おはようございます!
曇り空、少し気温は低いけど空気はやや膨張感がある今朝の@湘南地方です。
さて、京都芸大の判決をまだ見つけられず、、
代わりにこんな判決を読んでしまったので紹介。
登録を受けようとしていた商標がこちら。
複数の楕円貫通孔部分(図面上実線で表示されている部分)についての登録を求めたもの。
なお、指定商品は「くし」から「毛髪カット用くし」に補正されている→需要者が限定的(専門職としての理美容師であって一般需要者でない)であることの主張の根拠にしようとしたものと伺えるが、思惑通りにはいっていない。
(判決文)
“
カットコームの流通においては,その購入に一定の資格を有するなど特に業務専用品としての制限があるわけではないし,証拠(乙31~37)によれば,
カットコームが家庭での調髪などの用途のために一般消費者向けにも販売されており,美容用品としての櫛と一般用の櫛とが混在してインターネット等
を通じ広く流通している事実も認められる。したがって,職業としてヘアカットを行う理美容師だけではなく,一般消費者が子供その他の家族の散髪な
どを目的としてカットコームを購入することも,十分想定される。
”
※需要者として広い認定がされると、周知性の主張にあたってはその広い人たちの間で周知であることを主張しなければならず、一方プロの理美容師しか基本的には買わない、ということであれば、商品の選択にあたってはより高い注意力をもって行うことが想定されるから、本件のような位置商標についても使用の結果識別標識として機能している、とされる可能性があがる。
使用による識別力については、以下の通り判示されている。
(判決文)
“
たしかに,これらの各証拠等によれば,原告が販売する櫛は,プロである美容師や理容師等の間では有名であること,及び,これらの美容師,理容師等の中には,「穴のあいた櫛」であることを原告の商品であることを識別する標識として掲げている者が多いことが認められる。
”
としつつ、
“
しかしながら,上記各証拠によれば,原告が販売している櫛には,本願商標の構成とは異なる数の貫通孔を空けたもの(請求人類似商品)も少なから
ず存在することが認められるところ,上記のとおり,理容師,美容師等が識別標識としているのは「穴のあいた櫛」であることであって,本願商標の構成である中央部を除いた左右に7つずつ空けられた貫通孔ではないのであるから,これによって,本願商標の構成そのものが自他商品の識別標識となっていると断定できるかどうかには疑問がある。
”
と示し、これに加え上記需要者の点で一般需要者間での周知性が立証されていないことを指摘し、使用による識別性を否定している。
原告が複数種類の「貫通孔を空けた櫛」を販売していることがかえってアダとなったということか。
「穴のあいた櫛」が特定の出所を表示するものとして需要者に認識されているならば、その代表的な形態(穴の配置態様)について保護を認めても良いようにも思うが…。
本判決で思ったこと
[その1]仮に、指定商品を「理美容師用くし」としていたならば、需要者の認定は原告主張の通りに認められていた可能性はあるのか?
→判決中の認定判断によれば、“ネットで一般の人も買えるから需要者=一般需要者”としている。
このあたり、ネット販売における商品説明を「プロ用」のように限定的に表現していたら結論は違っていたのだろうか?
言い換えれば、販売者側として想定している需要者層と実際の需要者層とにズレがある場合は、どのように判断されるのだろうか。
[その2]特徴的なデザインが識別標識としての保護を受けるまでに“昇華”することのハードルは一般的な認識よりも高いし、作戦が必要ということか。
→原告会社は、意匠でもくしをはじめとした理美容関連グッズについて出願しており(権利者名での検索で32件ヒット)、結構積極的に知財保護を図っている。
くしについては、上記位置形状自体を保護していた履歴はないが(判決文によれば1989年から販売開始したとのことで、その当時はその発想はなかったのかもしれない)、
部分意匠登録で、破線部分に複数の貫通孔が表現されているものも複数確認できる。
7つの貫通孔、という意味では、物品が「ヘアーブラシ」で同一ではないものの、貫通孔が意匠の構成に含まれているものもある。
なるほど、貫通孔の数はさまざまな様子…しかしまあ、それもくしの形状のバリエーションを考えればある意味当然では?とも思う。
代表的な位置形状のものを一つ“スター”として有名にしておいて、これと同種の商品群、というかたちで一群の商品を売っていく、ということを意識的にしておかないと、
本件のような位置商標の保護を受けるには却って障害となってしまう、ということなのだろうか。
この点、保護しようとする業務上の信用が「一列に連続する貫通孔」という抽象的な形状であってもその外縁が特定されている場合には、代表的なものについて登録を受けるにあたってはむしろ他の形状もプラスにこそなれ足を引っ張るような認定判断を行うのは違和感を感じてしまう。
曇り空、少し気温は低いけど空気はやや膨張感がある今朝の@湘南地方です。
さて、京都芸大の判決をまだ見つけられず、、
代わりにこんな判決を読んでしまったので紹介。
登録を受けようとしていた商標がこちら。
複数の楕円貫通孔部分(図面上実線で表示されている部分)についての登録を求めたもの。
なお、指定商品は「くし」から「毛髪カット用くし」に補正されている→需要者が限定的(専門職としての理美容師であって一般需要者でない)であることの主張の根拠にしようとしたものと伺えるが、思惑通りにはいっていない。
(判決文)
“
カットコームの流通においては,その購入に一定の資格を有するなど特に業務専用品としての制限があるわけではないし,証拠(乙31~37)によれば,
カットコームが家庭での調髪などの用途のために一般消費者向けにも販売されており,美容用品としての櫛と一般用の櫛とが混在してインターネット等
を通じ広く流通している事実も認められる。したがって,職業としてヘアカットを行う理美容師だけではなく,一般消費者が子供その他の家族の散髪な
どを目的としてカットコームを購入することも,十分想定される。
”
※需要者として広い認定がされると、周知性の主張にあたってはその広い人たちの間で周知であることを主張しなければならず、一方プロの理美容師しか基本的には買わない、ということであれば、商品の選択にあたってはより高い注意力をもって行うことが想定されるから、本件のような位置商標についても使用の結果識別標識として機能している、とされる可能性があがる。
使用による識別力については、以下の通り判示されている。
(判決文)
“
たしかに,これらの各証拠等によれば,原告が販売する櫛は,プロである美容師や理容師等の間では有名であること,及び,これらの美容師,理容師等の中には,「穴のあいた櫛」であることを原告の商品であることを識別する標識として掲げている者が多いことが認められる。
”
としつつ、
“
しかしながら,上記各証拠によれば,原告が販売している櫛には,本願商標の構成とは異なる数の貫通孔を空けたもの(請求人類似商品)も少なから
ず存在することが認められるところ,上記のとおり,理容師,美容師等が識別標識としているのは「穴のあいた櫛」であることであって,本願商標の構成である中央部を除いた左右に7つずつ空けられた貫通孔ではないのであるから,これによって,本願商標の構成そのものが自他商品の識別標識となっていると断定できるかどうかには疑問がある。
”
と示し、これに加え上記需要者の点で一般需要者間での周知性が立証されていないことを指摘し、使用による識別性を否定している。
原告が複数種類の「貫通孔を空けた櫛」を販売していることがかえってアダとなったということか。
「穴のあいた櫛」が特定の出所を表示するものとして需要者に認識されているならば、その代表的な形態(穴の配置態様)について保護を認めても良いようにも思うが…。
本判決で思ったこと
[その1]仮に、指定商品を「理美容師用くし」としていたならば、需要者の認定は原告主張の通りに認められていた可能性はあるのか?
→判決中の認定判断によれば、“ネットで一般の人も買えるから需要者=一般需要者”としている。
このあたり、ネット販売における商品説明を「プロ用」のように限定的に表現していたら結論は違っていたのだろうか?
言い換えれば、販売者側として想定している需要者層と実際の需要者層とにズレがある場合は、どのように判断されるのだろうか。
[その2]特徴的なデザインが識別標識としての保護を受けるまでに“昇華”することのハードルは一般的な認識よりも高いし、作戦が必要ということか。
→原告会社は、意匠でもくしをはじめとした理美容関連グッズについて出願しており(権利者名での検索で32件ヒット)、結構積極的に知財保護を図っている。
くしについては、上記位置形状自体を保護していた履歴はないが(判決文によれば1989年から販売開始したとのことで、その当時はその発想はなかったのかもしれない)、
部分意匠登録で、破線部分に複数の貫通孔が表現されているものも複数確認できる。
7つの貫通孔、という意味では、物品が「ヘアーブラシ」で同一ではないものの、貫通孔が意匠の構成に含まれているものもある。
なるほど、貫通孔の数はさまざまな様子…しかしまあ、それもくしの形状のバリエーションを考えればある意味当然では?とも思う。
代表的な位置形状のものを一つ“スター”として有名にしておいて、これと同種の商品群、というかたちで一群の商品を売っていく、ということを意識的にしておかないと、
本件のような位置商標の保護を受けるには却って障害となってしまう、ということなのだろうか。
この点、保護しようとする業務上の信用が「一列に連続する貫通孔」という抽象的な形状であってもその外縁が特定されている場合には、代表的なものについて登録を受けるにあたってはむしろ他の形状もプラスにこそなれ足を引っ張るような認定判断を行うのは違和感を感じてしまう。