取材に応じる松田邦紀・駐ウクライナ大使(22日、都内)
日本とウクライナ両政府は19日、都内で経済復興推進会議を開いた。ロシアによる侵攻を受けるウクライナの復旧・復興に今後、日本企業が関わっていく大きな道筋ができた。企業にとってどのような機会があるのか、関係者はどのような点に注意するべきかを松田邦紀・駐ウクライナ大使に聞いた。
デジタル分野に高度人材
19日、都内で開かれた日ウクライナ経済復興推進会議=代表撮影
――経済復興推進会議では民間活力の重要性が強調されました。なぜ企業の力が必要なのでしょうか。また企業にはどのような成長機会があるのでしょうか。
「世界銀行などの見込みによると2024年以降の10年間で復興に必要な支援額は約4860億ドル(約73兆円)と莫大だ。各国の公共部門だけで支援するのには限界がある。
また、ロシアとの戦争がどうなろうとロシアは隣にあり続ける。ウクライナが自律的で持続的な発展に進むことを求めており、各国の企業が持つ資金や技術が不可欠だ」
「戦争のなかウクライナではデジタル技術の活用が進み、それに伴って関連人材の高度化が進んだ。外国企業は人材を活用することができる。
また外交や海外から送られた資機材の利用といった必要に迫られ、英語力の水準も急速に上昇している。外資企業にとってのビジネス環境がある」
インフラや農機に開拓余地
――ウクライナの経済復興に日本は出遅れていませんか。日系企業はどのような領域で存在感を示せるでしょうか。
「ウクライナにおける民間活力の取り込みで合意形成があったのは23年6月にロンドンで開かれた復興会議の場だ。日本はそこからいち早く企業が関与する枠組みを作り上げた。
また復旧・復興のニーズは非常に大きく、1カ国で満たせるものではない。多くの国の企業が組むことで新しいシナジー(相乗効果)も生まれるはずだ」
「例えば、地雷やがれき処理に必要な機材はこれまで各国から送っていた。日本企業が現地企業と組んでこれを生産するといった新たなビジネスが考えられる。
電力や鉄道、港湾といったインフラも旧ソ連式のものが多く残っており、近代化が課題となっている。技術や資金を持つ日本企業が関与する余地が大きい」
「小規模農家の多いウクライナでは、日本メーカーが得意な小回りの利く農機の需要が大きい。また農産品の輸出では欧州との摩擦を避ける上で、日本の商社と新たな輸出先を開拓するといったビジネス創出も期待される」
汚職対策、G7大使がサポート
ーウクライナでは公共部門の汚職が深刻とされています。巻き込まれないための自衛手段はありますか。日本の外務省が関係者の渡航を認める首都キーウ(キエフ)は安全なのでしょうか。
「15年に立ち上げたG7大使ウクライナ・サポート・グループでは、ウクライナの司法改革などへの知的支援を続けてきた。ウクライナに必要な法規を作ってもらい、ルールの内容や運用の改善を提案するサイクルができている」
「仮に外国企業が現地の企業や組織からハラスメントを受けるなどすれば、この枠組みを利用してウクライナ側と交渉できる。汚職に巻き込まれそうになった場合、一企業で抱えずに日本の関連省庁に相談してほしい」
「私自身が現地に住むなか、キーウの防空体制は強化が進んだと感じている。またレストランやショッピングセンターの品ぞろえは確実に増えており、経済活動の正常化と安定を実感する。市民をみていると、戦争による疲れがないとは言わないが、自信と余裕をみてとれる」
(聞き手は比奈田悠佑)
松田 邦紀(まつだ・くにのり)氏 1982年に外務省入省、米国やロシア、イスラエルに駐在した。駐香港総領事、駐パキスタン大使を経て2021年10月から駐ウクライナ大使。
日経記事 2024.02.22より引用