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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

政治介入の産物=大阪の隔離教育

2014年09月17日 | ノンジャンル
 ◆ 橋下流 問題児は“特別教室送り”
   「再生プログラム」これでいいの?

伊賀正浩(「子どもたちに渡すな!」あぶない教科書大阪の会)

 6月10日、大阪市教育委員会は、出席停止措置の厳格化と一定レベルを超える「悪質な問題行動」を繰り返す子どもを在籍する市立学校から引き離し、一カ所に集めて指導する「個別指導教室(仮称)」の新設を打ち出しました。
 市教委が作成した「問題行動の5段階分類」に即して、「レベル4」(激しい暴力、恐喝行為など)と「レベル5」(極めて激しい暴力、凶器所持など)に該当する場合、出席停止措置を厳格適応し、「個別指導教室」に隔離するものです。
 さらには、「レベル3」(暴言など)以下の段階であっても、教員の指導に従わなければ「個別指導教室」での指導に切り替えるとしています。
 犯罪的行為のみが対象のように強調されていますが、実は教員の指導に従わないすべての子どもたちが対象になっているのです。
 この方針は、教育委員会や学校現場でじっくり検討されたものではなく、法的根拠もない、議事録もない市長と教育委員との「協議会」の場で事実上決められました。教育の論理を無視した橋下市長による政治介入の産物としてできたのです。
 大阪市の「個別指導教室」構想は、安倍内閣が第一次政権から進めてきた「反社会的行動をとる子どもに対する毅然たる指導」「出席停止措置の積極活用」の延長線上にあるもので、東京都教委の「生活指導統一基準」と同じ発想です。
 小・中学校にまでそれを拡大しようというのは大阪市が全国で初めてです。

 ◆ 「個別指導教室」構想は「ゼロ・トレランス」(寛容度ゼロ指導)そのもの
 「個別指導教室」構想は、「ぶれない対応」「ぶれない指導」「ルール違反に対する対応措置の公平な適用」等を謳う「ゼロ・トレランス」そのものです。
 大阪市教委は、「学校は、社会の法秩序が及ばない治外法権の閉鎖空間であってはならない」と主張し、「問題行動の種類・重篤度と学校等による措置を一対一対応させたルール」=「安心ルール表」を作成するとしています。
 そして学校と教員には、市教委が決めた「安心ルール表」にそって「事前に明示したルールに基づくぶれない指導の徹底」をもとめています。しかも、「ルールどおりの対応措置が取られていないと感じる児童生徒や保護者」に対して「適切な通報窓口」を設置するとしました。
 学校と教員に対して、子どもたちの生活背景や年齢などの個別の事情を全く考慮せず、機械的に厳罰主義を適応させようとしています。教員に対して教育者としての立場を放棄しろと迫っているとしか思えません。
 「ゼロ・トレランス」は、もともと治安維持のための犯罪防止理論の1つでした。それを生徒指導に持ち込んだのがクリントン政権下のアメリカでした。その結果、アメリカの学校では、例外を一切認めないため、教育的援助が必要な子どもたちも含めて、多くの子どもたちが「ゼロ・トレランス」の網の目にかかり、退学や停学処分を受けているのです。
 そして規定は拡大解釈され、校則に対する不服従や教員への反抗的態度などにも適用され、子どもたちの活力を失わせ、うつなども増加していると伝えられています。
 「ゼロ・トレランス」は、子どもの個性や人権を尊重する教育とは対極にあるものであり、子どもの権利条約と日本国憲法の精神に反することは明らかです。
 ◆ 特定の子どもたちを排除することが教育なのか
 大阪市教委は、「個別指導教室」を構想する理由として、「大多数の児童生徒の教育を受ける権利の保障」と、「重篤な問題行動を起こす児童生徒に対し、それぞれのニーズを考慮しつつ、手厚い個別指導を行う教育ニーズへの対応」の両立を図ることをあげています。
 しかし、本当にそうでしようか。「個別指導教室」の導入は、排除される子どもにも、残された子どもにも将来にわたる問題を残すと考えられます。
 排除される子どもの言いようのない疎外感。大人・学校に対する不信感と反抗心・敵対心。そして「問題」のある「誰か」を排除することで静かな勉強できる空間を得た子どもたちのクラスに対する敗北感、挫折感。そして「問題」ある人を排除することへの慣れ。--こういった経験が子どもたちの成長に悪影響を与えることは明らかです。
 「個別指導教室」は、学校教育の取り組みと成果を全国学力テストの結果向上に全面的に従属させる現在の橋下「学力向上」政策と不可分の関係にあります。
 「学力向上」のために邪魔になる「問題行動」を起こす子どもを教室から徹底的に隔離・分離しようとしているのです。
 橋下市長は、「学校内の習熟度別授業を越えて、理解度の遅れている子どもを別の学校に一時的に移し、理解が進めば原学校に戻すということは考えられないか」とまで発言しています。
 教育は、様々な個性を持ち興味や得意分野の違う子どもたちが共に過ごし、お互いに学び合う中で進められるべきだと思います。特定の子どもたちを排除することは、もはや教育とは呼べません
 市教委は、来年度からモデル校で実施し順次全校に拡大することを狙っていますが、すぐにどれだけの子が「個別指導教室」送りになるかは予想できません。
 しかし、最も懸念されるのは、制度が導入されることによって教員と子どもたちの中に「問題児は排除しても良い」という排除の意識が生じることです。さらには「ゼロ・トレランス」の徹底は、子どもと教員への日常的な管理体制づくりと一体のものです。今後、道徳教育、、規範教育、愛国心教育の更なる強化と教員管理の徹底に警戒する必要があります。
 7月には教員に対して「公務員として品格を備えた服装」が強制され始めています。
 ◆ 「問題行動」は厳罰主義で克服されるのか
 大阪市教委は、今回の「個別指導教室」構想の、背景には、学校での「荒れ」の増大があると指摘しています。もしそれが本当なら、その「荒れ」の背景にもっと深いメスを入れる必要があります。
 桜宮体罰事件を契機とした橋下市長による教員バッシングの強まりによって、教員の自信喪失と萎縮傾向が進んでいます。
 教員評価制度に生徒・保護者による「授業アンケート」が導入され、教員と生徒・保護者の信頼関係も築きにくくなってきています。
 各学校と教員は、全国学力テストの結果向上に邁進させられ、その結果は学校選択制と学校評価、教員評価にさらされています。
 これらの橋下「教育改革」こそが、教育現場での生徒指導の難しさと「荒れ」の拡大につながっているのではないでしょうか。
 さらには、子どもたち一人ひとりを丁寧に見るための教員の数が大阪では圧倒的に不足しています。
 教員希望者が年々減ってきており、合格後辞退したり、他府県へ転出したりするケースも増えてきています。
 病気休職者の割合も全国平均を大きく上回っています。
 教員不足を補う講師の割合も年々増え、2013年度では全教員に占める講師の割合が小学校で13.3%、中学校で9.5%となっています。これは全国平均の7・1%(小中合わせたわせた数字)をはるかに上回る数字です。
 大阪市は、教員確保の面でも危機的状況にあります。

 日本の子どもの貧困率が過去最高になったとの新聞報道がありました。大阪はまさにその典型的な地域です。
 「荒れ」の問題が「貧困」問題とも絡む以上、学校での生徒指導は、学校や教育現場に矯小化されることなく、貧困対策、就労対策、就学援助等社会福祉政策と一体のものとして進める必要があります。これこそ橋下市長が自ら率先して行うべきことです。(いがまさひろ)
『子どもと教科書全国ネット21ニュース 97号』(2014.8)


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