ジョー・ウォルトン「バッキンガムの光芒」
会社を大胆に抜け出して、バスに乗って向かった先はマクドナルド。120円のホットコーヒーを手に女子高生で賑わうテーブル席の一角に滑り込む。何をしてるのかって?それは、この本を読了するため。だって、とにかく読みたかったんだもん。
ファージング3部作の最終巻です。
時代は10年ほど下り、1960年。独ソ戦は原爆を使用したドイツが勝利しており、同じく戦勝国の日本は今やイギリスとアメリカ合衆国を分割しようかという勢い。そんな世界情勢の中、イギリスを包むファシズムの影は国中に拡がり静かな恐怖が人々の日常の中に溶け込んでいる。
物語は今回も監視隊のトップとして働くカーマイケルと女性エルヴィラの掛け合いで進行します。このエルヴィラは、「暗殺のハリウッド」で登場するある人物の娘。18歳を迎え社交界に入るためにエリザベス女王の拝謁を待つデピュタントの一人です。このデピュタントのしきたりが面白いんです。壮大な出会い系・・・なのはともかく、結末に重要な役割を果たすのですよ。
監視機関の大きな力を得たカーマイケルは一方で抑圧されるユダヤ人を救う活動に身を投じています。マーブルアーチでの暴動をきっかけに大きな危険な渦に飲み込まれていくエルヴィラとカーマイケル・・・。
歴史が改変されてますので、とんでもない登場人物も出てきます。そう、ウィンザー公とシンプソン夫人。彼をこんな場面で使ってくるとは・・・思わず苦笑しちゃいました。
ロンドンの町並み描写もたくさんあって嬉しい。「英雄たち・・」「暗殺の・・」に登場した人たちが要所要所で姿を出すのも嬉しい。ラストはイギリス庶民の正義と理性、そして一番上に君臨する者の正義と理性が国を救うというものなのですが・・・・。巻末訳注を活用すれば逆な意味でイギリス現代史をおさらいすることもできます。ともかく、会社を抜け出して読む価値は十分にあります。