米司法省が反トラスト法(独占禁止法)違反で米アップルを訴えた。グーグル、メタ(旧フェイスブック)、アマゾン・ドット・コムを含む米テック大手4社がコア事業で当局に提訴される事態だ。
歴史に倣えば、GAFA時代は終わりに向かう可能性が高い。
だが裁判によって自動的に革新への競争が進むわけではない。技術や事業モデルを世に問う起業家精神があってこそ、だ。
訴訟が消した闘争心
IT産業史を振り返れば、節目の裁判は2度あった。
まず1969年、メインフレーム(大型機)の巨人、米IBMが新規参入を阻んでいると司法省に訴えられた。企業分割を迫る裁判は13年後に取り下げられたが、IBMが負った傷は深い。
「分割命令の亡霊に悩まされた」。最高経営責任者(CEO)をつとめたルイス・ガースナー氏が著書に記している。「競争」や「勝つ」が禁句となり、社内から闘争心が消えた。
米司法省が反トラスト法(独占禁止法)違反で米アップルを訴えた。グーグル、メタ(旧フェイスブック)、アマゾン・ドット・コムを含む米テック大手4社がコア事業で当局に提訴される事態だ。歴史に倣えば、GAFA時代は終わりに向かう可能性が高い。
だが裁判によって自動的に革新への競争が進むわけではない。技術や事業モデルを世に問う起業家精神があってこそ、だ。
訴訟が消した闘争心
IT産業史を振り返れば、節目の裁判は2度あった。
まず1969年、メインフレーム(大型機)の巨人、米IBMが新規参入を阻んでいると司法省に訴えられた。企業分割を迫る裁判は13年後に取り下げられたが、IBMが負った傷は深い。
「分割命令の亡霊に悩まされた」。最高経営責任者(CEO)をつとめたルイス・ガースナー氏が著書に記している。「競争」や「勝つ」が禁句となり、社内から闘争心が消えた。
画期的な製品だった大型コンピューター「システム360」(IBM提供)
代わって、パソコン用基本ソフト(OS)をIBMに供給する米マイクロソフトが勢いづく。確かに巨人は訴訟でふらついていたが、それだけで歴史は動かない。
ハードの付属物だったソフトに価値を見いだし、業界標準をとりにいった創業者ビル・ゲイツ氏の商才と血気が原動力だった。
「ある時期の業界リーダーは次の時期のリーダーにはなれないというジンクスに挑みたい」。同氏はパソコンに続くネットの時代も業界を牛耳ろうとした。
盟主をねらえる米新興2社
そして98年、第2の大型裁判が始まる。OSにブラウザー(ネット閲覧ソフト)を組み込むのはライバル封じだと司法省がマイクロソフトを訴えた。3年後に
和解で合意するが、やはり同社も経営の切れが鈍っていく。
この好機を検索の新星グーグルは逃さなかった。ネット広告を原資にした無料のネットサービスでマイクロソフトを追いつめる。
機器の主役もスマートフォンに変わった。GAFA時代の到来だ。
4社は人々の心をつかむが、巨大化した企業の宿命か。やがて経営手法が非競争的だと批判を浴びる。2020〜24年に司法省、米連邦取引委員会(FTC)から次々と提訴された。
図の通り、69年と98年の提訴を経て業界の①主戦場と②盟主は変化した。この法則に従えば今後、同様の入れ替わりが起きる。
①は答えやすい。人工知能(AI)とくに生成AIが次の焦点との認識は一般化している。
②はどうか。株価が急上昇し、生成AI企業に投資する米半導体大手エヌビディアも面白いが、盟主の座をねらえるのは根幹技術を握る新興の生成AI企業だろう。
なかでも未上場企業の価値ランキング上位のオープンAIとアンソロピックの米2社は目を引く。前者は動画や人の声の生成で話題をさらい、後者も文字や画像、プログラムを操る技術で対抗する。
歴史が示す新陳代謝
しかし、構図は込み入る。オープンAIにはマイクロソフト、アンソロピックにはアマゾンとグーグルが出資し協業する。AIの2社とも研究開発や市場投入でテック大手の力に頼る。
結局、大手4社にマイクロソフトを加えたGAFAMが生成AIを自社の製品やサービスにとりこんで覇権を保つのではないか。双方の接近が公正な競争を妨げるリスクについては、FTCが調査に乗り出している。
時価総額が膨らんだテック大手も必死だ。株主を失望させないためAIで後れをとれない。マイクロソフトの場合、フランスの生成AI企業とも組み、米社からは創業者を引き抜いた。
テック大手の資本や技術の厚みは革新の苗床として侮れない。それでも、おりのようにたまった業界のひずみや慣習の矛盾を正すのに新陳代謝は欠かせない。
そもそも生成AIの潮流を生んだのはChatGPTのオープンAIだ。長年AIを手がけてきたテック大手ではない。新たなプレーヤーの新たなアイデアが多くの人の目に触れる社会的メカニズムが大事といえる。
オープンAIの開発者会議でサム・アルトマン最高経営責任者(CEO)㊧と握手するマイクロソフトのサティア・ナデラCEO
生成AI企業は主導権をとれるのか。再び歴史にヒントを探れば、答えはイエスとなる。
例えばグーグルだ。有力ネット企業の米ヤフーに検索エンジンを提供する下請け的な立場だったが、広告を絡めた事業モデルで大化けした。似た飛躍が生成AI企業にできない理由はない。シリコンバレーが本拠地のベンチャーキャピタル、WiLの松本真尚ジェネラルパートナーはそうみる。
いま生成AI企業は、テック大手に対するAI機能の提供者の印象が濃いが、他社を買収するなどして強いサービスをつくれれば、「大手の呪縛を離れて次のプラットフォームになるという展開は十分にあり得る」。
パワーバランスの行方は
オープンAIでは非営利組織が、アンソロピックでは公共政策や安全保障などに詳しい外部の専門家が経営を監督する。単純な資本の論理とは一線を画す統治をとり、高度なAIで人類に恩恵をもたらすのが使命とうたう。
その真価、覚悟が問われる局面だろう。大手にのまれるのではなく、逆にのむくらいのしたたかさがみたい。業界に新鮮な空気を送り込むのが盟主の役割だ。
大手4社の提訴は引き金にすぎない。革新は裁判所では起きないと叫ぶ起業家を時代は求めている。テック大手と生成AI企業の蜜月、パワーバランスの行方が当面の注視ポイントとなる。
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日系企業2024.04.10より引用
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なかなか秀逸な記事でした。