1差で追う稀勢の里が目の前で完勝し、星を落とせば優勝決定戦にもつれる。満員札止めの館内が息をのむ中、白鵬がまさかの手に打って出た。
優勝が懸かる千秋楽結びの一番で立ち合いの変化。拍手はほとんど起きず、座布団だけでなく紙袋まで飛び交うありさまだった。
「あれで決めるつもりはなかった」と白鵬が釈明すれば、八角理事長(元横綱北勝海)も「変化というより、いなしだろう」と擁護。ただファンからすれば大きな肩透かしだろう。日馬富士の顔面に右手を出し、ひらりと左へ飛ぶ。相手の体にほとんど触らず勝負を決め「流れだ。勝負だからどっちが勝つか負けるかだ」と平静を装ったが、土俵下の優勝インタビューでは激しいやじ。4場所ぶりの復活優勝はほろ苦い涙に包まれた。
千秋楽を除けば終盤戦の集中力はさすがで、前人未到の優勝40回の大台を視野にとらえた。あと1勝で魁皇に並び史上1位の幕内879勝も迫る。新たな大記録を樹立しそうな第一人者だからこそ、周囲の視線は自然と厳しくなる。
今場所2度目の駄目押しで審判長に骨折を負わせた翌日には、審判部内から「もう一度やれば出場停止も」の意見が複数出たほどだ。
稀勢の里と豪栄道の日本人大関への期待感が今後も高まる一方、白鵬は勝ち方までが問われる闘いが続く。「初日からいい相撲だったけど、最後は申し訳ないよ」。自らも荒れた春の陣を何とか締めくくった。