一週間前に公園へ行った時、『直人』が駐輪場で蹲っていたので暫く一緒に遊んでいると、
何処から見ていたのか「私も入れて!」とばかりに『茜』がやって来た。
でも、いつも懐こい『尚人』の姿が見えなかった。
また一週間が過ぎて、同じ道を通って買い物へ行った。
公園へ差し掛かると、『直人』が訳知り顔で私の前を横切った。
後を追うと、何処から聞こえるのか猫の鳴き声がする。
そこには、団地の通風孔に迷い込んで出られなくなった『尚人』がいた。
暗闇の中から『尚人』は必死にSOSを発していた。
鉄格子の隙間に、誰かが猫缶を押し込んだ後が残っていて少し安心した。
持っていたドライフードを隙間から指で摘んで一個一個押し込んでやる。
慌てて食いつく『尚人』に指ごと噛み付かれたりした。
噛まれた指よりも、胸が痛かった。
一体何時からここに居るのだろう…
急いで友人にメールで応援を頼む。 「面影」に登場した獣看護学生の彼女だ。
直ぐに返信が入り、翌日は雨の中、二人でご飯を食べさせた。
明日は学校が休みなので、彼女が様子を見に行ってくれるとの事。
そして翌日には団地住人の連絡で、公団と業者の方が来て鉄格子を切り、
『尚人』を出してくれたと彼女からの報告が入った。
人の勝手で拾われては、また捨てられて、
寒さしのぎに入り込んだ先は、出口の無い牢獄。
それでも鳴き続けた『尚人』は今、自由を謳歌し元気に走り回っている。
親友の手による冤罪で牢獄へ送られたエドモン=ダンテスは、復讐の旅へ出た。
猫もいつか復讐の旅に出るのだろうか。
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『尚人』の保健所行きを見逃してくれた公団のSさん、
脱出の状況報告をしてくれた友人のHさん、
鉄格子を切ってくれた業者の方…本当に感謝です。