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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

自由権規約NGOレポート(「日の丸・君が代」関連)③大阪ネット

2021年03月08日 | 人権
◎ 大阪における公立学校での国旗国歌賛美の強制
(自由権規約18条・19条違反)

 A 論点

 A-1 大阪の「君が代起立条例」「職員基本条例」「教育長通達」およびそれらを根拠とした教職員への「君が代」起立・斉唱の強制、不起立者への大量処分、経済的制裁(減給、再任用拒否)、不起立3回で免職という脅しは、自由権規約18条、19条に違反していること。
 A-2 「君が代」不起立被処分者に対してのみ、「君が代」への敬意表明を強制する「意向確認書」への署名・提出、「意向確認」への回答を迫ることで、自己の宗教・信念を強制的に表明させること、およびそれに応じなかったと一方的に判断された教職員に対して定年退職後の再任用を拒否することは、自由権規約18条、19条に違反していること。
 B 自由権規約委員会の勧告・懸念 ・List of Issues

 B-1 第6回審査総括所見・パラ22

 本委員会は、「公共の福祉」の概念は、曖昧で、制限がなく、規約の下で許容されている制約を超える制約を許容するかもしれないという懸念を改めて表明する(2条、18条、19条)。
 委員会は、以前の最終所見(CCPR/C/JPN/CO/5、パラ10)を想起し、規約18条・19条のそれぞれ第3項に規定された厳しい条件を満たさない限り、締約国が思想・良心・宗教の自由や表現の自由の権利に対していかなる制約を課すことをも差し控えるように強く要請する。
 B-2 第7回審査List of Issuesパラ23および26

 23 前回の総括所見(パラ22)に関連して、「公共の福祉」というあいまいで無制限な概念を明確化し、思想、良心、および宗教の自由または表現の自由への権利に対する制約が、自由権規約18条および19条それぞれの第3項が許容する限定的な制約を超えることがない事を確保するために講じられた手段について、ご報告願いたい。
 26 2003年に東京都教育委員会によって発出された10.23通達を教員や生徒に対して実施するためにとられた措置の自由権規約との適合性に関して、儀式において生徒を起立させるために物理的な力が用いられており、また教員に対しては経済的制裁が加えられているという申し立てを含めて、ご説明願いたい。
 C 政府の反論内容

 (略)

 D 事実

 D-1 「君が代起立条例」「教育長通達」
 D-1-(1)「君が代起立条例」「教育長通達」制定以前の大阪の状況


 1999年に「国旗国歌法」が制定されたが、その際、当時の小渕首相は「国旗・国歌の法制化に当たり、国旗の掲揚に関し義務づけなどを行うことは考えておりません」と国会答弁していた。この「国旗国歌法」制定以前には、大阪府の教育現場では、卒業式・入学式での「日の丸」掲揚率・「君が代」斉唱率は、全国的に見て低いものだった。卒業式の壇上に「日の丸」は掲揚されない、「君が代」は式で斉唱されないというのが通常の姿であった
 「国旗国歌法」制定を受けて、大阪府議会が、卒・入学式での「望ましい形」(「日の丸」は壇上に、「君が代」を起立斉唱)を示した後でも、徐々に実施率が上がったとはいえ、起立斉唱しない教職員は多く、そのことで処分されることもなく、子どもたちや保護者も起立斉唱することは稀であった。
 とはいえ、大阪府教育委員会とその意を受けた校長による「日の丸」掲揚、「君が代」斉唱の圧力が年々強まったのは事実である。2007年度までに実施率は高まったが、起立斉唱しなくとも処分にまでは至らず、起立斉唱しない教職員、生徒、保護者は存在した。2009年の卒業式で個別の学校で初めて校長による職務命令が出され処分者が出た。それでもなお不起立者は存在したが、この事態を一挙に変えたのが、「君が代起立条例」の制定と、「教育長通達」の発出であった
 D-1-(2)「君が代起立条例」「教育長通達」の制定・目的・内容

 大阪府の「君が代起立条例」は、「大阪維新の会」に属する橋下大阪府知事(当時)及び府議会議員によって制定が強力に推し進められ、2011年成立した。条例は、教職員に対して、卒業式・入学式等における「君が代」斉唱時の起立斉唱を強制するものである。
 その目的は、第一に「君が代」に対する「敬意」を表明させること、第二に教職員が敬意を表明している姿を生徒・保護者に見せることにより、「我が国と郷土を愛する意識」を高揚させることにある。
 「君が代起立条例」が公布・施行された後、大阪府教育委員会は、2012年1月17日臨時府立学校校長会を招集し、府教育長が「教育長通達」を発した。教育長通達は、府立学校教職員宛のものと府立学校校長、准校長宛のものの二種類がある。
 前者は、学習指導要領及び「君が代起立条例」に基づき、入学式及び卒業式時、「日の丸」を掲揚し、式場内のすべての教職員は「君が代」斉唱の際、起立斉唱せよというものである。後者は、教職員に対する通達を徹底するよう、校長及び准校長は職務命令を行え、というものである。
 D-1-(3)「君が代起立条例」、「教育長通達」制定の結果

 「教育長通達」は、「君が代起立条例」をその根拠の一つとしていた。その結果、通達発出以降の卒業式・入学式では大部分の教職員が起立斉唱を余儀なくされた
 起立斉唱をしない恐れがあると校長に判断された教職員は、式場外の業務を割り当てられ、式場から排除された。式場内勤務に当たっていて、式直前まで起立斉唱を確約しない教職員には、校長から起立斉唱の職務命令が、個人あてに文書で出された。
 それでも起立斉唱をしなかった教職員は減給、戒告などの懲戒処分を受けた。少なくとも8人の教職員が再任用を拒否された。現在(2019年6月)に至るまで、戒告処分を受けた者は62名、減給処分を受けた者は8名に上る。
 また、教職員が率先して起立斉唱することにより、児童・生徒や保護者たちまで起立斉唱を余儀なくされている。
 D-2 「職員基本条例」
 D-2-(1) 「職員基本条例」における「同一職務命令違反3回→免職」制度の概要


 2012年2月に制定された「職員基本条例」は、
  ①職務命令に違反する行為をした職員への標準的な懲戒処分は戒告とする、
  ②懲戒処分を受けた職員に対し、指導、研修等を行う、
  ③懲戒処分を受けた職員が、再度職務命令に違反した場合は、免職することがあることを文書で警告する
  ④その上で、なお職務命令に違反する行為を行い、その累計が、職務命令に違反する行為が同じ場合、すなわち3回目は、標準的な処分は免職、と規定する。
  この規定は、卒業式・入学式における「君が代」斉唱の場合だけを想定したものである。
 D-2-(2) 「職員基本条例」の適用例

 「君が代」斉唱時の不起立で戒告処分を2回受けた者には、もう一度職務命令違反をすれば免職するとの「警告書」が渡された。
 D-3 再任用拒否
 D-3-(1) 定年退職後の再雇用と年金支給の関係


 日本の公立学校教員は、基本的に地方公務員であり、通例60歳定年制をとっている。一方、年金支給は長らく定年退職直後から開始されていた。
 しかし、2014年以降、年金支給年齢が順次引き上げられ、定年退職後に再雇用されなければ、無収入となる期間が生じるようになっている。
 D-3-(2) 年金支給年齢引き上げに伴う政府の対策

 こうした事態を受けて、日本政府は、無収入期間が発生しないように、2013年3月の閣議決定および同月の総務副大臣通知により、定年退職する公務員が再任用を希望する場合、きわめて限定的な理由(地公法16条もしくは28条等規定に基づく欠格事由または分限免職事由)を除いては再任用することとした。
 D-3-(3) 東京における再雇用拒否の事例

 東京における再雇用拒否については、2013年に委員会に提出された「東京・教育の自由裁判をすすめる会」のレポートの「D-1-(7) 「起立・斉唱」命令に反した被処分者は再雇用拒否」ですでに指摘されているように、「10.23通達」以降は、「通達」命令拒否者のみが再雇用を拒否されてきた
 D-3-(4) 大阪府の対応

 大阪府においては、健康上の理由を除いては、希望者はほぼ全員が再任用されていた。
 しかしながら、2011年の「君が代起立条例」成立、2012年の「教育長通達」発出と「職員基本条例」成立以降は、状況は根本的に変化した。
 「君が代」斉唱時に起立・斉唱しなかった教員は、懲戒処分を受けるとともに、「卒入学式等における国歌斉唱時の起立斉唱を含む上司の職務命令に従います」という文書に署名・提出するように求められた。
 その文書を提出しなかった、あるいは文章を書き換えて提出した教員は、定年退職の2ヶ月ほど前に、「意向確認」と称する質問を、(府教委に指示された)校長から受けた。その質問は、「卒入学式等における国歌斉唱時の起立斉唱を含む上司の職務命令に従いますか?イエス、ノーで答えよ」というものであった。
 この質問に対して、はっきりと「イエス」と答えなかった教員は、定年退職後の再任用を拒否されたり、再任用の更新を取り消されたりした
 こうした事態は、定年退職後に再任用されなければ、無収入期間が生じるようになった2015年以降も続いている。
 D-3-(5) 2017年における再任用拒否の事例

 2017年3月に定年退職となるある教員は、その年の1月、前述の「意向確認」の際に、以下の理由で回答を拒否したところ、再任用を希望していたにも関わらず再任用されなかった。その結果、退職後の2017年4月から62歳の誕生月である2018年5月まで、無収入状態を強いられ、退職金を取り崩して生活せざるを得なくなった。
 この教員は、校長からのこの質問が日本国憲法で保障された思想・良心の自由を侵害すること、教員として、生徒が就職試験の面接を受ける際に、思想・良心の自由を侵害するような質問をされた場合に「学校の指導によりお答えできません」と回答するように指導してきたこと(これは、大阪府教育委員会によって推進されている指導である)を理由に、回答を拒否したのである。
 この教員は、再任用拒否を不当であるとして、裁判提訴して係争中である。

 D-4 特別支援学校における国歌斉唱の実態

 肢体不自由や病弱の児童生徒が在籍する特別支援学校での卒業式では、一人一人の生徒に応じた教育をおこなうよりも、君が代斉唱時に起立させることを優先する大阪府教育委員会の姿勢が顕著に現れている。
 2015年の卒業式に際し、障碍のため自分の力で立てない生徒に付き添う教員が「周りの人々が立っていることによって、車いすで座ったままいることが孤独感と疎外感を生み、不安になって、てんかん発作を起こす恐れがあるので横で座っていたい」と申し出たが、校長は「発作が起これば、座ればいい」とそれを拒絶した。これは大阪府教育委員会の指示によるものである。
 この教員の申し出は、発作を起さず最後まで元気に卒業式に参加するということに対する合理的配慮に基づくものであった。その結果、卒業式の君が代斉唱時に座っていた教員は、戒告処分を受けた。
 また、卒業式において、校長は、その信条から起立しないであろうと思われる教員に個別に起立するかどうか質問し、「起立します」と答えなければ、式場に入れない措置をとってきた。
 障害を持った生徒に対し、日常の教育活動時と同じ教員比率で教員配置をすべきであるが、校長ら管理職は、不起立教員をゼロにするようにという府教委の圧力の下で、障害を持った生徒の行事参加の安全度を低めている。
 D-5 日本政府による違法状態の放置

 こうした大阪府および教育委員会による「君が代起立条例」「職員基本条例」、「教育長通達」およびそれらを根拠とした教職員への「君が代」起立・斉唱の強制、不起立者への大量処分、経済的制裁(減給、再任用拒否)、不起立3回で原則免職という脅しなど、自由権規約18条、19条に違反する施策に対して、日本政府は、第6回日本審査総括所見のパラ22における懸念の表明・要請にもかかわらず、地方自治を理由にまったく何の措置も講じていない。
 D-6 裁判所の消極的態度

 「君が代」不起立によって受けた懲戒処分の撤回を求める裁判および再任用拒否の撤回を求める裁判において、上記の問題について、国際自由権規約違反を主張して争ってきたが、裁判所は国際自由権規約に違反しているかどうかについて、真剣な検討を加えることなく、消極的な態度に終始している。
 E 私たちの意見

 E-1-(1) 「君が代起立条例」の真の目的は、平和・民主主義・教育の自由を求める教員たちの排除と、生徒へ「愛国心」を押しつけることにある。
 「君が代起立条例」の目的は、第一に、教職員に対して「君が代」の起立斉唱を義務付けることで、旧日本帝国主義がアジアへ侵略する際のシンボルとして使われた「日の丸・君が代」に抵抗感を持ち、日本の軍国主義化に反対する教員を排除することにある。
 と同時に、教員が全員一律に「君が代」を起立斉唱する姿を生徒に見せることで同調圧力を高め、生徒全員に起立斉唱させ、「愛国心」を植え付けることを目的としている。その目的を達成するために、「職員基本条例」による免職や再任用拒否による威嚇を用いている。
 しかも、このことを条例という立法によって規定している。List of Issues パラ26で規約適合性が問われている東京の「10・23通達」が行政の命令であるのに対して、大阪の場合は、条例という「立法」による強制と懲罰である点で規約違反性はより高度である。
 E-1-(2) 「教育長通達」は、教員の思想・良心・信念を否定する命令であり、「思想弾圧」である。
 「教育長通達」が国旗国歌に対する敬意の表明を「職務」とすることによって、「君が代」不起立者は「職務命令」に違反したとされ、懲戒処分を受け、加えて再任用を拒否されるなどの不利益を受けている。つまり、「教育長通達」によって、教員の内心の自由が制約され、自らの良心に忠実であろうとした教員がその思想ゆえに繰り返し処分を受けている。これは「思想弾圧」であり、重大な人権侵害である。
 E-1-(3) 「職員基本条例」は、公教育の職場から、特定の歴史観・世界観・教育上の信念を有する教員を排除する思想差別の条例である。
 「職員基本条例」の「同一の職務命令違反3回で免職」という規定は、卒業式・入学式の際の「君が代」起立斉唱の職務命令に違反する教職員以外に適用は考えられない。「職員基本条例」が施行されている中では、「教育長通達」に基づく処分を行うことは、実質的には「3分の1の免職処分」に相当する極めて重い処分である。つまり、「君が代」起立強制に疑問を持つ教員は、自らの良心を捨てない限り、3回目には職を放逐されるという苛酷な扱いを受ける。これは思想による差別である。
 E-1-(4) 「君が代起立条例」「教育長通達」「職員基本条例」は、自由権規約18条・19条に違反する
 以上のように、「君が代起立条例」「教育長通達」「職員基本条例」は、一つのセットとなって、卒・入学式時の「君が代」斉唱時の起立斉唱を教職員に強制するものである。以下の理由により、これらは、規約違反の人権侵害である。
   ・敬意表明の拒否は、規約18条1項の「思想良心及び宗教の自由」に該当し保護される権利である。
   ・これら三つの法令は、規約18条2項で禁止される「強制」に該当する。
   ・これら三つの法令は、規約18条3項の「厳しい条件」を満たしていない
 E-2 「意向確認書」と「意向確認」は、教員に自らの思想の表出を迫り、その思想を理由に経済的不利益を強いる「思想差別」であり、自由権規約18条に違反する
 「意向確認書」「意向確認」は、「君が代」不起立被処分者に対してのみ署名・提出や回答を求めている。このことは「君が代」不起立被処分者個人の内面の思想の表出を迫るものであり、思想・良心・宗教の自由に対する人権侵害であり、「思想差別」であることは明らかで、自由権規約18条に違反している。また、それに応じなかったと一方的に判断された教職員が定年退職後の再任用を拒否されていることは経済的制裁にあたり、自由権規約18条に違反している。
 F 自由権規約委員会が日本政府に対して勧告すべき事項

 F-1 日本政府は、大阪府に対して、自由権規約に違反している「国旗国歌条例」「職員基本条例」を廃止し、「教育長通達」を撤回するよう強力に働きかけること。
 F-2 日本政府は、大阪府に対して、「君が代」不起立者に対する処分を撤回するよう強力に働きかけること。
 F-3 日本政府は、「君が代」不起立被処分者に対してのみ、「君が代」への敬意表明を強制する「意向確認書」への署名・提出、「意向確認」への回答を迫ることで、自己の宗教・信念を強制的に表明させること、およびそれに応じなかったと一方的に判断された教職員に対して定年退職後の再任用を拒否することが、自由権規約18条、19条に違反していることを明確に表明し、大阪府に対してこの状況をただちに是正するよう、強力に働きかけること。
 F-4 自由権規約委員会は、日本の裁判所が、審理にあたって、国際自由権規約に違反しているかどうかについて、真剣に検討を加えていない状況への懸念を表明すること。
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 ≪参考資料≫

 ○List of Issues(和文)
https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/kokusai/humanrights_library/treaty/data/Alt_Rep_JPRep7_ICCPR_ja171211.pdf
 ○List of Issuesに対する日本政府回答(和文)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100045760.pdf
 ※ 正規英文レポートが掲載されている場所は、
   「国連条約機関データベース」“United Nations HumanRights Treaty Bosy Database”
https://tbinternet.ohchr.org/_layouts/15/treatybodyexternal/SessionDetails1.aspx?SessionID=804&Lang=en
   「日本」のレポート欄の、24番目大阪ネットワーク


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