晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

和田竜 『村上海賊の娘』

2017-05-21 | 日本人作家 ら・わ
読書が習慣となって趣味といえるようになった頃は
「文学賞を受賞したからといって必ずしも面白い
わけではない」などと、イキがった大学生のような
スタンスでしたが、やがて蔵書が百、二百冊と増
えていくと「なんだかんだいって文学賞を受賞した
作品は面白い」と心境の変化が。

中でも『このミステリーがすごい!』大賞と本屋大賞
は、本屋に行きますと、受賞作を優先的に探します。

『村上海賊の娘』は、2014年第11回本屋大賞の受賞作
で、第35回吉川英治文学新人賞も受賞。

たしか、この本が発売されて話題になったちょっと前に
国際ヨットレースの「アメリカスカップ」があって、
それを見てたときに「例えばこれ日本チームのクルーが
村上水軍の末裔だったらどうなんだろう」などと考えて
たちょっとあとにこの本が話題になってなんとなく個人
的に「おおー」なんて思ったのを思い出しました。

さて、この「村上海賊」ですが、起源は平安時代と古く、
彼らのホームタウンならぬホーム「シー」は瀬戸内海。

「因島村上」「能島村上」「来島村上」と三家に分かれて
いて、因島と来島は広島の戦国大名、毛利家の実質支配下
にありましたが、能島だけはどの大名の下にもつかず、
この地域の「海賊」といえば、能島村上家のことを指して
いたとか。

織田信長がいよいよ天下統一に向けて、プロ野球でいえば
優勝マジックが点灯といった状態。
そこで、信長は、大坂の一向宗の本願寺の立地の好条件に
目をつけ「ここを城にしたいからお前ら出てけ」とジャイアン
ばりのことを言ってきます。

出て行かないので、信長は無慈悲にも本願寺を兵糧攻め、
つまり周りを囲って食料の供給ルートをストップさせて、
降参させるという戦略。

そこで、本願寺門主の顕如は、まだ信長の支配下になって
いない広島の毛利家に物資の援助を要求。その量なんと
お米を十万石。今でいうと1万5千トン。
普通に考えて陸路で運ぶには困難で、じゃあ船でとなり、
村上海賊の手を借りることに。

ですが、本願寺を助けるとなれば、つまり毛利家は信長
の敵ということになり、それはまずいということで、もう
ひとりの天下統一の有力候補、上杉謙信が一向宗の味方
になって、謙信は北から、毛利は西から本願寺に向えば
いいと考え、ひとまず謙信の出方を待つことに。

能島村上家の当主、村上武吉の娘、景(きょう)は、
「悍婦(かんぷ。気性が荒い)にして醜女(しこめ。美人
ではない)」と評判で、背も高く色黒で、嫁の行き先
が決まらず、この海域を通る船から通行料を取る(仕事)
をしています。
ある怪しい船が通り、景はその船を止めると、乗っていた
少年が「こいつらは悪いやつだ」と叫びます。
景に歯向かってきた男らはあっという間に退治され、船内
にいた人たちを助けます。

彼らは(門徒)という一向宗の信徒で、大坂本願寺がピンチ
なので救援物資を積んで大坂に向かっている途中でした。

この門徒の中の老人が景のことを「見目麗しき姫」と言う
ではありませんか。当時の女性の美の基準といえば、小柄で
色白で、顔はのっぺりであっさり。景はというと、顔の彫り
が深く、目鼻口がハッキリしていて、大柄で浅黒い、つまり
(南蛮系のルックス)なのです。

老人の話によると、難波の南、泉州の堺は貿易港で、南蛮船
も出入りしていて、泉州に行けば、あなたは美人扱いですよ
と言われて、景は、そんなパラダイスがこの世にあったのか
ということで、勝手に門徒を大坂に送りに行きます。

難波海(現在の大阪湾)では、本願寺の兵糧攻めで海上から
木津川を通って兵糧入れをさせないため、泉州の武士たちが
船で海上封鎖をしています。
その陣頭指揮は、この地域の海賊、眞鍋家の当主、七五三兵衛。

景の乗った船は、難波海に入って、本願寺側の木津砦に向か
おうとすると、織田方の船が止めに入ってきますが、話し合い
どころか、景はいきなり織田方の武将、原田直政の首を斬って
しまい・・・

「えらいこっちゃ」と慌てふためく七五三兵衛。ですが数秒後
には「ま、ええわ」と恐ろしい気の変わりよう。

原田の首を斬ったのは、聞けば瀬戸内海の海賊(村上海賊)
の姫というではありませんか。そしてその姫は、なんという
ことでしょう、スーパー美人ではありませんか。

景は、門徒を送り届けただけで、ぶっちゃけ本願寺がどうな
ろうと知ったことではなく、なんだかんだで織田方の対本願寺
の前線基地である砦に行くことに。
今まで、いわば(海賊ごっこ)しかしてこなかった景は、ここ
大坂で、ホンモノの戦を目の当たりにします。

景に、どのような心境の変化があったのか。

そして、毛利家と村上海賊は、兵糧を運ぶことになるのか。

まず、和田竜さんの作品で面白いのが、登場人物の会話。
なんというか、いかにも時代劇といった口調ではないところが
たまらなく魅力なのです。

もっとも、五百年前の日本人の口調の音源なんてありませんし、
ましてや聞いたことあるなんて人もいませんので、書き言葉と
話し言葉にどのくらい違いがあったのか、言語学や歴史学に
詳しいわけではありませんが、まあ極端に言えば外国映画の
字幕とか吹き替えのような感じでしょうか。

読んでいてずっと気になったのが、景のルックス。
「美の基準の違い」でいうと、真っ先に思い浮かんだのが
アメリカのドラマ「ビバリーヒルズ青春白書」のドナ役
の女優、トリ・スペリング。
初期「ビバヒル」のファンは、まあ大抵がケリー派かブレンダ派
で、「俺はドナ派」という人は、日本人には少なかったのでは
ないでしょうか。
今にして思うとケリーは高慢ちきでブレンダは幼児性むき出し、
「いちばんいい子」はドナだったような気がします。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 佐伯泰英 『吉原裏同心(二... | トップ | 宇江佐真理 『おはぐろとん... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

日本人作家 ら・わ」カテゴリの最新記事