終値で史上最高値を更新した日経平均株価(22日、東京都中央区)
22日の東京株式市場で、日経平均株価は1989年末につけた最高値(3万8915円)を約34年ぶりに更新し、終値は前日比836円52銭(2.2%)高い3万9098円68銭となった。
取引開始直後は245円高だったが、その後段階的に上げ幅を広げ午後には3万9000円台に乗せた。上げ幅は一時900円に迫った。
米エヌビディアの決算の好調さを手がかりに、買いの勢いは強かった。この日の日本株相場はどう動いたのか。金融機関や街の人はどんな表情で歴史的な株高を受け止めたのか。時系列で追った。
「どこまで上がるのか」上昇の勢い強く
午前6時20分 米国でエヌビディアが2023年11月〜24年1月期決算を発表。売上高が市場予想を上回った。同社株は時間外取引で一時1割高。
午前8時45分 大阪取引所で日経平均先物3月物が前日の清算値比500円高の3万8790円で取引開始。
午前9時 寄りつきは前日比245円高の3万8508円。東京エレクトロン、アドバンテストなど、生成AI(人工知能)関連と目されている大型銘柄に買い注文が殺到し、なかなか寄りつかない。
同9分に東京エレクトロン、11分にSCREENホールディングス、12分にアドバンテストが寄りつくと、3万8700円台後半まで上げ幅を広げた。
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午前10時前 トヨタ自動車や日立製作所、SMCなど大型株が本格的に上昇。海外勢の買いによるものだという。
T&Dアセットマネジメントの酒井祐輔シニア・トレーダーは積極的な売りの少なさが高値の要因との見方を示した。
午前10時16分 一時1989年12月29日につけた高値を上回り、3万8924円まで上昇。
「おお! 超えた超えた」。日経平均が午前に最高値を一時上回った瞬間、東京・八重洲の大和証券の本社28階のディーリングルームでは、トレーダーたちの拍手と歓声が湧いた。岩井コスモ証券ではお祝いのくす玉が割れた。
同社の本間大樹東京コールセンター長は「新しい時代のスタートです。みなさんで日本経済を盛り上げていきましょう」と話した。
台湾運用会社大手の元大証券投資信託の劉宗聖会長は「今回の高値更新を迎えて驚きと不安が一緒になった気持ちだ。
日本株は約30年前の高値を回復しただけにすぎず、まだ上昇余地はある。ただ短期的に日本株が崩れてしまうことには不安を感じる」と話した。
午前11時ごろ 岡三証券の小川佳紀投資情報部長は「エヌビディアの決算を追い風に最高値に一時タッチしたが、思ったよりも早かった
。SCREENホールディングスやソシオネクストなど小型半導体株にもじわじわと物色が広がりつつある。来週もこのような物色の広がりが相場全体に広がれば高値が定着するだろう」と話した。
午前11時30分 3万8913円で午前の取引が終了。同37分、日経平均先物は3万9000円台をつけ、午後の一段高を示唆した。
証券界「意義は大きい」 NISA口座開設に対応
正午ごろ 野村ホールディングスの奥田健太郎社長が東京都内の本社で報道陣の取材に応じた。最高値更新を受けて「すごく大きな節目を迎えた。ここから先は社員も投資家も体験したことがなく、すごく楽しみだ。期待に満ちている」と述べた。
株高のきっかけとなったエヌビディア決算について「市場予測を大きく上回った。投資家は安心してマーケットに入ってきている」とうれしそうに述べた。
大和証券グループ本社の中田誠司社長は東京都内の本社で報道陣の取材に応じ、最高値を上回ったことを受けて「バブル崩壊、失われた30年の象徴的な数字を超えた。日本が大きく変わったことの証しとして、非常に意義が大きい」と語気を強めた。
史上最高値をつけたことで、個人の投資意欲の向上に対する金融機関の期待度は高まる松井証券の窪田朋一郎シニアマーケットアナリストは、「昼や今晩の最高値報道を見た人から、3連休中に新たな少額投資非課税制度(NISA)の口座開設の申請が増えると見ている。
当社ではNISA口座開設の処理がいっぱいで、来週中に臨時で口座開設対応者を増員する予定だ」と話した。
株高は為替市場にも影響を与えた。みずほ銀行の南英明調査役(為替ディーラー)は「午前、円は英ポンドに対し約8年半ぶり、豪ドルに対しても約9年ぶりの安値圏に下落した。
株高による投資家心理の影響を受けやすい通貨ペアで、最高値更新は円安にも寄与した。最近は海外勢の株への資金流入を感じる場面が増えており、為替ヘッジによる円売りが円安に効いているのは確かだ」と指摘した。
外国為替証拠金(FX)業界にも株高の影響が広がった。
外為どっとコム総合研究所の神田卓也調査部長は「日経平均の上昇を受けて、個人投資家のリスク許容度も高まった。代表的な高金利通貨であるニュージーランドドルを買う動きが強い」と指摘した。
午後0時30分 午後の取引は3万8962円で開始。89年の取引時間中につけた高値も超え、すぐに現物でも3万9000円を上回った。
マツダやホンダなど自動車株が上昇。同32分に3万9029円をつけた。フィリップ証券の増沢丈彦株式部トレーディング・ヘッドは「爆上がりだ。どこまで上がるのか。
買いの主体は短期のお金。バブル高値を超えようとして、CTAやマクロが主体で相場のモメンタムを形成している。なかなか節目を見つけられず買い遅れている層が押し目買いを入れている可能性もある」と話した。
午後1時22分 3万8817円まで上げ幅を縮小。外資証券のトレーダーは「小口の利食いと大きく上昇した銘柄のリバランスが一部出たが、積極的な売りはない」と話した。
中小型株にも投資する三菱UFJアセットマネジメントの友利啓明チーフファンドマネジャーは「ベンチマークに勝たなければならないファンドマネージャーとしては、指数が強いと素直に喜べない。
エヌビディアの決算は、これからも大型・半導体関連が主導する株高が続くということと受け取った」と苦笑い。
午後2時6分 日経平均はその後上げ幅を縮め3万9000円を下回って推移。東海東京調査センターの安田秀太郎マーケットアナリストは「一区切りがつき達成感が出て、一休みムードに入った印象」と話した。
午後2時30分ごろ アドバンテストやSCREENホールディングスなどが再び買われ、3万9000円台に浮上。
午後2時55分 日経平均は3万9000円を上回って安定感ある推移に。平野憲一・ケイ・アセット代表(元立花証券執行役員、76)は「これはもう最高値を更新する。
まさか生きているうちに再び最高値を目撃できるとは思ってもいなかった。次の目標値はないので、どこまで上がるかワクワクする。その上昇相場に乗れるかどうかが最も重要だ」と興奮交じりに話した。
午後3時 終値で最高値を更新。大和アセットマネジメントの長野吉納調査部長は「節目を超えた達成感はあるが、1株当たり利益(EPS)の上昇などから見て違和感はない水準で、ある意味淡々と通過するところ。
大事なのはこの後だが、小型を除くと市場全体がしっかり上がっていて安定感がある」と今後への期待を語った。
中小、株高も好景気の実感乏しく
午前10時すぎ、東証のある東京・日本橋兜町かいわいは雨が降っていた。会社の研修で東証見学に参加した栃木県の銀行員の男性は「高値更新の瞬間のボードを見られた」と驚いた様子で話した。
国内で機械部品向けなどに鋼材を供給するある専門商社の幹部は「株高と言ってもバブル期のような高揚感はない」と厳しい表情で話す。1980年代から90年代初頭は株高が消費を喚起し、家電やオフィス機器メーカーからの注文も増え続けていた。
現在の取引量は当時よりも3割ほど減少。「株高を支えているのは海外の資本で、国内の資産効果は薄い。市場縮小で先行きは不透明感しかない」。
非鉄スクラップ問屋、五井金属(東京・墨田)の五井恭治郎代表は「日経平均が高値を更新したからといって景況感が変わる感じではない。大手とは違って、中小零細はそれほど賃上げもできない」とした。
アルミスクラップを扱う、東京アルミセンター(東京・江戸川)の江川壮一社長は「前回の最高値の時はゴルフ会員権や不動産も上がってかなり経済が盛り上がっていたが、今はバブルの頃と比較すると重い感じがある。
工業関係の生産状況もあまり活発ではなく、利益が右肩上がりだった前回とは違い今は利益を出しにくい」とした。
一方、樹脂サッシメーカーのエクセルシャノン(東京・中央)の奈良憲道顧問は「今までと違って、日本企業にも明るいイメージが出てくると思う」として、投資対象として日本企業が注目されることへの期待感を示した。
正午ごろ、東京・神田周辺でランチを食べていた40代男性会社員は「新NISAを機に株式投資を始めた。一本調子で上がっていくので楽しい」とほくほく顔で話した。
「バブルのときは小さかったので覚えていないが、今回の史上最高値は単純に驚きの気持ち」と話した。
神田のある居酒屋店主は「株高でも目立って客足が増えているという感じはしない」と指摘。新型コロナウイルス禍が明けてもなお2次会の開催は少ないと感じるが、「今後、株高の恩恵で、ちょっと飲みに出ようと考える人が増えることに期待はしたい」と話した。
(小河愛実、浜美佐、四方雅之、和田大蔵、日高大、森川美咲、桝田大暉、荒川信一、犬嶋瑛、越智小夏、佐藤日菜子、吉井花依、真田湧生)
日経記事 2024.02.22より引用