晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

野沢尚 『深紅』

2011-12-09 | 日本人作家 な
野沢尚の作品は、出版された順こそバラバラですが、けっこう
読んでます。ちなみに初期の「恋愛時代」は、今までに読んだ
恋愛小説の中でナンバーワン。

それはそうと、この『深紅』は、吉川英治文学新人賞を受賞した
のですが、選考では、前半の盛り上がりに比べて後半のが弱い、
という指摘があったそうですが、なるほど読んでみると、その感
は否めないんですけど、読み終わってみると、これはこれで絶妙
なバランスで構成されているなあ、と。

まず、第一章で、修学旅行中の小学生、奏子が旅館で眠っている
と、先生が部屋に来て、家族が事故にあったので東京に帰る、と
告げられます。
長野から、先生と奏子はタクシーに乗って東京へ。車中、先生との
会話の中で、これは「ただの事故」ではないと奏子は悟ります。
この道中、高速のパーキングでトイレに入ったときに見かけた、酔
っ払いの女性、東京に入って道に迷っった長野の運転手にキレる
先生など、こういったひとつひとつの細かい描写が、あとで何かに
絡んでくる布石か?と感じさせる(実際は特に絡んできませんが)
くらい、ドキュメンタリー的にゾクゾクしてきます。
(監察医務院)に向かってると知り、病院ではない名前のところに
家族がいると思うと、奏子の心の中にあった(もう家族は全員死ん
でるんだ)という予感はいよいよ確信に。
そこで叔母さんと会い、小学生には聞かせられないようなショック
な出来事は伏せられて、ただ死んだ事実だけ聞かされるのです。
それから年月は過ぎて、叔母の家で暮らすようになり、奏子は大学
生に。

そして第二章。秋葉家に浸入して、夫婦と幼い男の子ふたりを殺し、
顔をハンマーで潰したという事件の犯人、都築の上申書が書かれて
います。それによると都築と秋葉由紀彦(奏子の父)は仕事上の
付き合いがあり、契約のトラブルで秋葉に騙されて大金を失い、さら
に妻も病死し、都築は一家を皆殺し・・・
これがマスコミで発表されるや、すでに死刑判決が出ている都築の
言い訳だなんだとバッシング。
この日に修学旅行で家にはいなかった“おかげ”で生き残った奏子
は、自分ひとりが生き残ってしまったことに対する罪悪感のような
感情が植え付けられてしまい、カウンセリングに通って、その心理
療法も終わり、大学では友達も恋人もできて、といった中で、都築
が「なぜお父さんとお母さんと2人の弟を殺した」のか、その動機、
経緯を知り、さらに、都築には事件当時11歳の娘がいたことも知り、
ふと奏子は、その娘に会いたくなります。

都築の娘に会いたい理由、それは復讐なのか、それとも・・・

前半に比べて後半が弱い、というのは、正直いって「ミステリやサスペ
ンスの定石」に比べて、ということだと思うのです。
何でしょうね、野球でもサッカーでもいいですけど、前半早々に、思わず
飛び跳ねたくなるような素晴らしいプレーで得点が入って、それから試合
終了までその虎の子の1点を守る側、攻め続ける側、ロースコアで終わった
としても、これは歴史に残るゲームだった、というのはあるわけで、バカスカ
点の取り合い、あるいは9回裏の逆転サヨナラホームランだけが感動では
ない、ということですね。


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