▼ 腫瘍により足を切断、異常出血で子宮摘出、抜ける毛髪
~トモダチ作戦で被曝した米兵たちの裁判 (文春オンライン)
今野 晴貴(NPO法人POSSE代表)
原発賠償の問題は、そうした労働問題と同じように、原子力発電という私企業の経済活動が、個々人に与えた被害であり、実際に、労働の分野では以前から「被曝労働」が問題となってきた。
複雑な原発を維持し続けるためには、炉心の真下に人が入っての点検や、隅々までの清掃作業が求められる。
驚く方も多いかもしれないが、最新鋭の原発も、人力の雑巾がけで清掃が行われているのが実態なのだ(その人員はスラムから日雇いで集められる)。そうした「被曝労働」によって多くの癌・白血病が発症してきたのだが、それが「労働災害」と認められるまでには多大な裁判闘争を必要とした。そして今日、原発避難者の被害を中心として、「経済被害」を社会的に問う新しい裁判が続けられている。
そんな中で、本作は日本でほとんど顧みられることのない「トモダチ作戦」に参加した若い米兵たちの被曝被害に焦点を当てている。「トモダチ作戦」に当たった兵士たちは、メルトダウンの危険が迫る中(それは日本国内でも知らされていなかった)、全速力で被災地に向かった。米兵の被曝は震災後比較的早い段階から問題にされてはいたが、その後の実態はほとんど日本では問題にされていない。
現在、東京電力を提訴している原告は402人。空母ロナルド・レーガンの航海日誌を検証すると、水蒸気爆発後の放射性プルームに突入していることがわかる。爆発後、私たちの方に風は向かわず、北東に放射性物質は流されていた。そこに、正確な情報を知らされない同空母が突入してしまったのである。
被害は凄惨だ。腫瘍により足を切断した者や、異常出血で子宮を摘出してしまった者、毛髪が抜け、下痢、頻尿、倦怠感などの健康障害で日常生活をまともに送ることもできなくなってしまった多くの被害者がいる。
すでに亡くなった原告もいる。カメラはそうした当事者たちの生々しい声を届けている。彼らは、小さな子供を抱え、つい先日まで健康だった若者たちである。
だが、米政府は空母乗組員の放射線被曝を認めていない上、軍関係者は従軍中の事柄について政府を訴えることはできない制度になっている。
そこで東京電力に対する訴訟が起こされているのだが、ここでも争う姿勢が示されている。
未だに彼らは補償を受けることなく、健康被害と闘い、命を落としていっている。震災被害者の救援に参加した米兵に対して、あまりにも酷薄な現実であろう。
そもそも、放射能の被害は被曝の量、被曝と健康被害の因果関係の特定、という2つにおいて極めて判断が難しい。そのため、上述した「原発労働」の被曝の訴訟においては、被害を認定する際の「一定の基準」が裁判の中で積み上げられてきた。一定以上の被曝があった場合、その健康被害(癌など)を「労働災害」として一律に認定するという方法だ。そのような基準は科学的な特定が難しいために、「世論」の影響を強く受ける。
今回についても、東電の情報公開と世論が鍵を握っている。米兵の被害者たちも、米国の陪審員制度に対する期待があるという。もちろん、米国内の判断は米国内の世論によるところになるが、当事国として、私たちも彼らの「被害」に向き合うことが求められているのではないだろうか
『文春オンライン』(2017/11/14)
http://bunshun.jp/articles/-/4894
~トモダチ作戦で被曝した米兵たちの裁判 (文春オンライン)
今野 晴貴(NPO法人POSSE代表)
〈9人も死んでしまった…トモダチ作戦で頑張ってくれた若き米兵らが 原発事故の放射能で被曝し健康を害したとして 400人超が裁判を起こしている事をあなたは知っていますか?〉10月8日、日本テレビ「NNNドキュメント」私は労働問題を専門とし、ブラック企業や過労死の問題に取り組んできた。その中で、私がいつも思うことは「経済活動」はどこまで人間を犠牲にすることが許されるのか? という問いである。
原発賠償の問題は、そうした労働問題と同じように、原子力発電という私企業の経済活動が、個々人に与えた被害であり、実際に、労働の分野では以前から「被曝労働」が問題となってきた。
複雑な原発を維持し続けるためには、炉心の真下に人が入っての点検や、隅々までの清掃作業が求められる。
驚く方も多いかもしれないが、最新鋭の原発も、人力の雑巾がけで清掃が行われているのが実態なのだ(その人員はスラムから日雇いで集められる)。そうした「被曝労働」によって多くの癌・白血病が発症してきたのだが、それが「労働災害」と認められるまでには多大な裁判闘争を必要とした。そして今日、原発避難者の被害を中心として、「経済被害」を社会的に問う新しい裁判が続けられている。
そんな中で、本作は日本でほとんど顧みられることのない「トモダチ作戦」に参加した若い米兵たちの被曝被害に焦点を当てている。「トモダチ作戦」に当たった兵士たちは、メルトダウンの危険が迫る中(それは日本国内でも知らされていなかった)、全速力で被災地に向かった。米兵の被曝は震災後比較的早い段階から問題にされてはいたが、その後の実態はほとんど日本では問題にされていない。
現在、東京電力を提訴している原告は402人。空母ロナルド・レーガンの航海日誌を検証すると、水蒸気爆発後の放射性プルームに突入していることがわかる。爆発後、私たちの方に風は向かわず、北東に放射性物質は流されていた。そこに、正確な情報を知らされない同空母が突入してしまったのである。
被害は凄惨だ。腫瘍により足を切断した者や、異常出血で子宮を摘出してしまった者、毛髪が抜け、下痢、頻尿、倦怠感などの健康障害で日常生活をまともに送ることもできなくなってしまった多くの被害者がいる。
すでに亡くなった原告もいる。カメラはそうした当事者たちの生々しい声を届けている。彼らは、小さな子供を抱え、つい先日まで健康だった若者たちである。
だが、米政府は空母乗組員の放射線被曝を認めていない上、軍関係者は従軍中の事柄について政府を訴えることはできない制度になっている。
そこで東京電力に対する訴訟が起こされているのだが、ここでも争う姿勢が示されている。
未だに彼らは補償を受けることなく、健康被害と闘い、命を落としていっている。震災被害者の救援に参加した米兵に対して、あまりにも酷薄な現実であろう。
そもそも、放射能の被害は被曝の量、被曝と健康被害の因果関係の特定、という2つにおいて極めて判断が難しい。そのため、上述した「原発労働」の被曝の訴訟においては、被害を認定する際の「一定の基準」が裁判の中で積み上げられてきた。一定以上の被曝があった場合、その健康被害(癌など)を「労働災害」として一律に認定するという方法だ。そのような基準は科学的な特定が難しいために、「世論」の影響を強く受ける。
今回についても、東電の情報公開と世論が鍵を握っている。米兵の被害者たちも、米国の陪審員制度に対する期待があるという。もちろん、米国内の判断は米国内の世論によるところになるが、当事国として、私たちも彼らの「被害」に向き合うことが求められているのではないだろうか
『文春オンライン』(2017/11/14)
http://bunshun.jp/articles/-/4894
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