観光客でにぎわう浅草の雷門前
全国の観光地で宿泊・飲食関連の時給が上昇している。北海道ニセコや神奈川県箱根地域は東京都千代田区を上回るようになった。
宿泊・飲食サービス業では人手が必要数に対し2割超不足しているとみられる。時給を増やしても確保は難しく、営業活動を制限する施設もある。観光立国に向け機会損失をどう減らすかが課題となる。
人材サービス大手のエン・ジャパンの求人サイト「エンゲージ」に掲載された24年12月の平均時給を市・郡別に調べた。「ホテル・旅行」「飲食」「清掃・警備」の3業種を対象とした。
観光客の増加でホテルや観光施設を中心に清掃業界も人手不足が深刻になっている。観光イベントでも警備員の不足が問題となっている。
ニセコ町を含む北海道虻田郡は23年12月から10%上昇し、1436.9円となった。箱根町を含む神奈川県足柄下郡は同8%上昇の1449.6円だった。
全国の市郡別で足柄下郡は11番目、虻田郡は13番目となる。この1年で東京都千代田区の時給(24年12月で1428.7円)を抜いた。
時給首位は東京・台東 上昇率1位は滋賀県草津市
全国で最も時給が高いのは、浅草を抱える東京都台東区で1514.5円。この1年で7%上昇し、東京都港区(1510.6円)を逆転した。
エン・ジャパンのアルバイト情報サイト「エンバイト」の営業マネージャー、宮城ともみ氏は「(上位の地域は)観光地やその近辺が多く、観光需要の増加により時給が上がっている」と話す。
上昇率が最も高かったのが滋賀県草津市で、14%上昇し1299.49円となった。同市にあるJR草津駅はJR京都駅まで鉄道で約20分。京都観光の際の宿泊地として市内ホテルの需要が伸びている。
市内にあるホテルボストンプラザ草津ではバイトの募集時給を24年10月から50円増の1020円に引き上げた。新卒正社員の初任給も24年4月に2万円引き上げた。倉橋広樹総支配人室長は「土日や年末年始が休めないサービス業は給料水準を高くしないと応募してもらえない」と話す。
宿泊・飲食、人手2割不足
時給は上昇しているものの、宿泊・飲食業界は慢性的な人手不足に直面している。
ニッセイ基礎研究所の斎藤太郎経済調査部長は宿泊・飲食サービス業の人手不足数は24年7〜9月で約120万人と試算する。23年同期より10万人多い。
宿泊・飲食サービス業の就業者数は約400万人で、2割超が不足している計算だ。鉄道やバスといった交通も加えると不足人数は155万人に及ぶ。
人手不足の影響は、営業の縮小という形で表れている。
京都市中心部にあるホテルオークラ京都は、ホテル内のフランス料理店を金土日のみの営業にとどめている。
担当者は「質を担保しながらまとまった人員を確保するのは難しい」と話す。ホテル全体の人員は新型コロナウイルス禍前に比べ約2割少ない。
リゾートホテルのフジプレミアムリゾート(山梨県富士河口湖町)は常時2〜3人の人手が足りていないという。
隙間時間に短時間働くスポットワーカーに清掃や洗い場の仕事に入ってもらい、しのいでいる。
担当者は「観光サービスは多くの人手が必要だが、(地方の)観光地は働き手となる人が少ない」と嘆く。
日本政府観光局(JNTO)によると、24年の訪日客数は1〜11月の累計で3337万9900人となり、すでに新型コロナ禍の前の19年通年(3188万人)を超えた。
観光立国をめざす政府は、訪日客数の目標を30年に6000万人としている。人手が足りず、宿泊施設が増えなければ目標達成はおぼつかない。
大手ホテルでは外国人従業員の大規模な採用や、専門人材を自前で育成する取り組みをはじめた。
西武・プリンスホテルズワールドワイドでは25年度以降、高卒採用者を自社で料理人として育成することを検討する。
ホテル椿山荘東京(東京・文京)やビジネスホテルの「ワシントンホテル」を運営する藤田観光は23年末に8.1%だった外国人従業員比率を28年をめどに10%まで増やす。
(北川舞、丸山景子)