◆ 国に逆らった大学は正しかった!
英語民間試験に「NO」を突きつけていた7大学 (ダイヤモンド・オンライン)
大学入学共通テストへの英語民間試験導入が延期となった。延期以前、どのくらいの大学がこの試験を利用しようとしていたのだろうか。
文部科学省はこんな統計を発表している(10月25日)。英語民間試験の具体的な利用方法を決めた四年制大学や短期大学は629校(全体の6割)だった。四年制大学は71%となっており、うち国立は95%、公立86%、私立65%だった。
英語民間試験の導入は国をあげて進められてきたが、100%とはほど遠い。なぜ、「お上に逆らう」大学が出てきたのだろうか。
英語民間試験導入の延期以前に、同試験を利用しないと宣言した大学を見てみよう。北から紹介する(すべて当該大学のウェブサイトから引用)。
まず① 岩手県立大である。今から約1年前、鈴木厚人学長は英語民間試験を導入しないと宣言している。
続いての② 東北大は明確だった。
③ 東京大は紆余曲折した。2018年3月、英語民間試験を合否判定に使わないという方針を示したが、4月に利用するという見解を示した。しかし、その後、学内から反対の声が多くあがり、9月、成績提出を必須としないという方針を決めた。
同大学に設置された入学者選抜方法検討のワーキング・グループ(座長・石井洋二郎副学長<当時>)は英語民間試験のあり方を批判し、五神真総長(兼・入試監理委員会委員長)に以下の答申を示した。これによって、東京大は舵を切り直したわけだ。
④ 慶應義塾大は2012年にセンター試験利用入試を廃止してから、入試については「我が道を行く」方針を貫いており、英語民間試験に興味を示さなかった。
しかし、その後、塾長になった清家篤(2009~2017年)、長谷山彰(2017年~)は、安西の意向に従わなかった。入試政策において三田会的結束はまったくみられなかった。慶應の考え方として、国政に追随したくないという思いがあるようだ。
一方、早稲田大は、大学入学共通テスト、英語民間試験利用に積極的で、この問題について「在野の精神」はみられない。
⑤ 津田塾大は文科省に対する疑念を捨てきれない。
⑥ 愛知県立大の対応は慎重だった。
以上、英語民間試験を利用しない(必須としない)7校を見てきた。これらの大学が英語民間試験を利用しない理由は、そのまま、11月1日に文科省が同試験の導入延期を発表した際の説明と重なる。
これは先見の明があったということではない。
公平性、公正性が維持できないと考えた大学からすれば、英語民間試験を利用しないのはあたりまえの判断だった。
現実に、延期という事態になったことを考えれば、7校の判断は正しかったと言える。
しかし、お上には逆らえない、にらまれたくはないという思いから、「同試験を利用しないとは言えなかった」という大学もある。これは複数の学長、大学事務局長から聞いた話である。
大学は国がおかしな政策を進めようとしたら、もっと声を上げていいのではないか。
しかし英語民間試験導入の延期決定を受けた、国立大学協会長・永田恭介筑波大学長のコメントは残念なものだった。
受験生のことをしっかり考える、何か起こりそうならば心配して対応する。そういう姿勢で国は入試制度を整備してほしいし、大学は入試を行ってほしい。
(文/教育ジャーナリスト・小林哲夫)
※AERA dot.より転載
『ダイヤモンド・オンライン』(2019/11/16)
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20191116-00220251-diamond-soci
英語民間試験に「NO」を突きつけていた7大学 (ダイヤモンド・オンライン)
大学入学共通テストへの英語民間試験導入が延期となった。延期以前、どのくらいの大学がこの試験を利用しようとしていたのだろうか。
文部科学省はこんな統計を発表している(10月25日)。英語民間試験の具体的な利用方法を決めた四年制大学や短期大学は629校(全体の6割)だった。四年制大学は71%となっており、うち国立は95%、公立86%、私立65%だった。
英語民間試験の導入は国をあげて進められてきたが、100%とはほど遠い。なぜ、「お上に逆らう」大学が出てきたのだろうか。
英語民間試験導入の延期以前に、同試験を利用しないと宣言した大学を見てみよう。北から紹介する(すべて当該大学のウェブサイトから引用)。
まず① 岩手県立大である。今から約1年前、鈴木厚人学長は英語民間試験を導入しないと宣言している。
「その理由は、岩手県内を含め地方において、高校生に等しく認定試験を受検する機会が確保できるか、受検料や会場までの交通費など認定試験への経済的負担が多いことなど、不安を抱えたまま受検することを心配したためです。また、岩手の高等教育機関として地域の未来を担う人材育成を使命とする本学として、認定試験を受検しなかった場合でも、本学を受験することができるようにしたいと考えました」(2018年11月26日)大学は受験生がどのような不安を抱えることになるかを考え、受験生を心配した。国の政策に従うことより、受験生に徹底的に寄り添うことを選んだのだ。これが大学の矜持というものであろう。
続いての② 東北大は明確だった。
「ただし、平成32年度に予定されている英語認定試験については、公平公正な受検体制の整備や成績評価などに関しこれまでに様々な問題が指摘されております。平成33年度入試に利用するためには、現時点ではこれらの問題が解決する見通しが立っていないと認識しています。東北大は自ら高校に調査を行ったところ、英語民間試験利用の賛成が8%にすぎないことを重く見た。国の政策より、地元の意見を重視したわけだ。「合否判定に用いることには無理がある」「受験生の公平公正な扱いを損ねる恐れがある」という指摘は、そのまま文科省批判につながる。
また、本学が実施した高等学校調査でも英語認定試験を受験生に一律に課すことに対し、賛成が8%と少数である一方、反対は4割を占め、高等学校をとりまく環境で十分準備が整っていないと理解されます。
このような状況において、平成33年度入試で本学志願者に対し出願要件として英語認定試験の受検を一律に課すことや成績を合否判定に用いることには無理があり、逆に受験生の公平公正な扱いを損ねる恐れがあると判断しました。
なお、平成34年度以降の入試については、英語認定試験に関する問題の解消と高等学校側の受入れ状況を勘案しながら検討を重ねていくこととします」(2018年12月5日)
③ 東京大は紆余曲折した。2018年3月、英語民間試験を合否判定に使わないという方針を示したが、4月に利用するという見解を示した。しかし、その後、学内から反対の声が多くあがり、9月、成績提出を必須としないという方針を決めた。
同大学に設置された入学者選抜方法検討のワーキング・グループ(座長・石井洋二郎副学長<当時>)は英語民間試験のあり方を批判し、五神真総長(兼・入試監理委員会委員長)に以下の答申を示した。これによって、東京大は舵を切り直したわけだ。
「大学入試における出題ミスや問題漏洩などの不正を絶対に避けなくてはならないことは自明であるにもかかわらず、多くの認定試験が個々の問題を公開していない現状では、これを検証することは不可能である。また、試験の回数や会場(スピーキングにおいては試験官)の増加などの努力が、試験の質や公平性の維持を危うくする可能性も否めない。こうした点について文科省、あるいは大学入試センターが責任を持つ統一的な検証や問題解決のシステムを持たぬまま、これを『共通』試験として全国の受験生に課していいものであろうか」(入学者選抜方法検討ワーキング・グループ答申、2018年7月12日)英語民間試験の非公開性を放置した文科省に対し、不信感を募らせている。
④ 慶應義塾大は2012年にセンター試験利用入試を廃止してから、入試については「我が道を行く」方針を貫いており、英語民間試験に興味を示さなかった。
「英語外部検定試験は利用しません。従来のとおり、英語外部検定試験の受検およびスコア等の提出は課しません。将来的な英語外部検定試験の利用については、引き続き検討を行います」(2018年11月19日)大学入学共通テスト、英語民間試験利用の旗振り役の一人に、中央教育審議会元会長で元慶應義塾長の安西祐一郎がいる(塾長期間:2001~2009年)。
しかし、その後、塾長になった清家篤(2009~2017年)、長谷山彰(2017年~)は、安西の意向に従わなかった。入試政策において三田会的結束はまったくみられなかった。慶應の考え方として、国政に追随したくないという思いがあるようだ。
一方、早稲田大は、大学入学共通テスト、英語民間試験利用に積極的で、この問題について「在野の精神」はみられない。
⑤ 津田塾大は文科省に対する疑念を捨てきれない。
「しかし、現時点に至っても、英語外部検定試験の実施体制等が不明確なままです。本学では、こうした諸問題が解決に向かうまでの間、一般選抜での英語外部検定試験の利用を控えることとし、2021年度入試では利用いたしません」(2019年10月2日)国の政策を「実施体制等が不明確」と言い切るところに、津田塾大の英語教育に対するプライドが読みとれる。
⑥ 愛知県立大の対応は慎重だった。
「本学では、平成30年12月26日付及び平成31年4月25日付予告で、『認定試験』の活用方法について公表し、その成績を『大学入学共通テスト』(以下『共通テスト』)の得点率に換算する方法について、検討を重ねてきました。しかし、公平で客観的な換算方法を未だ確立するには至っていないため、次の入試区分について『認定試験』の利用を見送り、『大学入試英語成績提供システム』と『共通ID』は利用しないものとします」(2019年10月11日)最後に⑦ 京都工芸繊維大である。
「本学では、一般入試以外の入試で英語の外部試験を活用する場合、1つの試験に限定し、約2年間のスコアを有効とし、かつ公開テストに限ることで一定の公正性と公平性を担保しております。大学として「公正性と公平性」にこだわり続けた。
しかしながら、一般選抜への英語認定試験の活用については、現時点で、複数の試験のスコアとCEFRとの対照や受験体制の面で十分な公正性と公平性が担保されていることが確認できないため、2021年度の一般選抜への活用は見送らざるをえないという結論になりました」(2019年3月22日)
以上、英語民間試験を利用しない(必須としない)7校を見てきた。これらの大学が英語民間試験を利用しない理由は、そのまま、11月1日に文科省が同試験の導入延期を発表した際の説明と重なる。
これは先見の明があったということではない。
公平性、公正性が維持できないと考えた大学からすれば、英語民間試験を利用しないのはあたりまえの判断だった。
現実に、延期という事態になったことを考えれば、7校の判断は正しかったと言える。
しかし、お上には逆らえない、にらまれたくはないという思いから、「同試験を利用しないとは言えなかった」という大学もある。これは複数の学長、大学事務局長から聞いた話である。
大学は国がおかしな政策を進めようとしたら、もっと声を上げていいのではないか。
しかし英語民間試験導入の延期決定を受けた、国立大学協会長・永田恭介筑波大学長のコメントは残念なものだった。
「国立大学協会としては、これまで受験生の経済的な公平性の担保について直接文部科学省にもお願いして参りましたし、文部科学省も改善に向けて活動されていたと承知していたところであり、残念であるとともに驚きをもって受けとめております」他人事で当事者性があまり感じられない。「改善」という認識があり、「残念」と受け止めている。しかし、これでは不安に思う受験生、高校の感覚とズレる一方だ。
受験生のことをしっかり考える、何か起こりそうならば心配して対応する。そういう姿勢で国は入試制度を整備してほしいし、大学は入試を行ってほしい。
(文/教育ジャーナリスト・小林哲夫)
※AERA dot.より転載
『ダイヤモンド・オンライン』(2019/11/16)
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20191116-00220251-diamond-soci
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