トランプ前大統領は10日、南部サウスカロライナ州で演説した=ロイター
【ワシントン=坂口幸裕】
トランプ前米大統領は10日、11月の大統領選で再選した場合、北大西洋条約機構(NATO)加盟国への防衛義務を順守しない可能性に言及した。
自国の国防費を国内総生産(GDP)比2%以上にする目標が未達の加盟国を念頭に「ロシアが望むことを何でもするよう奨励する」と述べた。
南部サウスカロライナ州の集会で語った。NATOの根幹は集団安全保障を定める北大西洋条約第5条の存在だ。
1つの加盟国への攻撃をNATO全体への攻撃とみなし、加盟国は攻撃された国の防衛義務を負う。主眼は地域の最大の脅威であるロシアによる侵攻の抑止にある。
前大統領の発言は欧州各国に国防費の増額を迫る狙いがあるとみられるものの、ロシアによるNATO加盟国への侵攻を容認すると受け止められるおそれがある。
前大統領は現職当時からNATOに加盟する欧州各国の国防費負担が少ないと問題視してきた。目標をGDP比で4%に引き上げるよう求めたことがある。NATOの推計によると、2023年に2%以上を支出する目標を達成するのは加盟31カ国のうち半数以下にとどまる見通しだ。
前大統領は10日の集会で、大統領在任中にNATO加盟国の首脳から「(国防費を)支払わずにロシアから攻撃されたら我々を守ってくれるのか」と問われ、滞っていれば「守らない」と伝えたとも明かした。
ロシアによる侵攻が続くウクライナへの軍事支援を巡っても前大統領は米国による支援継続に慎重な立場をとる。「欧州は努力せず、米国に頼っている。不公平だ」などとかねて不満を漏らしてきた。
ホワイトハウスの報道担当者は10日の前大統領の発言後に声明を出した。「(ロシアという)残忍な政権による最も緊密な同盟国への侵攻を奨励するのは恐ろしく、異常なことだ」と非難。「米国の安全保障や世界の安定、米国経済を危険にさらす」と訴えた。
バイデン大統領は21年1月に就任後、同盟・有志国との関係修復を重視してきた。声明で「バイデン氏は戦争を呼びかけたり混乱を助長したりせず、米国の指導力を強化し、国家安全保障上の利益のために立ち上がり続ける」と記した。
バイデン氏は11月の大統領選を戦う民主党の候補者指名を受けるのが確実な情勢だ。共和党の候補者指名争いは前大統領が最有力で、20年に続く再戦が現実味を帯びる。選挙戦ではウクライナや中東などを巡る外交政策も主要な論点に浮上する可能性がある。
欧州からも反発の声があがった。欧州連合(EU)のミシェル大統領は11日、X(旧ツイッター)で「NATOの安全保障と第5条に関する無謀な発言は、プーチンの利益にしかならない」と批判した。
一方で前大統領再選に備え、EUの枠組みでも防衛分野への投資を増やす必要性も強調した。