心の端に何故だか引っ掛かる映画を撮る監督って
いつもクリント・イーストウッドなんだよな。
勿論、俳優としてのクリント・イーストウッドも大好きなんだけど。
(一番好きなのは「グラントリノ」)
その中でも異質なのは「MYSTIC RIVER 」。
公開後に一度観たんだけど、初回は何の引っ掛かりもなく
救いのない暗い後味の映画だなと思っていたのですが…
テレビのロードショーでやってたのをもう一度観たら
理解できなくて結局、もう一回観ました。えっと、何回観たんだっけ?
でも、何だかもやもやして原作の小説を読んでみました。笑。
「ミスティック・リバー」デニス・ルへイン著
この映画って本当に原作に忠実に作られているんだと感心しました。
ただ、映像で数秒で伝えられる事と小説で何行も使って説明できる事って違うんだよなぁと
改めて思ったり、色んな発見があったので原作本、読んだ方がより楽しめます。
以下ネタバレしますので、ご注意下さい。
一言でいい現すなら、
「アメリカン・シェークスピア」だってイーストウッド監督も言っていた通り、
アメリカ版悲劇のシェークスピアかもなぁ。「ハムレット」であり「マクベス」であり
「オセロー」か「リア王」か、「ロミオとジュリエット」の香りもするのです。
決して、映画のキャッチコピーで使われていた「スタンドバイミー」ではないと思うのです。
物語は既に知っている方も多いと思うんですが、
大まかに言えば、11歳の3人の少年(デイブ・ジミー・ショーンの3人)が通りで遊んでいると
警察のふりをした2人組の男にデイブだけ連れ去られ監禁される。4日後に逃げ出して助かるが
事件に関わった3人の少年には心にそれぞれの傷が残る。25年後、成長し家庭を持った彼らが
1つの殺人事件によって引き寄せられる。
1人は被害者の父(ジミー)として、1人は刑事(ショーン)として、1人は容疑者(デイブ)として。
映画の配役もさることながら、子役の子達も凄く似てて良くぞ見付けたって感じの子なので驚きました。
子供時代のセリフも素晴らしく、キチンと描き分けられていて
子供の頃から悪ガキのジミーと、親の言い付けには要領良く従うショーン、
ジミーの真似っこばかりの無邪気なデイブ。
でも、そんなに仲がいい訳でもなく住んでいる場所や親の職場の繋がりなんかで
子供時代の交友関係は決まっていくもの。
ジミーがどさくさに紛れてショーンのグラブを盗む場面が小説には入っているんだけど
映画では省かれています。それに、ケイティの元彼の話とショーンが謹慎明けという設定も
さらっとカットされてました。
小説では犯人が誰なのかより混乱させる為に描かれているのでしょうが、
映画では細かく描いていては時間が足りないですし。
ジミーの次女の初聖体のシーンでは教会だし
「意志を感じない十字架」がドンとしかも沢山意味もなく過剰に出てくる。
このシーンの十字架は物語としてあって当たり前の場所。
でもこの映画では、罪の象徴として十字架が意図的にあちこちに配置されていてこの演出は見事でした。
デイブを誘拐したもう一人の男の指に光るリングの模様(デイブの誘拐)。
シレステがテレビのニュースを見てる部屋の壁(夫の嘘と殺人事件を結び付けた瞬間)。
ジミーの背中のタトゥー(最初の殺人と二回目の殺人)。
十字架の大きさが罪の大きさ、十字架の画像の鮮明さを罪の明確さを表しているのなら、
誘拐犯の指輪が小さいが鮮明で、シレステの背後の壁にある十字架は中位の大きさのピンボケで、
ジミーの背中のタトゥーが主役である限りピントもあっていて一番大きい。
ジミーの二番目の奥さんの名前がアナベスってのも「マクベス」っぽい。
ショーンの姓もデヴァインって「神々しい」って意味もあるそうで
刑事である彼の名前が神ってのも何だか象徴のような暗示のような。
ショーンがケイティの遺体を発見した時のセリフが、
「なぁジミー、神がお前の借りを取り返しにきた」と。
このお話には「口が利ける筈なのに喋らない人物」が二人出て来るのですが、
その理由についてショーンの相棒のホワイティ刑事部長がセリフの中で言い当てています。
「話し掛けて欲しいのさ」と。
ショーンの妻はショーンに、ブレンダンの弟レイはブレンダンに。
ケイティの恋人役のブレンダンの顔も何で彼女がこの子を好きになったのか分かる位、
お父さんのジミーに面影が重なるから、その辺は計算に入れて選んだんだろうな。
毒気のないジミー(ショーン・ペン)に似てて良い子っぽい。
ホワイティ役のローレンス・フィッシュバーンは、確かシェイクスピアの
「オセロ」に主演してたような…色んな意味で洒落が効いた配役です。
本を読んだ後、映画を観た後に、何だか端切れの悪さやモヤモヤを感じるのは
仕方のない事かも。だって悲劇だもん。
人を殺すのは悪い事だし、許される事ではないんだけど
罪ごと丸飲みのアナベスの愛は自分が男だったら欲しいかも。
愛する者を守る為に罪を犯し、愛する者を守る為に嘘をつき、
疑う事、信じる事、復讐する事、許される事、
正しさも、罪も、
全ては奇妙に、残酷に絡まり、川の中に沈んでいく。
長々、お付き合い下さりありがとうございました。笑。
クリント・イーストウッド様のことは、
監督的にも俳優的にも人間的にも、尊敬しお慕い申し上げておりましたので、
今回の「ミスティックリバー」ご紹介は感激の極みです!
しかもliliyさんが原作を読まれて、映画作品と対比してくださったのが有難い。
彼の映画は、大作でもなく大スター勢揃いでもないのに、
味わい深く人間性に溢れ、新作も必ず見たくなります。
この映画の原作本、本当に良く描かれていて感動しました。確かに暗い内容ではありますが、人間の深い部分にスポットがあたる人間観察の極みみたいな作品でした。