上川外相は「中南米外交イニシアチブ」を表明する
上川陽子外相は25日までの日程で訪れている中南米で海洋や防災の分野を軸に協力を広げる外交方針を表明する。
中南米は鉱物や食料の世界的な産出地で、日本の経済安全保障を確保するうえで重要性が増している。日系企業の進出を後押しし、サプライチェーン(供給網)を強くする。
上川氏は21〜22日に2024年の20カ国・地域(G20)の議長国を務めるブラジルがリオデジャネイロで開くG20外相会合に出席する。
会議の機会を利用し、その後に訪れるパナマと合わせ、中南米の外相らとの個別の会談を調整している。
今回の出張時に新外交方針として「中南米外交イニシアチブ」を表明する。
日本と中南米が強みと弱みを補完し合い関係を強める。中国が経済力の差を背景に中南米への影響力を強めるのに対し「ウィンウィン」をめざす立場を明確にする。
中南米は再生可能エネルギーの関連技術に重要な銅やリチウムなどの鉱物を豊富に抱えるほか、大豆やとうもろこしといった食料の一大産地でもある。関係を強めて、ビジネス環境を整備し、日本企業の現地進出を支援したい狙いがある。
新方針は海洋や防災の分野を柱に据える。中南米は太平洋と大西洋に挟まれている。日本と同様、安全保障や経済成長を確保するため、海での法の支配や航行の自由を重視する。海洋にかかわる技術や人材の支援を通じ、協力の幅を広げる。
パナマは運河をいかし水素など再生可能エネルギーの物流ハブになる戦略を描く。日本は運河の第3位の利用国で企業の関心も高い。商社関係者は「メキシコ湾岸で製造したアンモニアを運ぶ拠点になり得るが、運河の水不足が課題だ」と語る。
中南米は地震やハリケーンといった自然災害が多く、日本の防災の知見がいかせるとみる。ジャマイカのジョンソンスミス外相も日本経済新聞のインタビューで「地域との協力で最も重要な分野の一つは災害への備えと対応だ」と強調した。
経済界からも中南米との協力強化を望む声がある。
経団連の安永竜夫副会長(三井物産会長)は1月に岸田文雄首相と面会し、ブラジルやアルゼンチンなどが加盟するメルコスル(南米南部共同市場)との経済連携協定(EPA)の締結を求めた。
メルコスルは人口3億人を抱え、日本にとって自動車や電気製品の輸出先だ。欧州連合(EU)や韓国が自由貿易協定(FTA)交渉で先行する。
牛肉など日本国内の産業に打撃となる可能性があるため農林水産省など政府内に慎重論がある。外務省幹部は「動かすなら首相訪問のときになる」と語り、交渉の前段階の共同研究に期待を寄せる。
女性の社会進出の拡大も中南米との共通項に打ち出す。上川氏は日本政府内で政策立案に「女性・平和・安全保障」(WPS)の視点を取り入れる先頭に立っている。女性の登用で先行する中南米の取り組みを参考にしたい考えだ。
中南米ではブラジルやアルゼンチン、メキシコなどの地域大国が台頭する。日本が関与を強めたいグローバルサウスと呼ばれる新興・途上国の主要な一角を占める。
中国がすでに重要鉱物や食料の主要な供給先になっている。広域経済圏構想「一帯一路」の一環と位置づけたインフラの支援を通じて影響力を伸ばした。地域との貿易額は21年に4455億ドル(約67兆円)と日本の7倍を超え、米国を追う。
24年はブラジルがG20、ペルーがアジア太平洋経済協力会議(APEC)の議長国を務め、首脳を含む要人の往来が活発になる。日本は「中南米イヤー」と位置づけ、首相が1月にブラジルやチリなど3カ国を訪れる計画を練った。
首相の24年はじめの中南米訪問は自民党の政治資金問題のあおりで頓挫した。中国の王毅(ワン・イー)共産党政治局員兼外相が1月にブラジルとジャマイカを訪れただけに失点となった。中国も24年はブラジルとの国交樹立50年などの節目で地域への外交攻勢に出るとみられる。
日経記事 2024.02.22より引用