◆ 内田雅敏著『靖國神社と聖戦史観』
-A級戦犯こそ靖国にふさわしい (週刊新社会)
ふたつの発言に接しながらこの本をひらいた。
ひとつは、佐渡金山の遺跡が「ユネスコ世界遺産候補」になったこと、それについて韓国外務省が、「強制労働被害の現場である佐渡の金山を世界遺産として登録を目指すことは非常に嘆かわしく、直ちに撤回することを求める」と声明したというニュース(12月29日)。
もうひとつは、こんな発言-「(太平洋戦争は)アジア全体を栄えさせ、独立させるための戦いだった」(朝日新聞12月10日付)。声の主は九州国際大学学長、元自民党衆議院議員の西川京子氏。熊本の県立高校創立行事における全校生徒に向けた講演の一節である。いまなお「聖戦史観」の残像がしぶとく生き残っていることを痛感させられる放言だ。
内田さんのこの本は、その「聖戦史観」のルーツともいうべき靖国神社のイデオロギー誕生から、こんにちにいたる沿革をていねいに解き明かしつつ、あわせて「靖国問題の解消に向けて」どう向き合うかという、納得できる提案がおこなわれる。
◆ 興味深いエピソード
冒頭に置かれたエピソードが興味ぶかい。
2019年にイギリス国防軍ラグビーチームが(たぶん防衛省によるお膳立てだろうが)靖国神社に参拝、同社の歴史施設「遊就館」を見学したことにふれつつ、その行為が駐日英大使から叱責され、「タイムズ」など英メディアからも批判が相ついだ、と紹介される一方、日本の右派からは「これぞノーサイドの精神!」とほめそやされたというものだ。
たしかに、筆者が少年時代に観た「戦場にかける橋」という映画、それは太平洋大戦中にタイ~ビルマ間に敷設された秦緬(たいめん)鉄道をめぐる対立と協力の物語で(クライマックスで建設した橋は爆破されるが)、アレック・ギネス扮する英軍ニコルソン大佐と早川雪洲を演じる斉藤大佐役の葛藤がみごとだった。吸いこまれるように観た記憶があるが、本書の語り口も同様にわかりやすく説得的だ。
◆ 本書の構成
3部からなる本書の組みたては、
「靖国神社とは」、
「歴代日本政府の歴史認識と靖国問題」、
「靖国間題の解消に向けて」
で構成される。
歴史編、問題指摘編、提案編とくくっていいだろう。
歴史編では「遊就館」に展示され、「命(みこと)」の各で尊称される東条英機、広田弘毅たち、戦争犯罪人として処刑された人物たちがなお「祭神」としてまつってあること、日中戦争での勝利ニュースをそのまま流すビデオコーナーもあることなどが紹介される。
第2部では、戦後歴代内閣が「靖国問題」とどう向き合ってきたのかがたどられる。「靖国史観」が(自民党内閣の対応もふくめ)いかに独断と自画自賛にみちたものであるかが克明に追究される。
◆ 明らかになる解決の視点
そればかりでなく、第3部「死者たちの声に耳を傾ける国立追悼施設を」の章で、たんに靖国批判にとどまらない解決への視点もしめされる。
佐渡金山の「世界遺産化」がはじまったいま、私たちの見方もまた、いかに世界史化、普遍化させなければならないか、そのことを本書は教えてくれる。
『週刊新社会』(2022年1月19日)
-A級戦犯こそ靖国にふさわしい (週刊新社会)
評者 前田哲男(ジャーナリスト)
ふたつの発言に接しながらこの本をひらいた。
ひとつは、佐渡金山の遺跡が「ユネスコ世界遺産候補」になったこと、それについて韓国外務省が、「強制労働被害の現場である佐渡の金山を世界遺産として登録を目指すことは非常に嘆かわしく、直ちに撤回することを求める」と声明したというニュース(12月29日)。
もうひとつは、こんな発言-「(太平洋戦争は)アジア全体を栄えさせ、独立させるための戦いだった」(朝日新聞12月10日付)。声の主は九州国際大学学長、元自民党衆議院議員の西川京子氏。熊本の県立高校創立行事における全校生徒に向けた講演の一節である。いまなお「聖戦史観」の残像がしぶとく生き残っていることを痛感させられる放言だ。
内田さんのこの本は、その「聖戦史観」のルーツともいうべき靖国神社のイデオロギー誕生から、こんにちにいたる沿革をていねいに解き明かしつつ、あわせて「靖国問題の解消に向けて」どう向き合うかという、納得できる提案がおこなわれる。
◆ 興味深いエピソード
冒頭に置かれたエピソードが興味ぶかい。
2019年にイギリス国防軍ラグビーチームが(たぶん防衛省によるお膳立てだろうが)靖国神社に参拝、同社の歴史施設「遊就館」を見学したことにふれつつ、その行為が駐日英大使から叱責され、「タイムズ」など英メディアからも批判が相ついだ、と紹介される一方、日本の右派からは「これぞノーサイドの精神!」とほめそやされたというものだ。
たしかに、筆者が少年時代に観た「戦場にかける橋」という映画、それは太平洋大戦中にタイ~ビルマ間に敷設された秦緬(たいめん)鉄道をめぐる対立と協力の物語で(クライマックスで建設した橋は爆破されるが)、アレック・ギネス扮する英軍ニコルソン大佐と早川雪洲を演じる斉藤大佐役の葛藤がみごとだった。吸いこまれるように観た記憶があるが、本書の語り口も同様にわかりやすく説得的だ。
◆ 本書の構成
3部からなる本書の組みたては、
「靖国神社とは」、
「歴代日本政府の歴史認識と靖国問題」、
「靖国間題の解消に向けて」
で構成される。
歴史編、問題指摘編、提案編とくくっていいだろう。
歴史編では「遊就館」に展示され、「命(みこと)」の各で尊称される東条英機、広田弘毅たち、戦争犯罪人として処刑された人物たちがなお「祭神」としてまつってあること、日中戦争での勝利ニュースをそのまま流すビデオコーナーもあることなどが紹介される。
第2部では、戦後歴代内閣が「靖国問題」とどう向き合ってきたのかがたどられる。「靖国史観」が(自民党内閣の対応もふくめ)いかに独断と自画自賛にみちたものであるかが克明に追究される。
◆ 明らかになる解決の視点
そればかりでなく、第3部「死者たちの声に耳を傾ける国立追悼施設を」の章で、たんに靖国批判にとどまらない解決への視点もしめされる。
佐渡金山の「世界遺産化」がはじまったいま、私たちの見方もまた、いかに世界史化、普遍化させなければならないか、そのことを本書は教えてくれる。
『週刊新社会』(2022年1月19日)
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