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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

★ “日の丸ヤミ金”奨学金【連載第22回】

2024年02月19日 | 暴走する都教委と闘う仲間たち

 ★ 若者から収奪する「日本学生支援機構」 (週刊金曜日)

三宅勝久

 生活保護を使って借金を返済することはできない。だが日本学生支援機構は、保護費を受給していた者に対しても奨学金ローンの執拗な返済要求を行なっていた。

 ★ 生活保護からの返済めぐる問題

 最低限度の生活を保障する生活保護制度の趣旨に照らし、保護費からの借金の弁済はできない。ところが、独立行政法人日本学生支援機構(以下、支援機構)が、生活保護受給中の女性に対し、返還猶予などの手続きをとることなく執拗(しつよう)に請求を行なった挙げ句、多額の延滞金を乗せた取り立て裁判を起こすという事件が発覚した。

 東京都内のワンルームアパートで一人暮らしをする女性・Aさん(40代)には心臓に持病がある。過去に生活保護を受給していたが、自立したいと考えて数年前に自分から受給をやめた。現在の仕事は非正規の介護職。体力的に無理はできず収入は月に10万円あまり。家賃と食費、交通費でほとんどが消え、貯金をする余裕はない。
 それでも自分で稼いで暮らせることには得難い魅力がある。仕事にも慣れて、生活は軌道に乗ってきた。そんなAさんのもとに、支援機構による以下のような「支払督促申立書」が届いたのは昨年6月末のことだ。

〈1 主たる請求  金36万8000円=返還期日経過元本額
 2 付帯請求の1 金26万 400円=2016年6月30日までの延滞金
 3 付帯請求の2 金 6万4400円=2016年7月1日から19年12月31日までの延滞金
 4 付帯請求の3 20年1月1日から支払い済みまで年1・5%の延滞金>

 1~3で69万2800円。4の延滞金が請求日現在で約1万6000円(3年分)、合計額は約71万円だ。
 4の延滞金は刻々と増え、半年ごとに2760円ずつ加算されていく。無貯金のAさんにはとても払える額ではない。

 支援機構が請求してきたのは、20年以上前の高校進学の時に借りた奨学金の未返済分だ。母子家庭で経済的に苦しく、学資を工面するために当時の日本育英会から借りた。月額2万6000円を1年6カ月間、計46万8000円。
 その後、社会人になり結婚したが、配偶者の失業や自身の勤め先の倒産など、経済苦に見舞われる。離婚後には心臓病が発覚して手術を受けるなどして働けなくなり、生活保護に頼らざるを得なくなった。
 奨学金ローンは年賦で5万円ずつ返す計画が、2度払った後に行き詰まり、そのままになっていた。連帯保証人の母親は十数年前に亡くなった。
 払っていないのは事実だ。だが70万円超という金額にAさんは驚いた。残元金の2倍だ。約20年分の延滞金が上乗せされていた。

 ★ 時効が成立していた?

 途方に暮れたAさんが頼ったのが法テラスの無料法律相談だった。担当弁護士はAさんが持ってきた書類に目を通して言った。
 「時効(が成立している)かもしれないですよ。私が言う通り書いて裁判所に出してみてください」
 00年1月に5万円を払って以降は払っていないー少なくとも、Aさんはそう理解していた。民事時効は10年。最後の支払いからとっくに10年は過ぎている。
 Aさんは弁護士に言われた通りに書面を書いて裁判所に送った。
 「督促異議甲立書 消滅時効が完成しているので時効援用の意思表示をします」

 しばらくすると支援機構から反論の進備書面が届いた。

〈民法上、承認により時効は中断する(改正前民法147条3号)ところ、一部入金は時効中断事由の「承認」にあたる。
 そして、被告(Aさん=筆者注)の最後の入金は、平成25年(2013年)6月28日の金1000円(略)であるところ、この一部入金により、消滅時効は中断する。
 その後、最新の入金日から10年を経過する前の令和5年(2023年)6月22日に支払督促の申立てがなされ、同月26日に支払督促が発付されているところ、支払督促の申立ては時効中断の「請求」にあたり、改めて消滅時効は中断する(改正前民法147条2号)。
 上記のとおり、時効中断後、本件奨学金返還債務は、未だ10年の消滅時効期間が経過しておらず(略)、被告は消滅時効を援用できない〉

 難解な法律文書を何度も読み直した末、Aさんはようやく意味を理解した。「時効は中断している」つまり、時効は成立しない。いわく、13年6月28日付で1000円の「最後の入金」があり、そこから起算して10年となるのは23年6月28日。支払督促申立書は同年6月22日付で10年は経っていないー。「1000円」から10年になる数日前に裁判を起こしてきたことになる。

 10年前の「1000円」のことをAさんは思い出すことができない。当時は深刻な家庭問題で頭が一杯だった。肉親が急死したことつらもあり、精神的に辛かった。主治医の助言で生活保護を受給しながら生活を支えていた。「支援機横からの借金が残っているのはわかっていましたが、払う余裕はありませんでした。『1000円払った』と言われても、いくら考えても思い出せない」(Aさん)
 失念したのかもしれないが、腑に落ちない点があった。生活保護を受給する際、福祉事務所の職員から「借金の返済はしないでください」と念入りに注意されたからだ。借金返済をすると、そのお金を役所に戻すことになりかねない。だから自ら進んで払うはずがなかった。「ありのままを裁判所ではっきり言おう」とAさんは決意した。

 ★ 支援機構に呆れた委員

 第1回口頭弁論は昨年8月30日、東京簡易裁判所で開かれた。「時効援用を主張します。1000円入金した記憶はありません」とAさんは述べた。
 原告・支援機構は「1000円の入金」は有効だとして時効中断を主張した。
 休廷になり、司法委員を挟んで話し合いがもたれた。司法委員とは簡易裁判所の制度で、弁護士や司法書士が担う。本人訴訟の当事者に法律的な助言をするなどの役割を果たす。
 「本当に私が1000円を払ったというのなら領収書などの証拠を出して下さい」Aさんは率直に言った。
 13年6月は生活保護受給中で、借金返済をしてはいけなかったことも説明した。
 司法委員が呆れて言った「え、生活保護受給中だったのですか?原告(支援機構)はそのことを知っていたのですか」
 「ええ……」と支援機構の職員はバツの悪そうな様子で答えた。
 支援機構は「個人メモ」という内部資料を証拠提出していた。そこにも生活保護受給中であることが明記されていた。
 「1000円入金」の約10日前、13年6月17日の欄には、Aさんと支援機構の間で交わされたとされる電話の会話内容が記載されている。

〈本人は平成16年より生活保護受給中者。無職。生活保護受給額月8万円。登録住所にひとりで生活。子供1人いるが病気で長期入院中。生活はギリギリの状況。家賃・光熱費・食費を支払えば8万円の受給額のうち、月返還できても1000円位。法的手続き進む事、延滞金賦課案内し、継続し少額であっても可能な限り入金を指導。(略)●少額返還→6月より毎月1000円以上の入金〉

 司法委員を務める法律家であれば、「毎月1000円」に問題があるのはすぐにわかったはずだ。
 13年当時の延滞金は約18万円で残元本は36万8000円。回収金は延滞金から充てられるので、毎月1000円の支払いはまず18万円の返済に回る。元本は減らず、そこに延滞金が加算される。13年の延滞金利率は年5%。年間1万8400円、月額にすると約1500円となる。毎月1000円を払っても、延滞金がそれを上回る速度で増えるのだ。
 ひたすら延滞金を払い、かつ時効を中断させる意味しかない
 やがて弁論が再開され、司法委員が裁判官に説明する。裁判官は、領収書の開示を求めるAさんの主張を理解し、原告・支援機構に提出を促した。
 「検討します」。支援機構の職員は自信のなさそうな返事をし、この日の手続きは終わった。
 「保護費から借金返済をしてはいけないのに1000円を自分から払うはずはないと思います。受給期間に延滞金をつけるのも納得できない。どうすればいいというのでしょうか」とAさんは訴える。(つづく〉

※ みやけかつひさ・ジャーナリスト。近著に『絶望の自衛隊人問破壊の現場から』(花伝社)。

※本連載の過去記事(2021年4月2日号~23年8月25日号、計21回)は「週刊金曜日オンライン」で公開中です。


『週刊金曜日 1459号』(2024.2.9)


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