されていない。それどころか、新制度を実施した場合は、かえって次のような弊害が生じるおそれがある。
第一に、子どもの学習権を阻害するおそれがある。
すべての子どもは自己の人格を形成、実現させるために個性や発達段階に応じた教育を受ける権利(学習権)を有しており(憲法26条、教育基本法1条、2条、子どもの権利条約28条、29条)、学校においては、子どもの多様な能力や価値を評価して伸ばすとともに、学力だけにとどまらず、人格の成長・発達をも目指すことが求められる。
ところが、新制度の下では、競争主義的な教育方針が導入されることによって、校長による学力テスト偏重の方針が加速し、教員間の競争が強まり、学力テストの科目、テスト対策中心の教育になる一方、実技科目、総合学習、特別学習などが後回しとなる可能性が高い。
学校現場では、いじめ、不登校、暴力行為などに対する生徒指導、特別支援教育、外国にルーツをもつ子どもに対する教育などが後回しにされることも危惧される。
第二に、学力の向上が見込める一部の生徒に偏重した教育が行われたり、学力の向上が見込めない一部の生徒を対象とする不正行為が行われることも懸念される。
実際に、アメリカの一部の州では、試験中に教員が正答を教えるなどの不正行為が多数発生したとの報告もある。
第三に、新制度の下では、校長は教員ごとの学力向上度を参考にして人事評価を行うことになるため、教員は学力偏重の教育が強いられ、自由な教育活動が制限されることにより、子どもと向き合い触れあって全人格的な成長を促す活動を実践することが困難になる。
教員間の協働・連携が損なわれ、教育方法の成長も見込めず、結果として子どもの学習権が十分保障されない事態となりかねない。
3 子どもの学力向上はもちろん必要ではあるものの、学力の内容をどのようにみるか、それをどのようなテストで測るかについては教育学的にもさまざまな議論がある。新制度の実施によって学力が向上するのかどうかについても教育界からは疑問の声も出ており、2019年度に試行し、2020年度に本格実施する予定といいながら、これらの点について十分な議論が行われているとも言い難い。
学力テストの成績は、教員の努力や工夫によって直ちに向上するものではない。学力は、家庭環境、養育歴、経済状況、地域環境等に大きく左右されるのであるから、大阪市としては、生活困窮家庭の支援等により、子どもの学習環境の改善を図ることがまず必要である。
以上より、当会は、大阪市に対し、総合教育会議が提案する新制度の計画及び実施について再考するよう強く求めるものである。
以上
2019年(平成31年)4月26日
大阪弁護士会
会長 今川 忠
大阪弁護士会
会長 今川 忠
http://www.osakaben.or.jp/speak/view.php?id=202
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