イコンとは、キリスト教における神や聖人などの絵画や像を意味し、
「崇拝」「崇敬」の対象となるものを指します。
しかし、大昔のキリスト教(ユダヤ教も)は、現在のイスラムと同じ
く、形象化した偶像崇拝を禁止しており、その後の宗教会議にて、
「恋人を描いた絵は恋人そのものではなく、それを見て恋人を大
切に思うためのもの。よって神や聖人の形象はその存在を想い起
こすためにある」という、まあこじつけのような主張ですが、それが
ヨーロッパの美術発展に寄与したことを考えれば、こういった柔軟性
もまた尊いと思われます。
この小説での『イコン』とは、ソビエトの共産主義体制が崩壊し、民主
主義そして資本主義が流入してきたことで市民に自由がもたらされた
までは良かったものの、功罪として貧富の格差、超インフレに歯止めが
きかず、マフィアは暗躍、政治家は腐敗し、もう一度この国には、帝政
ロシア時代のツァー(君主権力・皇帝)、あるいはレーニンやスターリン
といった強力な指導者といった崇拝、崇敬の対象のこと。
ロシアでは社会主義連邦が無くなり、共和国が誕生。しだいに政治は
議会から大統領権限へと移り強化され、共産保守派クーデターを倒した
エリツィン時代にはより権力を持つことになります。しかし国民はイデオ
ロギーよりも、明日の平和や今日のパンを欲します。つまり治安や経済の
悪化で資本主義や民主主義に失望していたのです。
そこで台頭してきたのが、コマロフ率いる「愛国勢力同盟」。
美辞麗句を並べたて、母なるロシアの荒廃を嘆き、ふたたび世界に冠たる
国家を目指そうと、国民の支持を集めるようになります。
夏のある日、退役軍人の掃除夫が、愛国勢力同盟の本部の掃除をしてい
ると、コマロフの秘書の部屋の机の上に、黒い手帳が置いてあるのに気づ
きます。何気なくその手帳を見てみると、そこには信じられないような
悪魔の所業が書かれてあり、掃除夫は、その手帳を持ち出してしまいます。
掃除夫は、イギリス大使館の中から出てきた車のあとを追って、その車の
運転手に渡します。
この手帳には、もし愛国勢力同盟がロシアの政治権力を握ることになれば、
ユダヤ人やグルジア人、チェチェン人を殲滅させ、軍のさならる強化、そして
現在ロシアに暗躍するマフィアで、愛国勢力同盟の資金源となっている団体
のみを残し、残る団体を壊滅させる、といった、ナチス顔負けの計画が書か
れていたのです。
手帳を無くした秘書はコマロフの怒りを買い、そして盗んだ掃除夫ともども
死体となって発見されます。
手帳はイギリス大使館からイギリス本国へと運ばれ、諜報部門に渡ります。
その情報はアメリカCIAにも伝わりますが、この狂った計画を政府は止め
ようとしません。そして、この話は元イギリスSIS(情報局秘密情報部)
長官のアーヴィン卿の耳に入り、なんとかして愛国勢力同盟を次の選挙で
負けさせようと画策します。
そこで、白羽の矢が立ったのが、かつてCIAの腕利きスパイで、上司の
裏切り工作によって退職し、現在はカリブ海でクルージングのガイドを
やっている、ジェイスン・モンクであった・・・
物語は、きたる2000年のロシア大統領選挙の半年前、黒い手帳が
盗まれるところからはじまり、そして交差するように、1980年代の
冷戦下、アメリカCIA対ソビエトKGBの諜報合戦でのモンクの活躍、
どのようにして彼がCIAを去らねばならなかったのかが描かれ、そして
モンクはアーヴィン卿に頼まれてふたたびロシアの地を踏むのです。
ジェイスン・モンクというスパイ時代の活躍を描く小説と、ロシアでの
彼のコマロフ失脚工作と、まるで2作の作品を読んだよう。
この作品を最後に、フレデリック・フォーサイスは断筆宣言をしました。
21世紀に入り、自由主義陣営の脅威は、共産主義からテロへと移り、
9月11日の悲劇そしてアフガン、イラクの泥沼戦争となります。
ふたたびフォーサイスは筆を取ることになります。黙って現況を看過でき
なかったのでしょう。
「崇拝」「崇敬」の対象となるものを指します。
しかし、大昔のキリスト教(ユダヤ教も)は、現在のイスラムと同じ
く、形象化した偶像崇拝を禁止しており、その後の宗教会議にて、
「恋人を描いた絵は恋人そのものではなく、それを見て恋人を大
切に思うためのもの。よって神や聖人の形象はその存在を想い起
こすためにある」という、まあこじつけのような主張ですが、それが
ヨーロッパの美術発展に寄与したことを考えれば、こういった柔軟性
もまた尊いと思われます。
この小説での『イコン』とは、ソビエトの共産主義体制が崩壊し、民主
主義そして資本主義が流入してきたことで市民に自由がもたらされた
までは良かったものの、功罪として貧富の格差、超インフレに歯止めが
きかず、マフィアは暗躍、政治家は腐敗し、もう一度この国には、帝政
ロシア時代のツァー(君主権力・皇帝)、あるいはレーニンやスターリン
といった強力な指導者といった崇拝、崇敬の対象のこと。
ロシアでは社会主義連邦が無くなり、共和国が誕生。しだいに政治は
議会から大統領権限へと移り強化され、共産保守派クーデターを倒した
エリツィン時代にはより権力を持つことになります。しかし国民はイデオ
ロギーよりも、明日の平和や今日のパンを欲します。つまり治安や経済の
悪化で資本主義や民主主義に失望していたのです。
そこで台頭してきたのが、コマロフ率いる「愛国勢力同盟」。
美辞麗句を並べたて、母なるロシアの荒廃を嘆き、ふたたび世界に冠たる
国家を目指そうと、国民の支持を集めるようになります。
夏のある日、退役軍人の掃除夫が、愛国勢力同盟の本部の掃除をしてい
ると、コマロフの秘書の部屋の机の上に、黒い手帳が置いてあるのに気づ
きます。何気なくその手帳を見てみると、そこには信じられないような
悪魔の所業が書かれてあり、掃除夫は、その手帳を持ち出してしまいます。
掃除夫は、イギリス大使館の中から出てきた車のあとを追って、その車の
運転手に渡します。
この手帳には、もし愛国勢力同盟がロシアの政治権力を握ることになれば、
ユダヤ人やグルジア人、チェチェン人を殲滅させ、軍のさならる強化、そして
現在ロシアに暗躍するマフィアで、愛国勢力同盟の資金源となっている団体
のみを残し、残る団体を壊滅させる、といった、ナチス顔負けの計画が書か
れていたのです。
手帳を無くした秘書はコマロフの怒りを買い、そして盗んだ掃除夫ともども
死体となって発見されます。
手帳はイギリス大使館からイギリス本国へと運ばれ、諜報部門に渡ります。
その情報はアメリカCIAにも伝わりますが、この狂った計画を政府は止め
ようとしません。そして、この話は元イギリスSIS(情報局秘密情報部)
長官のアーヴィン卿の耳に入り、なんとかして愛国勢力同盟を次の選挙で
負けさせようと画策します。
そこで、白羽の矢が立ったのが、かつてCIAの腕利きスパイで、上司の
裏切り工作によって退職し、現在はカリブ海でクルージングのガイドを
やっている、ジェイスン・モンクであった・・・
物語は、きたる2000年のロシア大統領選挙の半年前、黒い手帳が
盗まれるところからはじまり、そして交差するように、1980年代の
冷戦下、アメリカCIA対ソビエトKGBの諜報合戦でのモンクの活躍、
どのようにして彼がCIAを去らねばならなかったのかが描かれ、そして
モンクはアーヴィン卿に頼まれてふたたびロシアの地を踏むのです。
ジェイスン・モンクというスパイ時代の活躍を描く小説と、ロシアでの
彼のコマロフ失脚工作と、まるで2作の作品を読んだよう。
この作品を最後に、フレデリック・フォーサイスは断筆宣言をしました。
21世紀に入り、自由主義陣営の脅威は、共産主義からテロへと移り、
9月11日の悲劇そしてアフガン、イラクの泥沼戦争となります。
ふたたびフォーサイスは筆を取ることになります。黙って現況を看過でき
なかったのでしょう。
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