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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

東京君が代強制解雇事件原告団・弁護団声明

2011年07月15日 | 日の丸・君が代関連ニュース
 東京君が代強制解雇事件原告団・弁護団
  ◇ 声 明


1 本日、最高裁第一小法廷(裁判長・横田尤孝裁判官)は、都立高校の教職員10名が卒業式等の国歌斉唱時に校長の職務命令に従わずに起立しなかったことのみを理由に、定年等退職後の再雇用職員としての合格を取り消した事件(東京君が代強制解雇事件)について、教職員らの上告を棄却する不当判決を言い渡した。これに先立ち、6月30日には教職員らの上告受理申立てを不受理とする決定がなされており、教職員らの敗訴が確定した。
2 本件は、東京都教育委員会(都教委〉が2003年10月23日付けで全都立学校の校長らに通達を発し(10.23通達)、卒業式等において国歌斉唱時に教職員らが国旗に向かって起立し、国歌を斉唱することを徹底するよう命じ、これに従わないものを処分するとして、「日の丸・君が代」の強制を進める中で起きた事件である。
 上告人らは、それぞれが個人としての歴史観・人生観や、長年の教師としての教育観に基づいて、過去に軍国主義思想の精神的支柱として用いられてきた歴史を背負う「日の丸・君が代」自体が受け入れがたいという思い、あるいは、国旗国歌を容認しながらも教育的見地から学校行事における「日の丸・君が代」の強制は許されないという思いを強く持っており、そうした自らの思想・良心から、校長の職務命令には従うことができなかった。
 ところが、都教委は、定年等退職後に再雇用職員として、いったんは合格を通知した上告人らに対して、卒業式等で校長の職務命令に従わず国歌斉唱時に起立しなかったことのみを理由に、既に勤務校の面接を済ませて新学期の担当も決まっていた状況にあったにもかかわらず、年度末の時点で突然、合格を取消したのである。
3 今回の最高裁判決は、本年5月30日以降の一連の小法廷判決を引用するのみで、本件事案に即した判断を示さなかった。
 国歌斉唱時の起立斉唱を命じる校長の職務命令が憲法19条に違反するかという問題について、起立斉唱行為が国旗・国歌に対する敬意の表明の要素を含む行為であること、個人の思想良心の自由についての間接的な制約となることを認めた。
 にもかかわらず、本判決を含めた一連の小法廷判決は、本件職務命令が、卒業式における「慣例上の儀礼的な所作」として起立斉唱を求めるものに過ぎない一方、公務員の地位の性質や職務の公共性を踏まえた上で、教育上の行事にふさわしい秩序の確保と式典の円滑な進行を図るものであり、制約を許容し得る程度の必要性・合理性が認められるとして、本件職務命令が憲法19条に違反しないと判断した。
 しかし、公務員であるとはいえ、思想良心の自由を制約する場合には、宮川光治裁判官の反対意見が正当に指摘しているとおり、厳格な審査基準に適合している場合に限られると言うべきである。そうでなければ少数者の思想良心の自由は危機に瀕してしまう。本判決を含めた一連の判決は、余りに安易に必要性・合理性を肯定したものであり極めて不当な判断である。
4 また、教師全員に一律に職務命令を発令し、従わない場合には、いったんなした合格通知さえ取り消すという都教委の行き過ぎた措置に対する批判は、多数意見から全くうかがえない。
 起立斉唱命令に従わない教職員が雇用の場さえ奪われてしまうという過酷な結果は、何よりも尊重されるべき「思想良心の自由」を無視するものであり、このような措置についてさえ裁量権逸脱・濫用の主張を退けた本判決は到底、容認できない。
5 さらに、本判決は、10.23通達の問題点について何ら判断を示さなかった。上告人らが、10.23通達により内心の自由の説明を禁じ、一律に起立斉唱命令を命じるよう命じた都教委の措置を、教育行政機関の「不当な支配」に該当すると主張したにもかかわらず、本判決は論点として取り上げなかった。このような本判決は、教育の在り方に対する考察を怠った重大な欠陥を持つものと言わざるを得ない。
6 わたしたちは、このような最高裁の不当な判決に対し失望と憤りを禁じ得ない。この間の国歌起立斉唱に関する晶連の最高裁判決は、第一小法廷のみならず、第二及び第三小法廷とも多数意見は同一内容であるが、一方、多数の補足意見や反対意見が付された。そうである以上、本来は大法廷にて慎重に審議されるべき事案であった。あたかも「在庫一掃」的な拙速な小法廷判決の連発は慎重さに欠けるものと指摘せざるを得ない。
 これら一連の最高裁判決は、最高裁判所が憲法の番人としての役割を放棄したものであって、その社会に与える影響の大きさに慄然とせざるを得ない。
 大阪府では、橋下徹府知事と「大阪維新の会」府議団によって、卒業式等の国歌斉唱時に公立学校の教職員に起立・斉唱を義務付ける条例がなされ、更に教職員の処分基準を示す条例の制定が進められようとしている。このような動きも、最高裁が憲法の人権保障規定を「絵に描いた餅」にしてしまっていることと無関係ではない。
7 ただ、第一小法廷判決に付された反対意見においては、教育現場で行き過ぎた「日の丸・君が代」の強制が行われていることについて、強い警鐘が鳴らされている。
 宮川光治裁判官の反対意見は、10.23通達の意図が、教職員の歴史観や教育者としての信念に対する否定的評価を背景に、不利益処分をもってその信念に反する行為を強制しようとするところにあると明確に認めている。その上で、同意見は、精神的自由権に関する問題を、多数者の視点のみから考えることは相当ではないとし、上告人らが起立斉唱しないという行動は、上告人らの思想良心の核心の表出であるか、少なくともこれと密接に関連しているとした。そして、本件職務命令の合憲性の判断に関しては、いわゆる「厳格な基準」によって審査するべきで、原判決を破棄・差し戻しするべきであるとした。
8 最高裁には、本件以外にも10.23通達関連の訴訟が係属している。
 2011年3月10日に、国歌斉唱時に職務命令に反して起立しなかったことを理由とする懲戒処分は裁量権の濫用であるとして、166名に対する戒告処分、1名に対する減給処分を取り消した東京高裁判決が言い渡されており、同事件も近く最高裁での審理が始まるところである。
 先の反対意見の存在等から、最高裁が、今後、都の教育行政の行き過ぎに対して歯止めをかける判断を示す可能性も十分あると思われ、わたしたちはなお諦めず、教育現場に自由を取り戻すべく、努力していきたいと考えている。
9 教師が教育行政からの命令で強制的に国旗に向かって立たされ、国歌を歌わされ、自らの思想良心も守れないとき、生徒たちにも国旗や国歌が強制される危険がある
 本判決において、起立斉唱命令が思想良心の自由を間接的にではあっても制約することを認められたこと、しかもその制約を許容する根拠は、教育公務員の職務の公共性のみであるとされたことは、生徒に対しては不利益処分をもって強制することが許されないことを示している。都教委は、これを重要な警告として謙虚に受けとめるべきである。
 都下の教育現場で続いている異常事態に、皆様の関心を引き続きお寄せいただき、教育に自由の風を取り戻すための努力に、皆様のご支援をぜひともいただきたい。
 2011年7月14日
 東京君が代強制解雇事件原告団・弁護団

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