List of Issues para26に関するNGOレポート
◎ 東京の公立学校における国旗国歌の強制
~自由権規約18条、19条違反~
◎ 東京の公立学校における国旗国歌の強制
~自由権規約18条、19条違反~
A.論点
1.東京の公立学校の入学式・卒業式において、国旗に向かって起立し、国歌を斉唱することを教職員に命ずる東京都教育委員会の10.23通達は自由権規約18条・19条違反である。
2.日本政府も東京都教育委員会も、自由権規約委員会の懸念・勧告を尊重する姿勢を持たない。
B.自由権規約委員会の勧告など
3.過去の主な記録
2013年11月14日 第6回List of Issues(CCPR / C / JPN / Q / 6)パラ17
2014年8月20日 第6回総括所見(CCPR/C/JPN/CO/6)パラ22
2017年12月11日 第7回List of Issues(CCPR / C / JPN / QPR / 7)パラ26
C.List of Issuesへの日本の行政機関の対応の実態について
4.文科省は、2014年の総括所見パラ22勧告には「国旗国歌」の文言がなかったことを理由に何ら対応も取らず、今回のList of Issuesで10.23通達に関する具体的な事実関係を問われても、前回と同じ裁判所の判決文の引用で済ませている。(CCPR / C / JPN / 7/パラ216~219)
5.「10・23通達」発出主体の東京都教育委員会は、地方公共団体の条約遵守義務を否定している。【注1】
【注1】 NGOが、「わが国が批准した国際人権条約を遵守する義務と国際人権機関からの勧告を尊重し誠実に実行する責務は、中央政府はもちろん地方自治体にもあることを確認されたい」と質問したのに対し(2017年1月25日)、都教委は、「東京都教育委員会は、我が国が批准した国際人権規約などについて答える立場にありません〔総務部教育政策課〕」(2017年2月15日)と条約遵守義務の有無をはぐらかして、その後も国際人権関連の質問には門前払いで内容のある対応を拒んでいる。D.CCPR/C/JPN/Q/7para26に問われている事実について
6. 第6回審査のための"Japanese Workers' Committee for Human Rights-JWCHR"によるNGOレポート【注2】のp.58~72で報告した事実と大きく変わっていない。東京都で懲戒処分を受けた延べ人数は、483名に達した(2020/3/31現在)。【注3】
なお、2003年に10.23通達が発出されるまでは、東京の公立高校の入学式・卒業式は何十年もの間国旗国歌なしで行われていた。起立斉唱は式にとって不可欠なものではなかったのである。
【注2】 https://tbinternet.ohchr.org/Treaties/CCPR/Shared%20Documents/JPN/INT_CCPR_NGO_JPN_14885_E.pdf7.「10.23通達を教員に対して実施するためにとられた措置」(1・2・3項違反)
【注3】 大阪府においても同様の動きがあり、2012年以降67名が懲戒処分を受けている(2019/7/21現在)。大阪の教員グループ(Osaka Network against Forced Worship of "Hinomaru and Kimigayo")からNGOレポートが提出されているので、そちらも参照して欲しい。
①職務命令(同レポートp.58 7-D-1(1))、
②懲戒処分(同レポート p.59 7-D-1(3))、
③再発防止研修(同レポートp.59 7-D-1(4))
8.「教員に対する経済的制裁」(同レポート p.60 7-D-1-(6)(7))
①給与上の不利益 裁判を重ねた結果、減給以上の重い処分は原則として取り消されるようになったが、戒告処分は取り消されなかった。しかし、戒告処分による経済的不利益も軽微なものではない。【注4】。
②その他、職務上の不利益(差別的な取扱い)【注5】、身分上の不利益【注6】など、様々な不利益がある。
【注4】 ①本給への影響 減給の場合は10分の1が、停職場合は全額が、所定月数支給されない。9.新たな報告事項
②手当への影響 戒告の場合:勤勉手当20%減額。減給の場合:勤勉手当35%減額。停職の場合:勤勉手当50%減額。
③昇給への影響 戒告の場合:昇給が9ヶ月遅れ。減給・停職の場合:昇給なし。
④後年への影響 期末手当への影響 退職金への影響 年金への影響
【注5】 ①担任外し、②人事考課のマイナス査定、③昇任での差別、④異動での差別、⑤表彰から排除、⑥当該教員の所属校で「服務事故再発防止校内研修」の連帯責任をとらされる。
【注6】 ①定年退職後の再雇用は例外なく拒否され、撤回を求めた裁判はすべて敗訴。東京で70人以上、大阪で8人が職を失った。
②大阪の条例では処分3回で「免職」が法定されている。
①今年の卒業式で、COVID-19感染拡大の中でも都教委は国歌斉唱を強制した。飛沫感染防止等のため校歌や生徒が選んだ式歌は省略されたが、国歌斉唱の義務付けは譲らなかった。都教委の命令は生徒に対する愛国心の強制であるとして、学者、弁護士、ジャーナリスト、その他多くの人々から厳しい批判を受けた。【注7】
【注7】この問題は東京新聞によって計3回、2020年7月20日、22日および8月2日に取り上げられた。東京民報も8月2日に取り上げている。②日本の教育労働者組合からの申立を審査したCEARTも『最終報告書』において卒業式における起立斉唱行為を「愛国的な儀式」と称し(cf.CEART/13/2018/10 para100~110)、不起立行為等を「市民的権利」と認定している。(cf.CEART/13/2018/10 para98)
E.意見
10.政府は「慣例上の儀礼的所作」だから起立斉唱命令は自由権の制約には当たらないと回答した〈CCPR/C/JPN/7/218〉が、国旗国歌に対する態度は人によってさまざまに意見が分かれており、起立斉唱は価値中立的ではない。【注8】 教職員による命令の拒否は自由権規約第18条の1項で保障される権利である。
11.10.23通達の真のターゲットは生徒である。
【注8】 「10・23通達」の真の目的について、政府が引用する最高裁判決(2011年6月6日)の中で宮川光治裁判官が次のような意見を記している。
「本件通達は,式典の円滑な進行を図るという価値中立的な意図で発せられたものではなく,前記歴史観ないし世界観及び教育上の信念を有する教職員を念頭に置き,その歴史観等に対する強い否定的評価を背景に,不利益処分をもってその歴史観等に反する行為を強制することにあるとみることができると思われる。」
政府回答では、「10・23通達」の目的は「学校において国旗および国歌について生徒に教えること」であり、「生徒の内心に踏み込んで国旗国歌を強制することではない」(CCPR/C/JPN/7/パラ216)、としている。しかし、不起立の教員に懲戒処分を科すことは大きな同調圧力と委縮効果を持ち、実質的に生徒に国旗国歌を強制することになる。通達の真の目的は愛国心を生徒の心に植え付けることである。
12.10.23通達は規約18条3項、19条3項の条件を満たしていない。
① 起立斉唱を義務付ける「法律」は存在しない。
政府回答では、『地方公務員法』と『学習指導要領』を法的根拠としている(CCPR/C/JPN/7/パラ217)。しかしいずれの法令にも、教員に起立斉唱を義務付ける条文は存在しない。【注9】 学習指導要領はそもそも法律ではない。
【注9】 『地方公務員法』 第三章 職員に適用される基準 第六節 服務② 最高裁判決(2012.1.16)においても、教員の不起立によって式典の進行に影響が生じていないことが認められている。【注10】
(服務の根本基準)
第三十条「すべて職員は、全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し、且つ、職務の遂行に当つては、全力を挙げてこれに専念しなければならない。 」
(法令等及び上司の職務上の命令に従う義務)
第三十二条「職員は、その職務を遂行するに当つて、法令、条例、地方公共団体の規則及び地方公共団体の機関の定める規程に従い、且つ、上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない。」
『学習指導要領』『学習指導要領国旗国歌条項』「入学式や卒業式などにおいては、その意義を踏まえ、国旗を掲揚するとともに、国歌を斉唱するよう指導するものとする。」
斉唱の間静かに着席している教職員教職員に懲戒処分を科すことは、「秩序あるいは他者の基本的人権及び自由を守る」ために必要ではなく、したがって、18条、19条の第3項で規定されている人権制約の条件を満たしていない。
【注10】 最高裁判決文(2012.1.16)には、式全体に何の影響もなかったことについて、以下の記載がある。13.規約違反がない根拠として政府が引用する最高裁判決(CCPR/C/JPN/7/パラ218,パラ219)の参照法条には、自由権規約18条も19条も掲げられていない。つまりこの判決文は、自由権規約の適用を全く検討しないまま書かれている。
「原審によれば,本件では,具体的に卒業式等が混乱したという事実は主張立証されていないとされている。」
F.勧告を望むこと
14.委員会は、東京都などの自治体で、卒業式、入学式での「君が代」斉唱時に、思想、良心、教師としての信念、信仰上の理由等で起立斉唱しない、あるいはピアノ伴奏しない教職員が、懲戒処分され、その他不利益に扱われていることを懸念し、規約18条、19条が地方自治体及び学校現場で尊重されることを確保するよう、締約国に勧告する。
15.委員会は、裁判において、自由権規約の関連条項が適切に解釈適用されていないことに懸念を示し、自由権規約が裁判で適切に解釈適用されることを確保するよう締約国に勧告する。
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≪参考資料≫
○List of Issues(和文)
https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/kokusai/humanrights_library/treaty/data/Alt_Rep_JPRep7_ICCPR_ja171211.pdf
○List of Issuesに対する日本政府回答(和文)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100045760.pdf
※ 正規英文レポートが掲載されている場所は、
「国連条約機関データベース」“United Nations HumanRights Treaty Bosy Database”
https://tbinternet.ohchr.org/_layouts/15/treatybodyexternal/SessionDetails1.aspx?SessionID=804&Lang=en
「日本」のレポート欄の、30番目JWCHR(国際人権活動日本委員会)のレポートの第5章
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