◇ 橋下大阪市長・松井大阪府知事による、「ピースおおさか」「リバティおおさか」
を廃止縮小し新たな近現代史学習施設を設置する計画
に抗議し、その白紙撤回を要求する声明
を廃止縮小し新たな近現代史学習施設を設置する計画
に抗議し、その白紙撤回を要求する声明
橋下大阪市長は、5月、松井大阪府知事の同意のもと、大阪人権博物館(リバティおおさか)への補助金廃止を指示するとともに、すでに補助金を半分以下に減らされている大阪国際平和センター(ピースおおさか)との統合案を提起し、同時に、新たな近現代史を学ぶための施設をつくる構想を発表した。その結果、3月に大阪府議会ならびに大阪市議会で承認された「ピ一スおおさか」のリニューアルのための調査費予算の執行も停止されている。
このような計画は、以下に述べる理由により、到底認めることができない。
第1に、橋下市長はこの計画に関して「僕の考えに合わない施設には公金を投じない」「補助金を受ける以上は決定権は僕にある」などと述べている。しかし、公的な文化・教育施設は、首長の思想信条に基づいて運営したり、首長の思想信条に反する施設を廃止したりするなどは許されない。
政治的問題については、投票などによる多数決で最終的に決定されることはありうるが、その場合でも少数意見が十分にくみとられることが必要であることは、民主主義の常識である。まして文化・教育に関する問題は多数決原理によって決定されるべきものではなく、公的な文化・教育施設の運営においては、住民の多様な考え方やニーズが尊重されるべきことは当然である。
橋下市長の前記の発言を実行するならば、公的な文化・教育施設において、首長の思想信条のみが正当なものとして住民に押しつけられることになる。これは民主主義の原理をまったく理解しない、極めて乱暴かつ非常識な議論である。
橋下市長は「両論併記」と称して中立公正を装っているが、第3で述べるように、橋下市長のいう「両論併記」が決して中立公正を担保するものではない。
万一、このような非常識な考え方が市長の権力によって押し通されるのであれば、それは単に大阪市・府の問題にとどまらず、日本の民主主義にとっての重大問題となるのであって、橋下市長は、政治権力をもって自らの思い通りに住民の思想・文化・教育を統制しようとする発言をただちに撤回しなければならない。
第2に、この計画は、市民の平和への願いをうけとめ、真摯な議論をへてつくられた「ピースおおさか」の設立の理念を、市長の独断によって捨て去ろうとするものである。
「ピースおおさか」は、大阪空襲によって多くの人命が失われ街が廃墟となった悲惨な体験を二度と繰り返さないために、被害の実相とともに、その被害をつくりだした戦争の原因や、戦争のなかで生じたアジアへの加害の歴史をきちんと調査し記録し語り継ぐことを目的に、1991年に創設され、今日まで、展示・講演会・調査研究など児童・生徒・学生・社会人、さらには諸外国の人々の多面的な平和学習と交流の場として活用されてきた。
戦争を二度と繰り返さないために、設立の理念とされてきた戦争の多面的構造的な学習研究が必要なことは当然であり、市長の考えと合わないからといって運営費補助を減額したり、事実上廃止して新しい施設につくりかえるなどということは到底許されない。
第3に、橋下市長は、新しい近現代史学習施設をつくる理由として、学校現場では育鵬社の教科書を全然採択していないこと、育鵬社の教科書の考え方も子どもたちにしっかり示していかなくてはいけないことをあげ、そのために育鵬社と自由社のメンバーにも入ってもらってこの施設をつくることを明らかにしている。
このことは、新施設を育鵬社版・自由社版教科書の歴史観にもとづいてつくり、子どもたちをこの両教科書の歴史観にもとついて教育することを露骨に宣言したものである。
私たちは、この両教科書が日本の歴史を天皇と支配者中心に描き出し、民衆の願いや動きを無視していること、大日本帝国憲法に基づく天皇専制の政治を美化し、そのもとで行われたアジア侵略戦争を正当化し、アジアの人々への加害を無視していること、結局、平和・国民主権・基本的人権の尊重を原則とした日本国憲法を敵視し、その「改正」をねらうものであることなどを指摘し批判してきた。このような憲法違反とも言うべき教科書の採択は、当然のことながら市民・保護者・教員の批判によって少数にとどまった。
そういう教科書の歴史観を首長の権力をもって教科書とは別のルートで子どもたちに押しつけることは、教育への乱暴な政治介入であり、教育基本法にも違反する暴挙である。
橋下市長は「両論併記」だから自分の考えを押しつけるわけではないなどと主張するが、それは学問へのまったくの無理解を示すごまかしに過ぎない。
博物館・資料館などの文化・教育施設においては、展示その他の活動は、学問的検証をへた科学的真理にもとついて行われるべきものである。根拠がなくても何かを主張しさえすれば「両論」のなかの一つになるなどということはありえない。
橋下市長の主張にしたがえば、学説として成り立ち得ない単なる勝手な主張を「両論」の一つとして持ち上げ権威づけ、結果として学問的検証をへた真実の価値をおとしめ、人々に真理を見誤らせることになる。
以上に述べた理由にもとづき、私たちは「ピースおおさか」「リバティおおさか」を廃止縮小し新たな近現代史学習施設を設置する計画に抗議し、ただちにそれを白紙撤回するとともに、「ピースおおさか」「リバティおおさか」のいっそうの充実を要求する。
2012年6月12日
子どもと教科書全国ネット21
代表委員:石田米子・尾山宏・小森陽一・高嶋伸欣・田港朝昭・鶴田敦子・西野瑠美子・藤本義一・山田朗・渡辺和恵
〒102-0072東京都千代田区飯田橋2-6-1小宮山ビル201
Tel:03-3265-7606 Fax:03-3239-8590
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