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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

コロナ禍で小学校新教科英語スタート

2020年07月21日 | こども危機
  《教科書ネット21ニュースから》
 ◆ どう教えるの? 小学校英語科検定教科書
   ~その内容と課題
瀧ロ優(たきぐちまさる 白梅学園短期大学)

 ◆ はじめに

 この4月から新しい学習指導要領に基づき、小学校3・4年生「英語活動」が週1時間5・6年生「英語」が週に2時間導入されることになりました。
 導入冒頭に新型コロナウィルスのために学校が閉鎖され、休校の中でスタートするという二重苦、三重苦の中で子どもたちや現場の先生方は苦労されでいます。
 そもそもが強引な導入で、十分な論議を尽した上での導入でないことは、多くの専門家が指摘しているところですが、本稿ではこうした導入の問題については経過程度にとどめます。
 しかし現実に始まってしまったという状況の中で、どうしたら小学校英語が子どもたちの「学び」につながるのか、という観点からまとめたいと思います。
 はじめに小学校英語の導入と学習指導要領の内容に触れます。
 そして学習指導要領に基づいて作成された検定教科書の内容についてコメントし、その教科書の教え方について全国で行われている実践に触れながら紹介したいと思います。
 最後に今後の展望について触れたいと思います。

 ◆ 小学校英語の導入

 小学校の子どもたちに英語が入ってきたのは2002年の総合的な学習の中で「国際理解」の一環として「外国語(英語)会話」が導入されたときですから既に20年近くになります。
 そして2011年の小学校指導要領の改訂で5・6年生に「英語活動」が教科ではなく領域として導入されました。
 教科ではないから担任が教えることができるという文部科学省の説明でした。

 ただ学習指導要領の目標は中学校英語の目標から「読むこと」「書くこと」を除き、「コミュニケーション能力の基礎を養う」(中学校)から「コミュニケーション能力の素地を養う」にしたもので、その他の記述も含めて中学校英語が前提となっています。
 今回の指導要領では、今まで中学校1年の英語で扱っていた内容を、ほぼそのまま小学校5年生と6年生に入れています
 そういう意味では学習指導要領上は中学校英語の前倒しと言えます。

 しかしそのことを表面に出すと今までの「前倒しではない」ということとの整合性がつきませんから触れてはいません。
 しかし検定教科書は学習指導要領に沿って作られるもので、指導要領に書かれていることは教科書のどこかに触れていないと検定に通りません。
 だから言語活動としての「コミュニケーションの場面の例(あいさつや自己紹介等)」や「コミュニケーションの働きの例(気持ちを伝えるや事実を伝える等)」はもちろん、言語材料としての「音声、文字、文法等」についても入っています。
 以下検定を通過した教科書にっいて触れます。

 ◆ 7種類の検定教科書

 小学校の英語として申請された教科書は全部で7種類です。
 中学校が6種類でしたから1社増えています。
 昨年の夏に各採択地域ごとに選ばれ、どの地域でどの教科書を使うか決まっています。
 決めたのは学校ではなくて教育委員会ですから、全ての科目の教科書が限られた人数で決まってしまっているという問題があります。したがって小学校現場では、秋には自分の学校でどの教科書が使われるのかが分かっていると思います。
 早いととろでは年末に担当者が決まって準備を始めたというところもありますが、多くの学校が校務分掌などを校長が発表するのが3月ですから、ぎりぎりにならないと担当者が分からないということになっています。
 今年はそれさえも新型コロナウィルスの影響で休校の混乱の中で行われているわけです。
 小学校教科書を出版した「東京書籍」「開隆堂」「学校図書」「三省堂」「教育出版」「光村図書」は中学校英語教科書を出版していますが、「啓林館」は初めての出版です。
 いずれも教科書づくりには慣れていますので、教科書に付随する指導書や映像教材等も準備されています。
 特に今回はデジタル教材が教科書の進行に合せて作られているのでその活用も含まれています。
 教科書の教材内容や言語材料(文法など)の扱い、自己表現活動との関係、デジタル教材について等は『新英語教育』(高文研)の2019年11月号に載っていますので、詳細はそちらでご覧頂きたいと思いますが、多くが昨年度まで使われていた文部科学省編集のWeCan!を踏襲したものになっています。
 様々な国や民族が取り上げられているとか障がい者を取り上げるとか内容的な工夫は行われていますが、基本的な言語材料については教科書の誌面には登場しません。
 英文としては音声も含めて取り上げていますので、指導要領上は「扱った」ことになるのでしょう。
 でも子どもたちはまったく分からない状態になると思います。

 日本語との違いなど丁寧に説明されることによって子どもたちは理解していきます、特に小学校高学年は。
 なお5・6年生の英語を指導するのは普通の担任ではなく、「専門性を有する教師を校内で中核教員として位置づける」(文科省解説)か「外国語を担当する教師」(いわゆる英語専科教員)となっています。
 地域によっては普通の担任が「専門性を有する」教員として指名されるケースも少なくありません。
 ◆ 新しい教科書の教え方について

 小学校英語については、「総合的な学習の時間」での導人以来様々な実践が報告されてきています。
 前述の『新英語教育』では1990年代から小学校英語の問題を国際理解の視点から取り上げ、様々な実践を紹介してきています。
 そして現在は「みんなで創る小学校英語」で創造的な英語の授業、「小学校英語のリアル」では現実にぶつかっている問題を率直に出し合い、「小学校英語の創造的な扱い方」では実際の教科書をどのように扱うかを毎月連載しています。」
 子どもたちが英語を楽しくしかも分かりやすく学ぶという視点で取り組めば何とかなると思います。
 今回の新型コロナウィルスによってオンラインの授業やデジタル教材が推奨されることは予想されますが、基本は顔と顔を合せた対面の授業であり、デジタル教材はあくまでも補足です。そうでなければ教師はいらなくなってしまいます。どう旨く活用するかが今後の課題となると思います。
 ◆ 今後の展望について

 経過を見るとそもそもが無理やり投げ込まれた小学校英語であり、様々な矛盾があることは確かです。
 検定教科書も文科省の作ったWeCan!1・2を踏襲するような形になっていて創造性が足りません。
 授業をすすめながら担当教員の想像力と創造性を発揮してより豊かな授業にしていくことで、改善できるとおもいます。
 15年前に小学校英語特区が始まり、該当する自治体では大変な思いをしていましたが、その特区の調査の中で見えてきたことは、英語の授業は教師の教える力があれば創造的に発展させられるということでした(拙著『特区に見る小学校英語』三友社出版、2006年)。
 教科書の良いところは活かし、不十分なところは創造的に改善していくそんなスタンスで臨めたらと思っています。
 また外国語は英語だけではありません。様々な言語や文化に触れる機会があることによってコミュニケーションは広がります。
 なお世界的には小学校の英語(外国語)は専科教員が行っています。
 外国語を使ってコミュニケーションを行うためには、日々その外国語を使っていなければ忘れてしまいます。
 全国の小学校現場から要請されていることも「専科教員」が圧倒的です。小学校現場だけでなく地域からもその声をあげたいものです。
 昨年末にベトナムを訪問し、障がい者施設を訪問することと合せて小学校の英語の授業を見学させてもらいました。
 既に20年前から英語の専科の先生が教えていて、週に4時間の授業を3年生から教えています。
 授業はほとんど英語で行い、文法もきちんと教えています。子どもたちも積極的に英語で発言しています。
 教材の内容などについては課題もありますが、教え方の基本は研修を踏まえて一貫しています。
 韓国では1996年に小学校に英語を導入し、その時は担任が行うということで教員の研修を年間120時間実施しましたが、上手くいかずに結局專科教員に切り替えています
 外国語の指導、とりわけ話すことは指導者自身が日常的にその言菓を使っていないとうまくできません。専科教員の養成と研修が望まれます
 そして英語以外の外国語の専科教員も必要になってくると思います。

『子どもと教科書全国ネット21NEWS 132号』(2020年6月15日)

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