毎日のように私の帰り道を狙って
しつこくカツアゲをする黒猫、『ポー』。
その妹なのか、同じ黒猫で小振りな雌猫まで従えている時もある。
黒くて丸い背中が二つ、私の視線に入ると
つい、ゴソゴソと鞄の中に忍ばせている撮影料を探してしまう。
最近、その黒猫『ポー』のように
人間にも待伏せされるようになった。
しかしその人物の目的は、カツアゲではなく
「自分の話を聞いて欲しいだけ」…らしい。
私よりは歳は若いが、30代の女性で
ひょんな事から、恋愛相談をしてきた。
出会ったばかりだというのに前職でいじめられていた話や
聞いてもいないのに、転々と職を変えてきた自分の過去話をしてきた。
とにかく、自分の話しかしないタイプだ。
この辺で警戒した方がいい人物だと気付けば良かったのだが
行き掛かり上、やむなくメール交換をしたら
毎回、ホラーなメールが送られて来るようになった。
その人物を知る上で、一番簡単な質問がある。
それは「あなたは、何故働くのか?」というものだ。
確かにその「人となり」を知るには
こういった質問が効果を発揮するので、
企業面接では「志望動機」というものを尋ねるのだろう。
しかし事前に用意された回答には、
本音は見えないものでもあるのだが…。
この趣旨の質問を、興味本位で何気なく彼女にしてみた。
「今の職場、パートだし収入少ないんですよね。
他に掛持ちの仕事とかしてるんですか?」
「実家暮しで生活は出来るので他に仕事はしていないし、
探してもいない」と悪びれた様子もなくケロリと答えた後
聞いてもいない自分の妹の話や、年下の意中の彼の話を続けた。
彼女としては仕事なんかはどうでも良く、
そのお相手とさっさと結婚し、家庭に入りたいという
思惑が垣間見えてしまい、引いたのだ。
その日、『ポー』はいつも待っている定位置の
塀の横に停めてあるバイクの上で
マッタリとした顔で振り向いた。
いつも猫が居る塀の上には、何の鳥かは判らないが
羽毛らしきものが散乱していた。
狩りが成功して腹一杯だったのだ。
野生の動物には「別腹」がない。
腹が一杯の時には獲物が前を通ろうが
全く興味を示さない。
相手をしてくれない『ポー』を尻目に、歩いて帰る私は
くだらない相談をしてくる彼女や、
それを突き放せないでいる自分よりも
自立している猫の方が遥かに素敵に思えて仕方なかった。
昨日は?位
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昨日は?位
←感謝、感謝でございます。