閔妃(ミンビ)暗殺―朝鮮王朝末期の国母 (新潮文庫) | |
角田 房子 | |
新潮社 |
時は19世紀末、権謀術数渦巻く李氏朝鮮王朝宮廷に、類いまれなる才智を以て君臨した美貌の王妃・閔妃がいた。この閔妃を、日本の公使が主謀者となり、日本の軍隊、警察らを王宮に乱入させて公然と殺害する事件が起こった。本書は、国際関係史上、例を見ない暴挙であり、日韓関係に今なお暗い影を落とすこの「根源的事件」の真相を掘り起こした問題作である。第一回新潮学芸賞受賞。
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閔妃という人が日本人によって殺されたことは知っていましたし、これが韓国併合の過程というか、流れの中でそういう事件があったことも知っていましたが、この閔妃という人がどういう人で、何で殺されなければいけなかったのか、よくわかりませんでした。
・・・いや、実は、読んでもよくわからないのですが・・・
閔妃を殺さなければ、その後の朝鮮支配ができなかったわけではないし、たしかに、邪魔者ではあったにせよ、この本を読んでいくと、あの時点で殺さなければならない理由って、よくわかりません。
ロシアとの関係を断ち切るためなのでしょうか。三国干渉の後に日本の影響力が弱まって、ロシアと結びつきを強めていく朝鮮を危惧して、そのいちばんのパイプの閔妃を殺しちゃうというのは、わかりやすい行動に見えても、そんな安易な選択があるのだろうかと思っちゃいます。
暗殺のところでは、集まった日本人たちの精神状態の異常さを感じましたが、複雑な外交問題の観点がまったくなくて、思考そのものが安易で殺せばすべてうまくいく的な、何の根拠もない思い込みに支配され、閔妃を自分が殺して、日本の発展の歴史の表舞台に名を残すといった功名心にかられて、我先にと急ぐ感じはとても醜いものを見ちゃった感じです。
相手が悪い人(もちろん主観で)という認識であったとしても、人を殺すという行為をこれだけ簡単に受け入れてしまう精神状態に恐怖を感じます。
そして、それが正義であるという思い込みに何の疑問も持たないというのもすごいです。
当時の日本の政府、国民の意識もそうかもしれませんが、侵略的な思想が当たり前のように支配していたのかもしれません。
最初の大院君の圧政、それに変わる閔一族の支配、これもまたクーデターによって、また大院君が権力を取り返し・・・うんだらかんだら・・・国外との関係では、清と日本との関係にはさまれて、新たにロシアが加わって朝鮮の主導権を誰が握るのかの駆け引き・・・という構図。そんないろんな思惑の絡み合いが、面白いところでした。
でも、日本の侵略性といった場合に、どこかまだ入ってこないところがあるのは何ででしょうか。侵略性が当たり前の前提で話を進めているからなのか、侵略的な立場でなかったのか・・・侵略的な立場をうすめようとしているからなのか、そういう観点をテーマにしていないからなのか・・良心的ではあるんだけれど、どこかまだよくわからないところが残されちゃった感じがします。
何がなんだかわからなくなってきましたが、韓国併合という日本がおこなった侵略・植民地支配の中でこの一連の動きがどういう意味を持っていたのか・・・もしかしたら、自分の読解力のせいでわからないだけかもしれませんね。
最初のほうの閔妃が王妃になってからの、生活・・・想像の面もあるとは思いますが、まだ、王に相手にされていないときから、王妃としての自分の地位を確立していくための努力をかさね、権力をにぎっていく姿は「すごい」です。この辺がいちばん面白かったです。いいとか、悪いでなく、「すごい」です。そこまで自分を律することができるのかと思います。自分はふにゃふにゃですからね。
権力をにぎったあとの圧政ぶりも、今まで自分の邪魔をしてきたものへの復讐の徹底ぶりもすごかったのでしょう。
けれど、日本がどんどん介入してくると、そのすごさにかげりを感じます。朝鮮の中での王宮の位置づけが急落していったからなんだと思いますが・・・
そして、その急落の中での暗殺だったので、それほどの意味があったのか・・・疑問ですね。
この閔妃暗殺事件は、その後の朝鮮支配の日本の蛮行の象徴なものかもしれません。
ところで、この写真、実は、閔妃の写真じゃないらしいです。いろんな説があるようですが・・
でも、押し入った人たちは、写真を持っていたそうで、写真がなかったわけではないらしいです。
色々謎があるんですねえ…
こういう歴史をみて行く本は、何が正しくて、何が間違っているのかもよくわからないところが難点です。読む側はまずはそれを信じて読まないと、入り込めないですもんね。逆にすべてを疑って読むわけにもいかないし・・・