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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

労働報酬下限額を定める公契約条例の効用

2020年02月09日 | 格差社会
  =『労働情報』主催の講演会での講演から(2019年12月9日〉=
 ◆ 世田谷区 公契約条例の意義
世田谷区長 保坂展人

 公契約条例についてなぜ取り組むことになったのかお話しします。
 10年前までは国会にいましたが、当時の建設業界はダンピング合戦で毎年給料が下がる過酷な状況でした。こういったなかで全建総連などを中心に公契約条例制定運動がおきてきました。
 ダンピング合戦と不安定雇用、仕事を受ける事業者に利益が出ず、赤字になってしまう負のスパイラル。これを公共事業として賃金の確保、労働条件の向上、事業者としても一定の利益が出る基盤をつくるのは公契約条例です。
 入札について価格を見直してみようと、例えば防災対策で動いてくれる事業者にポイントを上げるとかをしています。入札の改革適正な労働条件の確保、経営環境が良くなるということで、公共事業自身の品質も確保されます。この中で地域全体の賃金の状況も生まれています。
 ◆ 条例に至る様々な動き

 2010年11月、「公契約条例に係る検討委員会設置を求める請願」が受理されます。
 運動主体としては、世田谷区では建設関係の労働組合で東京土建や建設ユニオンを中心に連合・全労連ともに経営者側にも声かけして制定運動を進めていました。
 防災について取り組む事業者側と労働組合側を主体とした建防協(世田谷区建設団体防災協議会)の活動があり、そうした母体のもとに区議会に働きかけた歴史があります。
 2008年のリーマンショック以降経済状況が厳しく、建設産業もどん底でした。公契約条例をいきなり制定ではなくて、「公契約条例的なものが必要なので検討委員会で議論をしてくださいよ」というハードルの低い要請で、これが2011年3月の東日本大震災直後の区議会予算議会で採択されました。
 私は2009年の総選挙で杉並選挙区で立候補して全国で一番得票が多い落選、浪人中で杉並区にいたため知りませんでした。
 当時は、東日本大震災で南相馬市が屋内避難地域指定にもかかわらず交通・輸送が途絶え、トラックが入れずに油も食料も入らない孤立状態でした。杉並区と南相馬市が災害時相互協定を結んでいたので、杉並区で政治活動をしていたこともあり、南相馬市に物資を運ぶ支援をしていました。
 帰ってきて「世田谷区長に立候補してほしい」という話が3月末にもちあがって4月6日に立候補出馬記者会見をし、17日後に当選しました。
 ◆ 労働報酬下限額を設置

 区長に就任してすぐに、公契約条例の請願が採択されたことを知ります。
 まずは「世田谷区公契約のありかた検討会」を2011年9月に設置しました。
 公契約条例については区役所内でも反対論が強く、そういう意見を色濃く反映した条例案が一度区議会に出ますが、実効性がないということでほぼ全議員から趣旨不鮮明だと批判がでて撤回しました。
 もう一度議論していまの条例案を出しました。公契約条例のなかで強制的な措置をもっていないのが特徴です。
 委託契約で事業者に対して「労働報酬をこの金額は払ってくださいよ」と条件づけますが、違反した場合にいくら払えとか理由書を公表するとかはありません。
 審議過程では「ペナルティーがないものは役に立たないのではないか」という意見もありましたが、最大公約数でそろえようということになり、ほぼ全会派が同意する形でまとめることができました。
 2015年の4月に公契約条例施行、2016年7月に労働報酬下限額が適用になります。
 労働報酬下限額を誰が決めるのかということで、公契約適正化委員会という区長の諮問機関をもっています。
 そこには労働法制に詳しい弁護士、学者、労働組合から連合、建設産業労組それぞれ1人、事業者側から3人で構成して公契約条例をまわしています。
 その中に労働報酬専門部会を設けていて、この部会で労働報酬を議論し、結果を提出します。
 労働報酬下限額の議論は、世田谷区職員の高卒初任給を時間で割った金額に到達していこうということでした。
 まず900円台から1000円台にしたときに大きな変化がおきます。公契約条例を設定したときに考えていたよりも大きな効果がありました。
 官製ワーキングプアという話がありますが、世田谷区でもいわゆる非常勤で働いている皆さんが約4000人います。
 委託の事業者にこれだけ払えといっている区が雇用している非常勤労働者に同じ金額を出すのは当然だろうという議論になって、一挙に改善しました。
 900円の人が1000円になるだけではなく、1200円の人が1400円になったり全体が持ち上がる構造です。
 ◆ 役割制度の波及効果

 労働報酬下限額を2019年度には1070円に上げた。来年度は1130円にする意見書を受けています。
 そうすると今年度の人事委員会勧告がマイナスなので、区の職員の高卒初任給にほぼ到達する。非常勤職員は来年度から会計年度任用職員になりますが、だんだんと賃金がもち上がっていきます。
 地域的な効果があっただけではなく、世田谷区がいくらにするのかはけっこう注目されているので、世田谷区より1円でも上げようという自治体もあり、お互いを見合いながらの効果というものもあるのではないかと思っています。
 23区の自治体で世田谷区以外はトップダウン型で、区長がやろうといって公契約条例の議案を出してきているところが多いです。
 労働報酬下限額の設定によって賃金が引き上がると同時に全体の賃金体系にもち上がる効果があります
 労働報酬下限額はたいへん重要ですが、最低賃金との混同もありあまり知られていないようです。労働者側と使用者側と学識経験者のいる公契約適正化委員会で議論して労働報酬専門部会の意見書をいただく穏便なかたちでやっています。
 ◆ チェックシートの役割

 現在も毎年、公契約条例シンポジウムを開いています。そこには自民党から共産党まで全議員が参加し、それぞれの会派別に公契約条例の趣旨を理解して頑張るという決意表明をしてくれているので基盤は整っています。
 世田谷区も多くの企業と委託契約を結んでいますが、本当に適正に報酬を支払ってくれているのかの問題があります。
 ペナルティーもないので労働報酬の条件についてチェックシートをつくって記入していただくようにしていますが、それをもっとチェックしやすいものにした方がいいのではないかという意見も出ています。
 労働報酬下限額が自治体によっては職種別に定められているところもあるので、職種別に分割していくらと決めるべきだという意見もいただいていて、2020年に制度設計をしていくことになると思います。
 事業者側については2015年度に前払い金の支払限度額引き上げ、総合評価競争入札の基準変更、16年度に現場代理人常駐義務緩和、前払金の使途拡大、17年度に総合評価に区内本店への加点等、18年度に低入札制度価格調査制度の適用範囲拡大などを適正化委員会で議論をして実施してきた。
 6月26日に「公契約にかかる区内の経営環境と労働条件の改善・向上を図るための施策について」、「工事以外の公契約における職種別の労働報酬のあり方について」を公契約適正化委員会に諮問し、議論してもらっています。
 これについての答申がまもなく出て、それにもとづいて制度設計に入ると思うので、今年度より2年をかけて議論してもらうことになります。
 制度設計時には労働行政との関係を考えました。労働基準監督署は職員数が限られているので労働関係法令が守られているかをチェックシートで把握しようという問題意識もあります。
 それがどこまでできているかといわれるとまだ課題があります。
 外国人労働者に関しても問題が多くあります。外国人労働者の存在は無視できません。人権侵害の日本の政策や現状への意識は現場にそれほど育っていないので、これからやっていかなければなりません。
 毎回200人くらい集まって他の自治体に学ぶ世田谷区公契約条例シンポジウムを開催しています。
 ◆ 全体の底上げめざす

 公契約条例から話がそれます、「国土強靱化」の話がありますが、私は違うんじゃないかと思っています。
 コンクリートは防災上万能ではありません。グリーンインフラを考えています。
 降った雨を排水溝から下水に流し、下水から川に流すという流れに時間差をもうける仕組み、雨水を直接排水溝に流すのではなくて逃がす、緑・大地の力そのものを活用して水をたくわえることを戦略的にアクセスしていこうとしています。
 世田谷区役所とか、大きな公共事業の建築物については降った雨がたくわえられ、時間差をもって流れていくようにコントロールしていくこと、コンクリートをはがして浸透させることなどを積極的にやっていこうと計画しています。
 あと世田谷区環境配慮型住宅リノーべーション推進事業。区内事業者が行う断熱改修等、区内の既存住宅の性能向上工事への補助もとりくんでいます。
 公契約条例を制定する自治体は増えています。世田谷区の場合は非常に時間をかけました。私が区長になる前から5~6年論議していて、ようやく検討委員会で請願が通って委員会が設置されてから3年を経て自民党ふくめて全会一致で賛成、その代わりペナルティーなしで緩い内容ですが、賃金全体を底上げする効果は認められました、
 「最低賃金1500円」のスローガンからは、1130円で高いとはいえませんが、800円台だった世田谷区の非常勤職員の賃金基準が上がってきました。
 ◆ 質疑応答から

 Q 賃金水準について家族や最低生活費などをどう考えるか。
 A 高卒初任給の時給水準を目標値にしようと歩んできた。同一労働同一賃金の原則に距離はあるが、来年度からの労働報酬下限額1130円で約6億円、会計年度任用職員に一時金支給で約2億円予算増になる。
 不安材料はふるさと納税。今年度で約54億円、来年は約70億円の税収減になる。これまで公契約条例に反対だ、止めようといった議員は一人もいない。
 Q ①市民団体ふくめて組合関係や団体が積極的に関わっているか。
   ②あり方を検討する場合に公明・公正性を確保する仕組みがあるか。
   ③高卒初任給の話があったが賃金のあり方を考えるときの方向などは。
   ④労働者や事業者のデーター開示や把握・共有の展望はいかがか
 A ①最初に公契約条例で動いていたのは全建総連関係だが、最近は連合関係では世田谷区地域のテーマになっているし、公契約適正化委員会に委員も出している。市民団体とまでいかないかもしれないが、非常勤等で公共で働いている皆さん、自治労・自治労連以外の組合の皆さんも公契約条例シンポジウムにはかなり参加している。事業者も真剣に参加している。労働者を募集しても集まらないのが現実で、そこは労働者側も一緒にやっていかなければいけない。防災上の地域的なつながりをつくることを総合評価方式の加点にいれて、地域の設置費で経済を回していこうという意識も生まれている。
   ②労働報酬下限額は労働報酬専門部会で労働組合代表と事業者を代表する委員が議論して金額を決めている。
   ③高卒初任給で格差が解消したことにはならない。日本は賃金が下がり続けた国で疲弊状態にあるので次の目標を見ていかなければならない。区役所の現場では2~3年で人事異動があるので、仕事にプロで精通しているのは非正規職員の方々。どんなに頑張っても正規職員化できない制度の壁がある。これを取り払っていくべきではないか。会計年度任用職員になっても変わらないので突破しなければならない課題である。
   ④データー開示や把握についてだが、全て調べることはできないのでいくつか選んで公契約適正化委員の社労士に頼んで調べたら問題がでたが、限られた数なので効果の話がある。区の委託契約(予定価格2000万円以上)、事業者数は388社。全体像は把握できない。
 (2019年12月9日に開催した労働情報主催の講演会での講演から〉

『労働情報 No.990』(2020年2月)

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