ドイツのショルツ首相はタウルスの供与に慎重姿勢を貫く=ロイター
【ベルリン=南毅郎】
ドイツ連邦議会(下院)は22日、ウクライナへの武器支援の強化を求める与党の動議を賛成多数で採択した。「長距離兵器システム」の供与をドイツ政府側に求める内容だ。
ただウクライナが要請する巡航ミサイル「タウルス」とは明記しておらず、ショルツ首相の判断が焦点になっている。
今回の動議はショルツ氏が率いるドイツ社会民主党(SPD)のほか、連立を組む環境政党の「緑の党」と自由民主党(FDP)が提案したものだ。
具体的には、ウクライナへの武器支援で「必要な長距離兵器システムと弾薬の追加供給」を盛り込んだ。国際法の順守を前提に、反転攻勢を後押しする狙いだ。
ドイツ国内で紛糾しているのが、長距離の巡航ミサイル「タウルス」を巡る判断だ。
戦闘機に搭載して発射するミサイルで、航続距離が最大500キロメートルと長いため敵の空域に入らずに攻撃できる。類似のミサイルは英国が「ストームシャドー」を提供してきた。
国政最大野党のキリスト教民主同盟(CDU)は22日の連邦議会で、SPDなどの動議に先立って「タウルス」の即時供与を求めた。だが反対多数で採択に至らず、与党側は曖昧な態度を続けている。
長距離射程の兵器は反転攻勢が停滞するウクライナにとって死活問題だ。ゼレンスキー大統領は17日、ミュンヘン安全保障会議の演説で「人為的な武器不足はプーチン(ロシア大統領)を戦争の激化に適応させる」と欧米諸国に支援を求めた。
長距離射程の兵器や砲弾の不足で戦闘が一段と不利になれば、ロシアに攻撃を許すことになる。
ウクライナ軍は激戦が続いた東部ドネツク州の要衝アブデーフカから撤退を決めたばかりだ。米議会ではウクライナ向けの追加予算案の承認が滞り、ゼレンスキー氏は危機感を強めている。
今後の焦点はショルツ氏の判断に移る。タウルスの供与を求めるウクライナに対し、ショルツ氏は否定的な姿勢を貫いてきた。
連邦議会の動議を踏まえ、態度を軟化させるかは不透明だ。実際の供与には国家安全保障を話し合う連邦政府の会議で承認が必要になる。
ドイツ政府はかねて、ウクライナとロシアの戦闘が他の欧州各国に飛び火する事態を警戒してきた。
米国と緊密に連携しながら、ドイツを含む北大西洋条約機構(NATO)加盟国が戦争の当事国にならないよう慎重に検討すべきだとの判断だ。
第2次世界大戦でナチスの台頭を招いたドイツは、過去の教訓から紛争地への武器輸出を自粛してきた歴史がある。
特にショルツ氏は独断専行を明確に避ける傾向が強く、優柔不断との批判を度々浴びてきた。
欧米諸国を巻き込んで議論を呼んだ主力戦車「レオパルト2」の供与を巡る判断でも、隣国ポーランドなど国内外の批判による「外圧」で歴史的な決断を迫られた経緯がある。
今回のタウルス供与の是非でも慎重姿勢を崩していないものの、連邦議会の動議がショルツ氏の背中を押すことになる。
日経記事 2024.02.23より引用