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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

大阪市立小学校長が松井市長に「提言」

2021年05月30日 | こども危機
 ◆ オンライン授業の混乱で「胸をかきむしられる思い」 (週刊金曜日)
永尾俊彦(ながおとしひこ・ルポライター)


くぼたかし・1961年大阪府枚方市生まれ。現在大阪市立木川南小学校校長。人権教育に長く携わる。(写真は木川南小学校HPから)

 大阪市立木川南小学校の久保敬校長(59歳)が5月17日、松井一郎市長らに「大阪市教育行政への提言」と題する文書を送った。「支持します」のリツイートは25日現在、約10万件。その一方、市長は「処分」までロに出す始末だ。
 ◆ 「生き抜く」ではなく「生き合う」世の中を

 久保敬(くぽたかし)校長の「大阪市教育行政への提言」には、4月の3回目の緊急事態宣言で松井一郎市長が全小中学校でオンライン授業を行なうとしたことを発端に「学校現場は混乱を極め(略)結局、子どもの安全・安心も学ぶ権利もどちらも保障されない」状況に、「胸をかきむしられる」との心情が綴られている。
 そして現在の学校は「グローバル経済を支える人材という『商品』を作り出す工場と化し」、子どもたちはテストの点で選別される「競争」にさらされ、教員は「子どもの成長にかかわる教育の本質に根ざした働きができず(略)疲弊していく」。
 だから、「今、価値の転換を図らなければ、教育の世界に未来はない」と断言する。
 それは、「『生き抜く』世の中ではなく、『生き合う』世の中」、「『競争』ではなく『協働』の社会」だ。
 そのためには「特別な事業は要らない」。
 全国学力・学習状況調査、学力経年調査などをやめればよいと提言する。子どもと向き合う本来の教育に戻ろうとの呼びかけだ。
 ◆ 松井市長は「提言」を非難

 松井市長はこの提言に対し、「世の中いい人ばかりで、もっと競争するよりもみんながすべての人を許容して、そういう社会の中で子どもが生きていければそれは理想。校長だけど現場が分かってない。社会人として外に出たことはあるんかな」(5月20日の臨時記者会見)と久保校長を非難、「発言内容じゃなく、決められた仕事をしていなければ処分されます」と述べた(同21日の囲み会見)。
 この発言に、久保校長を「根っからの教師」と評する同市立港中学校の名田正廣(なだまさひろ)校長(61歳)は「競争を勝ち抜くことが大切と言うが、負けた子はどうなる。公教育は優劣ではなく、すべての子に力をつけるのが仕事だと思う」。
 その上で「進言のない組織は衰弱していく。校長は現場の代表だから教員みんなの思いを代弁すべき。彼に処分などがなされぬように、市教委には校長として意見を述べたい」と話した。
 木川南(きかわみなみ)小学校の元PTA役員、猪野裕美(いのひろみ)さん(47歳)も、「(提言の)学校は『生き合う』ことを学ぶ場というのはいい言葉やなと思います。久保先生は子どもたちにもすごく支持されている。処分なんてなったら反対の署名活動も考えます」と語った。
 子どもたちは久保さんを「ガッツ先生」と呼ぶそうだ。朝会で元気を出すため、子どもたちと一緒に「せーの」で両腕を左右に開いて「ガッツ!」と叫ぶからだ。
 ◆ 競争で奪われた「学び」

 久保さんは子どもたちに生活の様子などをノートに書かせ、読み合う授業をしてきた。すると「乱暴な奴と思ったけど、妹の世話や家族の手伝いで大変なんや」などとみんなが知ることになり、本人も素直になれるという。
 互いの生活が見えると自然に気づかいし、自分だけよければいいのではないと気づく。これを久保さんは「生き合う」と表現する。
 久保さんが最初に赴任したのは、同和教育推進校だった。被差別部落の子、外国にルーツのある子、障害のある子など多様な子どもが一緒に学ぶ。
 テストの点は低かった。教員は「誰一人取り残さんとこう」と子どもたちと格闘していた。
 そのときのスローガンは「共に学び、共に育ち、共に生きる」だ。結果としてテストの点も高まり、何より「生き合う」力が高まった。
 以前の教育委員会は独立性を持っていた。そして、「どんな浪速(なにわ)っ子を育てるか」という理想があったと久保さんは言う。
 しかし、この10年ほどの間に首長が教委の頭越しに教育に介入し、テストによる児童間の競争、結果による学校間の競争、教員・校長間の競争が激しくなった。学校現場は萎縮、闊達さを失った。
 テストによる競争は「どっちが上か下かになり、下の子は『できない子』というレッテルを貼られ、子ども同士、子どもと教員の温かい関係を奪う」と久保さんは言う。
 子どもたちは優越感、劣等感にとらわれ、本当の自分を見失う。

 久保さんは来年定年を迎える。松井市長らに「提言」を出せば非難されることは予想していた。
 しかし、「自分の正直な気持ちを隠して黙ったままでは、37年間の教員生活は何やったんやろう。先輩や子どもたちを裏切ることになる」。その思いはコロナ禍の対応で市長らに振り回され、一層募った。
 だから、「提言」で学校はこれでいいのかという議論が深まり、、子どもたちの未来が明るくひらけることを久保さんは願っている。世論が沸き起こってくれたら処分されてもいいとすら思う。
 「特別なことは何もしない学校、ホンマに必要なことだけする学校、世界一平凡な学校」が久保さんの理想だ。
 テストから子どもたちを解放し、教員を評価、報告書などの膨大な事務作業から解放する。そして、教員が子どもたちと当たり前につきあえる「平凡」な学校こそが今、最も非凡なのだ。
 ※ ながおとしひこ・ルポライター。
   著書に『ルポ「日の丸・君が代」強制』(緑風出版)など。

『週刊金曜日 1330号』(2021年5月28日)

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