独シーメンス・エナジーが日本で発電用風車の羽根(ブレード)のリサイクル網を構築し、風車の「廃棄ゼロ」を目指す。
三菱ケミカルグループと連携し原料の炭素繊維を取り出す。風車部材の多くは活用可能だが、ブレードはほぼ埋め立てて処理している。風力発電国内首位のユーラスエナジーホールディングス(東京・港)などもブレードの活用に動いている。
子会社のシーメンスガメサ・リニューアブル・エナジーが21年に開発した特殊な液体で樹脂を溶かすブレードを使用する。既存品よりコスト高だが、廃棄時に素材別に分離回収できる。
北九州市で実験
主に大型風車のオプションとして日本の洋上風力発電関連の企業に提案を始めた。合わせて、三菱ケミカル系の新菱(北九州市)の工場でリサイクルの実証実験に取り組んでいる。
風車のブレード製造は海外が中心だ(シーメンス系の製造拠点)
シーメンスガメサは23年の風車設置数で世界6位だ。日本では経済産業省などが24日に公募結果を発表した青森県沖と山形県沖の洋上風力発電でも採用される予定だ。
ブレードはガラス繊維や炭素繊維、木材などを樹脂で固めてつくる。そこから比較的価値の高い炭素繊維を回収するため、ブレードを焼却炉に入れて600度で1時間蒸し焼きにし、樹脂を飛ばす。取り出した炭素繊維を新たに樹脂などと混ぜ合わせてペレットにし、電子部品の素材やICトレーに活用する。
樹脂を溶かす実験ではシーメンスが欧州などで用いている液体を使う手法ではなく、新菱のノウハウが豊富な熱処理で対応した。新菱は航空機の製造時に出る炭素繊維の端材のリサイクルを手掛けている。
実験で取り出した炭素繊維は原料時と比べてやや質が落ちたものの、「樹脂と混ぜて使うには十分な水準」(新菱の橋口正部門長)とみている。
新菱は新型ブレードを使用した風車が更新時期を迎える40〜50年ごろの処理対応を想定している。実証実験の結果を踏まえ、技術の確立やコスト引き下げを目指す。
ブレードは風車リサイクルの「最後の関門」とされる。風車は主に発電機のナセルと風車を支えるタワーや土台、風を受けるブレードなどで構成されている。ブレード以外はほぼ既存技術でリサイクルでき、既に流通網がある。
一方、廃棄ブレードの多くは埋め立て処分されている。シーメンスと新菱の手法が導入されれば、将来的に日本で風車の「廃棄ゼロ」が実現する可能性もある。
日本では陸上を中心に発電向けに風車の導入が進む。日本風力発電協会(JWPA)によると、23年末時点で約2600基。
一般的な風車の耐用年数は約20年とされ、本格的に導入され始めた2000年代初頭に稼働した風車が更新時期を迎えている。JWPAは今後、更新は年100〜200基規模になると試算する。
ただ、既存の風車の多くは小中規模でブレードに炭素繊維は入っておらず、新菱の手法ではリサイクルが難しい。既存の風車の処理は発電事業者が対応を探っている。
豊田通商子会社のユーラスエナジーホールディングスは、ブレードの一部を防草マットに活用する実験に取り組んでいる。
秋田県の風力発電所で出たブレードや電線の一部をリサイクル業者が買い取り、細かく砕いてマットの素材に混ぜて加工。ユーラスはリサイクル業者からマットを購入し、自社の太陽光発電所に導入した。
同社の試算では、今後多い年は50基以上の風車が廃棄対象になる可能性がある。ただ防草マットでは処理量に限りがあり、山野井毅洋上技術部長は「今後は焼却し熱エネルギーを回収するサーマルリサイクルの活用も視野に入れる」と話す。
国内風力3位のコスモエネルギーホールディングス子会社のコスモエコパワー(東京・品川)はブレードをセメントの材料として活用する。青森県の陸上風力の更新工事で出た廃棄ブレードを細かく砕き、再利用業者を通じてセメント会社に引き渡した。
ブレードのうち6割はセメント原料に混ぜ、残りは製造時の燃料として使った。大貫誠司技術部長は「埋め立てよりコストは圧倒的に高くなる。リサイクル事業者と連携してコストを下げ、今後の更新時にも活用したい」と話す。シーメンスなどのリサイクル可能なブレードの導入も検討していく。
洋上風力発電は欧米でインフレや金利上昇で事業費が膨らみ、計画の見直しなど逆風が吹いている。
ただ、日本で再生可能エネルギーを普及させるには、大型太陽光発電の適地が限られる。洋上風力は沖合にも設置できる「浮体式」の開発も進み、期待は大きい。政府は40年までに最大4500万キロワットの洋上風力の導入を目指している。
海外では規制も
一方、風車のリサイクルは一部にとどまる。日本では風車の廃棄の規制がほとんどなく、「コストを考えたら埋め立てが一番効率的な状況」(ユーラスの山野井部長)。
政府の大規模洋上風力の公募指針でも事業者に事業終了後の原状回復などは求めるものの、取り組みが評価点に直接反映されるわけではない。
建設コストが上昇する中、事業者にとってリサイクルに取り組むメリットは薄い。コスモエコパワーの大貫部長は「リサイクル可能な風車はコストが高くなる」と指摘する。
洋上風力で先行する欧州には廃棄の規制や再利用に取り組む事業者の優遇制度がある。ドイツなどは風車の埋め立て廃棄が原則禁止となった。オランダでは発電所の更新時のリサイクル方針を打ち出す事業者に公募の点数を加点している。
日本で風車のリサイクルが普及するには、技術的な課題の解消に加え、導入へのインセンティブを高める仕組み作りが欠かせない。
(鈴木大洋)
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