高騰していた食品でも特売セールが目立ってきた(ベルリン市内のスーパーマーケット)
【フランクフルト=南毅郎】
欧州委員会は15日公表した春の経済見通しで、ユーロ圏20カ国の2024年の実質成長率を0.8%と前回2月と同じ水準で据え置いた。インフレ鈍化で個人消費が緩やかに持ち直す想定だ。
ドイツは0.1%と低空飛行が長引き、景気回復の道のりは不安定なままだ。国別の成長率はドイツが0.1%、フランスが0.7%でそれぞれ0.2ポイント下方修正した。
イタリアは0.9%で0.2ポイント引き上げた。欧州中央銀行(ECB)の利上げやウクライナ危機に伴う資源高の影響が長引き、製造業が屋台骨のドイツでは鉱工業生産の落ち込みが続いている。
欧州経済の回復を支えるのは個人消費の持ち直しだ。欧州委は「賃金と雇用の持ち直しが続くことで24年は可処分所得の改善を保つ」と指摘した。インフレが落ち着くにつれて家計の実質所得が改善し、ゆっくりと消費にお金が回るシナリオを描く。
24年の物価上昇率はユーロ圏で2.5%と0.2ポイント引き下げた。
国別ではドイツが2.4%で、フランスが2.5%。ユーロ圏で最も高いのはベルギーで4.0%の想定だ。ドイツではインフレの主因だった食品価格の高騰が止まり、スーパーなどで特売セールも目立ってきている。
先行きも景気回復は緩やかに続く公算が大きい。25年のユーロ圏の実質成長率は1.4%に加速し、ドイツも1.0%まで持ち直す想定を置いた。フランスは1.3%、イタリアは1.1%でユーロ圏の全20カ国がプラス成長となる。
今回の欧州委の見通しはECBの利下げ転換を後押しする内容だ。25年の物価上昇率はユーロ圏で2.1%とインフレ鈍化が引き続き進む。ECBが物価目標として掲げる2%は25年7〜9月期にも到達する想定で、中東情勢の緊迫を経てもECBの見通しにほぼ沿っている。
ECBは次回6月会合で利下げ開始を決める可能性が高い。
急激な金利上昇で住宅市況は冷え込んできたものの、金融引き締めが緩むことで景気への逆風は少しずつ弱まっていく。ドイツでは住宅購入の資金需要も持ち直しつつある。
もっとも、景気回復シナリオは不安定なままだ。
インフレ鈍化で実質所得が改善しても、実際に消費者がお金を使うとは限らないためだ。ドイツでは今夏のレジャー需要の持ち直しに期待が高まるものの、恩恵を受けるのは旅行先として人気が高い南欧などに偏る可能性がある。
サービス業を中心に景気が持ち直しても、ドイツでは製造業の景況感は落ち込んだままで業種ごとの明暗も分かれている。
ドイツ銀行のチーフ・エコノミスト、ロビン・ウィンクラー氏は「製造業とサービス業で乖離(かいり)が続き、不均衡な景気回復になる」と指摘する。
欧州連合(EU)の執行機関である欧州委は、季節ごとに景気・物価見通しを公表する。