ユニチカ大阪本社が入るビル(大阪市中央区)
ユニチカは28日、不振の繊維事業から撤退すると発表した。2025年8月までに事業譲渡などで合意をめざす。再建に向け官民ファンドや取引銀行に債権放棄を含め870億円の金融支援を求めた。
資金は撤退に伴う費用や力を入れるフィルムの販売拡大に充てる。業績悪化を受け、上埜修司社長ら経営陣は同年4月下旬をめどに辞任する。
撤退を決めたのは、衣料用の繊維事業、不織布、産業繊維の一部で、売上高の4割にあたる。機能資材事業のガラス繊維や活性炭繊維は続ける。
金融支援の枠組みは、官民ファンドの地域経済活性化支援機構(REVIC)から第三者割当増資と融資枠の設定で約350億円を確保する。
取引行には約430億円の債権放棄を要請し、メインバンクの三菱UFJ銀行からは90億円の融資枠の設定を受ける方向だ。また、資本金を1億円に減資し、税負担の軽減などにつなげる。
記者会見するユニチカの上埜修司社長(左から2人目)。
左は地域経済活性化支援機構の渡辺准社長(28日、大阪市中央区)
「これまでも幾度に渡る構造改革を行ったが完遂に至らず、継続的な赤字事業が残った」。同日夕、大阪市内で開いた記者会見で上埜社長は反省の弁を述べた。
そのうえで「金融機関との交渉が成立し、REVICからの出資などが整ったら、社内取締役は全員退陣する。見込みとしては25年4月下旬ごろになる」と表明した。
事業の撤退に関して上埜社長は「従業員の雇用は最大限に配慮し、グループ内の再配置や出向も考えて構造改革を進めていきたい」と説明した。
譲渡先の選定については「従業員の雇用を承継してもらえるかも重要なポイントになる」と強調した。
ユニチカの25年3月期の連結最終損益は103億円の赤字(前期は54億円の赤字)を見込む。今後は食品包装用などのフィルム事業を収益の柱に育てる。
足元では東南アジアで市況が悪化しており、インドネシアの生産設備の廃止などを進め採算を改善させる。30年3月期までに売上高700億円、営業利益65億円をめざす。
14年に続き金融支援を迫られた取引銀行からは「前回、祖業から撤退するくらいの抜本的な構造改革を迫れていれば」との声も聞かれる。
金融支援後、ユニチカの業績は順調に回復したこともあって関係者は「当時は『祖業にまでは踏み込まなくて大丈夫』という考えがあったかもしれない」と吐露する。
ユニチカは1889年に尼崎紡績として創業し、他社に先駆け高級糸である中糸の生産を始めた。
1918年以降は大日本紡績として鐘淵紡績(後のカネボウ、現クラシエ)、東洋紡績(現東洋紡)と並ぶ三大紡績の一角を占めた名門企業だ。繊維産業は明治期から戦後の復興期、高度成長期に至るまで基幹産業の地位を占め、日本経済を支えた。
その一翼を担ったユニチカの足元の業績をみると、2024年3月期の連結売上高は1183億円で、内訳は衣料用の繊維事業が330億円、不織布などの機能資材事業が342億円、食品包装用フィルムなどの高分子事業が511億円だった。高分子は6億円の営業黒字だが、繊維と機能資材はそれぞれ5億円と24億円の営業赤字だ。
00年代ごろには中国などからの輸入品が増加した。後に国内の人口減少も重なって市場に吹く逆風は強まった。
ユニチカは09年に不採算だったナイロン長繊維から撤退した。
14年には三菱東京UFJ銀行(現三菱UFJ銀行)などから375億円の金融支援を受け、佐賀工場を閉鎖するなど構造改革を進め、事業を縮小しつつも衣料繊維は続けてきた。
結果として、繊維事業の慢性的な営業赤字を脱せなかった。
新型コロナウイルスのまん延に伴い、医療用ガウン向けなどの需要が生じ回復の兆しがみえたものの、赤字は続く。
生産拠点の海外移転でコスト削減を進めてきたが、足元の円安は原材料高などを招き、25年3月期も10億円の赤字を見込む。
繊維事業以外には事実上、食品包装用フィルムを中心とする高分子事業しかない。
撤退を含む抜本的な改革への費用捻出も難しかったことが撤退に踏み切れなかった理由に挙げられる。高分子事業も東南アジアの生産設備で106億円の減損損失を24年4〜9月期に計上した。
他の繊維大手は新たな収益事業を育て、多角化につなげている。
東洋紡は工業用などのフィルムや自動車用高機能樹脂などの環境・機能材が営業利益の大半を占める。旭化成は住宅やヘルスケア事業も収益を支える。東レは炭素繊維、帝人はアラミド繊維など、産業用途の付加価値が高い繊維で競争力を確保している。
28日の株式市場は不採算事業の撤退を好感し、ユニチカ株は一時前日比22円(9%)高の258円まで急伸した。
引けにかけては下げ圧力が強まり、終値は7円(3%)高の243円となった。内藤証券の田部井美彦投資調査部長は「最初は期待先行で買われたものの、どう収益を上げ、還元をするのか様子見の姿勢が広がった」と指摘する。
(中村信平、田村匠)
日経記事2024.11.28より引用